その昔、アイヌ民族からは「コタン・コル・カムイ(森の守り神)」として崇められたシマフクロウ。1970年の高度経済成長期、自然が姿を消し、住処を失ったシマフクロウの数は、なんと70羽にまで減少し、絶滅危惧種となりました。「シマフクロウを、幻にしてはいけない」。1990年代、シマフクロウに魅せられた一人の青年が東京で職を辞し、単身、北海道に移住。現在に至るまで26年間、シマフクロウの保護に携わってきました。今、シマフクロウを取り巻く自然はどうなっているのか。シマフクロウを見つめ続けてきたその人に、話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
北海道にのみ生息する「シマフクロウ」
日本では、北海道にのみ生息するシマフクロウ。その保護・保全や啓発活動に取り組む「特定非営利活動法人シマフクロウ・エイド」(北海道)代表の菅野正巳(すがの・まさみ)さん(57)は、30歳の時たまたま手にしたシマフクロウの紀行文がきっかけでシマフクロウに魅せられ、「野生のシマフクロウが見たい」と当時働いていたアメリカの放送局の東京支局を辞職、北海道に移住したという経歴の持ち主です。
菅野さんによると、シマフクロウは、世界的に見ても北海道近辺にのみ生息するフクロウの一種。成鳥すると、羽を広げて全長は180cm、体重は3〜4kgほどになるのだそうです。
「夜行性で魚が主食のため、英語の名称は『Fish Owl』。30年ほど生きる。1回の出産で、条件が良くて2羽生まれるが、繁殖の頻度は個体差があり、毎年繁殖する個体もいれば、3、4年に一度繁殖する個体もいる」
日本での生息数は現在たった170羽。豊かな自然の回復が望まれている
シマフクロウが暮らすのは山奥ではなく、人間が生活するすぐ近くの森。その森の中を、彼らははるか上空を飛ぶのではなく、樹間を移動して生活するのだそうです。
「そのため、かつては森でつながっていて現在は道路となっている場所では、人間の生活範囲とバッティングすることがしばしばあり、交通事故死や感電死といったリスクと隣り合わせ。現在、シマフクロウは日本に170羽ほどしか存在しないため、1つの個体が死ぬということは、ものすごく大きなインパクトを持つ。また、残念ながら人間による繁殖妨害によって、親鳥が子どもを育てるのをやめてしまうというケースもある」と菅野さん。
そもそも、ここまでにシマフクロウが減ってしまったのには、1970年代の高度経済成長期が影響していると指摘します。
「シマフクロウの住む森は、人間が手をつけやすい場所にあった。開発により木が伐採され、河川環境が悪くなり、それによって主食である魚が減り、1970年代にその数は70羽まで落ち込んだ」
「日本に古くからある自然は、すべてがつながっていて、森や川、土、海、互いの恵みがぎゅっと詰まって循環していた。広葉樹から落ちる虫を魚が食べ、その魚をシマフクロウのような鳥が食べる。大雨が降っても澄んで濁らず、干ばつでも枯れない川は、自然の蓄積の賜物」
「リンやカリウムなどは、森が蓄えた栄養が地下水として川に流れ出て、里を伝いやがて海に流れていくが、この自然の循環がないと、地域の生態系の向上はないし、シマフクロウが生きられる環境もない。循環がどこかで途絶えると、少しずつ生態系が破壊されてしまう」
環境破壊により、人間のサポート無しには生きられない現実、給餌も大切な日課
シマフクロウが住処としていたのは、まさに破壊された森でした。
「シマフクロウは、こういった自然の恵みがある森で命を育んできた生き物。しかし、主食を採る川は汚れ、魚は消えた。新たな命を育むための自然の大木は、切り落とされてしまった。長い年月をかけながら、元来そこにあった森が消えていくのと一緒に、シマフクロウも、その姿を消した」
そのため、シマフクロウに生きた魚を給餌することも、菅野さんたちの日課の一つ。
「以前のように自然に河川から魚を捕るということはできないので、人工池に活魚を放して、毎日餌に困らないようにしている。シマフクロウは夜行性の生き物だが、子育て期間中は昼間でも捕食にやってくるので、いつでも食べられるようにしながら、他の捕食動物に餌が取られてしまわないよう、モニタリングして柵を設けたり、シマフクロウが来るタイミングを狙って池を開けたりと、手間をかける必要がある」
「ただ、これはあくまで緊急避難的な作業。近くの河川に魚がいれば、こんなことをする必要はない。一刻でもはやく自然河川の環境が戻ってくることを願って、地元の方たちと協力しながら、シマフクロウが暮らせる森と川、など生態系のバランスのとれた環境を取り戻す努力が何より必要だと痛感している」
