思春期から青年期にかけての若年女性が罹患する確率が高い摂食障害。発症理由は人によってさまざまで、育った環境や心理的なもの、過激なダイエットなどいろいろな要因が相互に作用して起こると考えられています。摂食障害について、そしてこの病気からの回復について、考えたことがありますか?(JAMMIN=山本 めぐみ)

摂食障害から回復し社会復帰するためには、地道な努力と周囲からのサポートが必須です。しかし一方で、拒食症に限っていえば死亡率は精神疾患で一番高いにも関わらず、社会の認知がまだまだ低く、対策が不十分であるといいます。関西では唯一の、摂食障害の人に特化した事業所を運営するNPOに話を聞きました。

■食べることが難しい「摂食障害」とは

京都を拠点に活動する「NPO法人SEEDきょうと」は、関西では唯一の摂食障害者に特化した事業所「プティパ」を運営しています。摂食障害について、スタッフの東希美(ひがし・のぞみ)さん(29)に聞きました。

お話をお伺いした東さん(写真右下)。「プティパ」のスタッフの皆さんと

「摂食障害は主に神経性やせ症(拒食症)・神経性過食症(過食症)・過食性障害のこと。神経性やせ症は二つのタイプがあって、ただ食事をとらない『摂食制限型』と過食嘔吐する『過食・排出型』がある。『過食・排出型』の場合は、嘔吐のほかに、浣腸や下剤、利尿剤の乱用など、あらゆる手を使って食べたものを排出しようとすることがある」

「神経性過食症の場合は、やせ願望があり過食行動や嘔吐や下剤等の乱用、過剰な運動といった体重増加を防ぐための代償行動が週に1回以上あることが診断基準で、過食性障害の場合は、週に1回以上の過食行動が3ヶ月以上続くけれど、代償行動や肥満恐怖がないことが診断基準となっている」

■食べることへのこだわり

「SEEDきょうと」では、毎年、摂食障害に関する講演会「拒食・過食を乗り越えて」を実施している

一方で「摂食障害者は、食べ物や食べること自体に嫌悪感がある方ばかりではない」と東さんはいいます。

「原因は人によってそれぞれだが、食べることへのこだわりをもっている方が多いように思う。『食べる=太る』と考え、太ると自己否定的な気持ちになり、『自分は価値のない人間だ』と考えてしまう」

「体重を落とすことで快感を得られたり、体重が少しでも落ちていないと不安になったりということもある。カロリーのことを常に考えていて、『許可食』と言って自分の中で食べてよい物とそうでない物を区別していたり、食べられないけれど頭の中は食事のことでいっぱいで、過食して吐くことを繰り返す過食嘔吐が定着することも」

「摂食障害の人たちは、自己肯定感が低く、他者からの評価を気にしたり、自分と他者とを比べたりして、自己否定的になりがちな人が多いように思う」と東さん。

周囲から見れば明らかに痩せていても、「他人と比べて自分は太っている」と感じ、痩せていても「まだまだ太っている」と感じ、過食嘔吐や拒食に歯止めが効かなくなるといいます。

心の回復と社会復帰が同時に目指せる場を

「プティパ」の休憩スペース。作業に疲れたら休んだり、居場所として過ごしたり、利用者同士が交流するための場所。光がほどよく入りリラックスできる空間

「報道などを見ていると、つい摂食障害の原因探しをしたがる傾向があるように思う。しかしそれをふまえて、今何をしたらいいのか、どうしたらいいのかを一緒に考えていきたい」と東さん。「SEEDきょうと」は、2013年の8月に、町屋の一軒家を借り、摂食障害者の回復に特化した通所施設「プティパ」をオープンしました。

私が取材に訪れた日は、施設利用者とスタッフの皆さんで10月に開催されるイベントのチラシの発送作業中でした。皆さんリラックスした表情でお仕事されているのが印象的でした

「施設開設の背景として、全国各地に摂食障害の当事者やその家族の方の自助グループや支援団体はいくつかあるが、通所施設は全国的に見てもほとんどない状態。『SEEDきょうと』は、医師をはじめとして、京都で摂食障害診療に携わる医療福祉関係者が当事者とその家族のために立ち上げた団体。そのノウハウとネットワークを活かしながら、当事者の回復と社会復帰に向けて、摂食障害の知識と理解を持つ専門家がリードしながら、共に一歩を踏み出していく場」

■姉の不安障害、母のパニック障害…。休まらなかった家庭で、過食がストレス発散に

当事者の方たちは、どんなことがきっかけで摂食障害になったのか。どんなことを感じているのか。ここからは「プティパ」を利用する当事者の方にお伺いしました。

Aさん(22)は5年前、17歳で摂食障害と診断され、今年の8月からプティパに通所しています。彼女が摂食障害と診断された背景は、家族の不和がありました。

パソコンに向かい作業するAさん

「中学校1年生の時に、ダイエットをしたことがきっかけで自分の体重を気にするようになった。中学2年の時、当時高校3年生だった姉が不安障害になり、家庭内の雰囲気が変わりはじめた」

