伊藤忠商事は生物多様性の保全を目的とした活動の一環として、NPO法人と組んで絶滅危惧種であるアオウミガメの保全活動を行っている。海岸の開発による砂浜の減少や、混獲、海洋ゴミの誤飲なども起きており、事業とアオウミガメの生存は深く関わっている。(オルタナS編集長=池田 真隆)
生物多様性の保全は、持続可能な開発目標(SDGs)で定められた重点課題の一つである。グローバルに事業を行う同社は、地球環境や社会課題への対応を経営方針の最重要事項のひとつとして捉え、サステナビリティ推進基本方針の中で「生物多様性及び生態系の保護」などに配慮した事業活動を推進することを定めている。
2009年度から2015年度までマレーシアでオランウータンも生息するボルネオ島北ウルセガマの森林再生プロジェクトを行い、2016年3月からはブラジルで京都大学野生動物研究センターと国立アマゾン研究所が進めるアマゾンの熱帯林における生態系保全プログラムの一環であるアマゾンマナティーの野生復帰事業の支援を始めた。
国内では、2016年度から認定NPO法人エバーラスティング・ネイチャー(以下ELNA)を通じて、絶滅危惧種に指定されているアオウミガメ保全活動の支援を継続してきた。2016年には、近隣の小学校や社員家族を対象とした「夏休み環境教室」にて水槽を本社に運び込んでアオウミガメを実際に見せながら、その生態を子どもたちに教えた。そして今年8月末には、社員自身の本取組への理解促進のため、日本最大のアオウミガメ繁殖地である小笠原諸島・父島の現場へ行く社員ツアーを実施した。
絶滅危惧種のアオウミガメは生物多様性の保全において重要な存在である。海草や海藻類を主食とするため、藻場の健全な育成に寄与している。海と陸を行き来するため、海中の栄養塩や有機物を陸上に運ぶ役割も果たす。
そんなアオウミガメだが、実は子ガメから大人になるのは、1000頭中わずか2~3頭に過ぎない。砂浜でふ化するが、カニや鳥などに食べられてしまう。しかし、アオウミガメが大人になるまでに潜む危険はそれだけではない。
人間の活動も大きく影響している。ふ化したばかりのアオウミガメは海の光を頼りに、砂浜を歩く特性を持つが、海岸の開発によって、電気の光を海の光と勘違いしてしまう。
海ではなく、道路に出てしまい、その結果、車に轢かれてしまう事故が起きている。さらに、砂浜での工事が進むことで、砂浜が減っており、そもそもアオウミガメが産卵する場所がなくなっているのだ。
魚を獲るための網に引っかかってしまう混獲、人が捨てたビニール袋などの海洋ゴミの誤飲も起こっている。胃の中から膜状プラスチック、プラスチック片、漁網、ロープ、時には金属片などが出てくるという。
今回の保全ツアーに参加したのは、同社の社員ら10人。世界自然遺産に登録されている小笠原諸島は「東洋のガラパゴス」とも言われており、唯一の交通手段「おがさわら丸」で東京の竹芝桟橋から南に1000km、24時間かかる。ELNAが運営する小笠原海洋センターでアオウミガメの生態について詳しく教わったあと、子ガメの放流や、光害のない場所に卵を埋めかえる卵の移植などを行った。
参加者を受け入れた認定NPO法人エバーラスティング・ネイチャー 小笠原事業所 所長の若月 諒介さんは、「アオウミガメが産卵に戻ってくるまで、30~40年かかる。保全活動を組織として継続できるように、若い人にもアオウミガメという絶滅危惧種について知ってもらって、保全活動につなげる道筋を作れたら」と話した。
同社のエネルギー・化学品事業統括室に勤める髙橋(蓬田)翼さんは夫妻で参加した。海洋ゴミによりアオウミガメに害があると言われていて心が痛む部分もあり、アオウミガメの保全について理解したうえで商売をしたいと考えたのが、このツアーへの参加理由だ。
髙橋さんは、「こんなにアオウミガメと触れ合えると思っていなかった。イルカと泳いだりもできたので、動物を身近に感じることができた。生物多様性への取り組みは社会に対する見本としてやっていかないといけないと感じた」と感想を話した。
情報・金融事業・リスク管理室に勤める前田 葉子さんご夫妻は「社会貢献活動の意義から始まり、アオウミガメの放流まで体験でき有意義だった。母ガメが産卵の為、再び海岸へ戻るまで40年と伺って、こうした活動は継続して行わなければならないと感じた。機会があればまた参加したい」と話した。
同社では、今後もアオウミガメ保全活動の支援を通して、SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」(海洋生態系の保護)と15「陸の豊かさも守ろう」(生物多様性損失の阻止)に寄与していく。