本来あった自然を取り戻すため地元の人たちとの連携にも力を入れる
緊急的な支援を行う一方で、シマフクロウが生きられる豊かな自然を取り戻すために、地域の人たちや行政、企業、団体等とも協力しながら、環境の保全にも力を入れています。
「シマフクロウの生息地を守るための環境保全は、あまりにも広範囲にわたるため、我々だけではどうがんばってもやりきれない」と話すのは、シマフクロウ・エイド事務局長の菅野直子(すがの・なおこ)さん(50)。代表の菅野正巳さんとは、公私にわたってのパートナーです。
「環境を原資としている地域の農業従事者や漁業従事者、行政や企業と協力する必要があるし、何よりも、地域に暮らす住民一人ひとりの意識が変わらないと、自然は変わっていかないし、持続可能にならない」
「『このままでいいんだろうか』『本当はこうした方がいいんじゃないだろうか』という意識は、実は皆さん、少しずつ心の中にあると感じている。そんな声を少しずつ集め、横のつながりを作りながら、ここにあった自然を取り戻していくために、啓発活動にも力を入れている」
「野生の力を、信じるべき」。シマフクロウからのメッセージ
「正直、保護や給餌をしながら、それがたとえシマフクロウを守るためだとしても『これを自分たちの代がやめてしまったら、途端にシマフクロウは減ってしまうのではないか』とどこかに後ろめたさがあった」と、菅野正巳さん。しかし最近、シマフクロウの天然木の繁殖を見つけて、意識が変わったといいます。
「シマフクロウはもともと、樹齢3、400年の大きな大木の洞に巣を作る。フクロウ類は、カラスやスズメのように自分たちで巣を作るわけではなく、木を利用した二次的な巣で子育てをするが、大木がほぼ切り倒されてしまったことから、現在は人工の巣箱による繁殖がほとんど」
「しかしある時ふと、天然木の巣を見つけた。そのことにも驚いたが、ここにいたつがいの足環から戸籍情報を調べてみたら、どちらも人工の巣箱で育ったシマフクロウだった」
「人工の巣箱で育っても自然の中で繁殖することができるんだとわかって、本当に嬉しかった。補助的なことをするだけで、シマフクロウたちは十分自立できるんだということ、野生の力を信じるべきなんだということを、強く感じさせられた」
「現在は人工の巣箱も給餌もまだ必要な状態だが、やがて自然が戻ってきた時、彼らはまたその自然へと還っていける力がある。必要最低限のところだけサポートしながら、その間に、彼らが暮らすことができる森を育てていきたい」
森が戻るその日まで。シマフクロウの命をつないでいくため、彼らに食料(活魚)を届けるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は「シマフクロウ・エイド」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×シマフクロウ・エイド」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、シマフクロウの餌となる活魚購入の資金となります。
「シマフクロウは生きた魚しか食べないため、餌代は決して安くない。1羽あたり、1日の食費は700円。チャリティーアイテム購入のたびに、シマフクロウ1羽に1日分の食事を提供することができる」(菅野さん)
JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、愛らしいシマフクロウと、シマフクロウを支える自然の森や川、そして生き物たち。何一つ欠けてはならない自然の循環の尊厳と、その中で生きる、小さくも尊い命の輝きを表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、9月10日〜9月16日までの1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、お二人へのより詳しいインタビューを掲載中!菅野さんがシマフクロウに魅せられ、その保護に携わるようになった経緯や、豊かな自然の中で生きるシマフクロウの姿を紹介しています。こちらもあわせて、チェックしてみてくださいね!
・絶滅危惧種「シマフクロウ」と共存できる、豊かな自然を取り戻す〜NPO法人シマフクロウ・エイド
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年9月で、チャリティー累計額が2,500万円を突破しました!
【JAMMIN】
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