「中学3年生になった時、姉は実家を出て、パニック障害の母、認知症で寝たきりの祖母、常に酔っ払っている父と4人で生活をすることになった」
「受験のノイローゼや部活内のゴタゴタを抱えながら、家庭でも気が休まらない状況。姉がいなくなったことで孤食(独りで食事をすること)が進み、しだいにお菓子などをご飯がわりにするようになっていった。そこから、ストレスが溜まると過食したり、嘔吐したりするようになった」

「摂食障害でいちばんつらいことや、つらかったことは?」と聞くと、次のような答えが返ってきました。

「自分の意思で食欲をコントロールできず、食べ過ぎたり、吐いたりしてしまうのがつらい。過食するようになってからは、太っている姿を人に見られることがひどくつらく感じて、引きこもるようになってしまったことや、摂食障害を父親に理解してもらえず、差別するような言動を受けたり、怒られたりしたこともつらかった」

現在は、定期的なカウンセリングを受けたり、プールに通ったりするなどして回復に向けて努力しているというAさん。プティパに通うことで、精神の安定や安心感を得ているといいます。

「プティパ」に入ってすぐの場所には、当事者の方たちが手作り雑貨や小物類が並ぶスペースが。色とりどりのかわいらしいアイテムが並ぶ

「働くことに対する不安を、一人で抱えなくてよくなった。毎日することがあるということが心の安定につながっているし、それを一つひとつこなしたり、身につけられたりしていることが、自信にもつながっている」

「ここに来て同世代の人や、同じ摂食障害の人と話すことができ、自分以外の人の考えを聞くことができるのが新鮮」

■体重が戻ってきた頃が一番つらい

一方で、摂食障害の回復の難しさを、東さんは次のように指摘します。

「極端な話をすると、体重が落ちて入院している時は、生きるか死ぬかの状況で、体重を戻すのに精一杯の状況。入院や通院である程度体重が戻ってくると、語弊があるかもしれないがそれまではしなくても許されていたことや、向き合わなくてもよかったこと、仕事や対人関係など、社会との接点を持たなければならなくなる」

「つまり、体重が増えてきた時のほうが、体重が増えたことでの不安や気持ちの揺れに加え、葛藤状況にさらされる機会も増えるので精神的につらい部分がある」

2018年10月7日(日)に京都市生涯学習総合センターにて開催される「拒食過食を乗り越えて Part11」のポスター。プロフィギュアスケーターの鈴木明子さんを迎え、摂食障害と回復について考える

「これまでのように食べ吐きしても、その時は一時的にスッキリするかもしれないが、それが続くと罪悪感に押しつぶされそうになったり、まただんだん痩せていって、また入院して…ともっとしんどくなることもある」

「『食べ吐きをやめるように』と言われて、これまでしがみついていたものを手放した時、他に支えとなるものや対処方法をもっていないと、抱えている葛藤をどこにぶつけたらいいのか、わからなくなってしまう」

「摂食障害が再発したり入退院を繰り返したりする人の中には、このように体重が戻る中で、そこに心がついていかず、再び拒食や過食の症状がでてきてしまうというケースもある」

「通所して、自分の存在を認められる体験や、食事以外で自分が思いをぶつけられる何かを見つけて欲しい。現実からちょっと遠のきたい、と思ってまた拒食や過食に走ってしまうことがあるが、そこに頼らずに、誰かに相談し話し合いながら、解決の糸口を見つけ、自信をつけていってほしい。何かできた時、その手柄をきちんと自分のものにしていってくれれば」

摂食障害の人たちが作ったアクセサリー販売を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は「SEEDきょうと」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

「JAMMIN×SEEDきょうと」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、「プティパ」で当事者が制作したアイテムをマルシェなどで定期的に販売するための費用になります。

2018年9月音楽イベントに出店した際の1枚。「他の出店者さんから色んな刺激をもらうこともあり、大切な機会」と東さん

「プティパ」では、当事者がアクセサリーや小物を作りながら、心の回復と社会復帰を目指しています。これらを定期販売できる場を作ることで、当事者一人ひとりが刺激を受け、成長や自信につながると東さん。京都市内で開催されるマルシェ出店の費用を集めます。

「JAMMIN×SEEDきょうと」1週間限定のチャリティーアイテム。ベーシックTシャツのカラーは全8色、価格は3,400円(チャリティー・税込み)。他にキッズ用TシャツやAラインTシャツ、マルシェバッグなども販売中。写真は七分袖Tシャツ

JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、絵本の表紙のような世界。たとえ小さな一歩でも、その一歩が、やがて明るい未来へつながるというメッセージを表現しました。チャリティーアイテムの販売期間は、9月17日~9月23日までの1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、より詳しいインタビューを紹介中。こちらもあわせて、チェックしてみてくださいね!

摂食障害の人が症状を回復しながら、社会とつながれる場所を〜プティパ(NPO法人SEEDきょうと)

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年9月で、チャリティー累計額が2,500万円を突破しました!

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