昨月、フィリピン・セブ島を拠点に現地の支援活動をした学生団体FESTの別所梨央君(中央大学商学部2年)に寄稿してもらった。FEST は「世界から向こう見ずな支援(一方的な支援やニーズに即していない支援など)を無くす」というビジョンを掲げている団体である。活動内容について報告してもらった。(寄稿・別所 梨央=中央大学商学部2年)

私たちはフィリピン・セブ島を拠点に年に2回渡航し、現地で活動している。ビジョンの達成に向けて、学生目線で「最良の国際協力を探求、実行、啓発」することを使命、ミッションとして学生の国際協力の限界に挑戦している団体である。

私たちはミッションの達成に向けて、住民のニーズを基にして、彼ら彼女らを主体に据えたプロジェクトを構築している。現在は、アナックとカタンと呼ばれる2つの支援地を持っており、私は前者の地域で活動をしてきた。

アナックはセブ市の中心地から車で30分ほど離れた地域で、およそ30世帯の住民が暮らしている。「Anak」は現地語で「子ども」を意味している。その名の通り子どもがとても多い場所だ。

ここでは洪水や低所得などの様々な問題が山積している。私たちは、これらの問題解決の一助となれるように、2つのプロジェクトを展開している。1つ目は LIVELIHOODプロジェクトだ。

個々の住民の所得向上を目指したものである。私たちは第一に住民主体が達成されるよう住民の間でオフィサーと呼ばれる代表グループを選出し、オフィサーを中心に私たちと住民が協力し合ってプロジェクトの運営をした。

参加住民はそれぞれのビジネスを持ち、そこから利益を出して生活の向上を目指している。ビジネスの例はサリサリと呼ばれるローカルな、焼き鳥やバナナ揚げを路上で売ったり、オンラインで服を売ったりするビジネスなどである。

これらのビジネスが失敗した際の住民の負担を最低限にすべく、FEST は補助金を住民に渡し、プロジェクトに参加する住民に対して、生計向上のためのスキルトレーニングを行っている現地の行政機関と協力したセミナーを企画した。

FEST の住民との関係構築への取り組みや住民のプロジェクトへの努力もあり、現在はほぼすべての参加住民の利益がそれぞれの目標金額に達した。

現在は2つ目のプロジェクトの water-supplyを展開している。このプロジェクトはAnakでは洪水がよく起こること、また井戸の数が少ないことから、安全な水を手に入れにくい状況が頻繁に起こる。

そのため、住民の持つ井戸の上にポンプやタンクなどを整備し、各家庭に安全な生活用水が届くことを目的としている。資金などは返済期間を決めたのちに無利子で貸し出され、2018年夏までに一定額を住民間で集められた場合、プロジェクトを進行し建設を進めるというものであった。

住民主体の達成のため、住民による計画書の作成、オフィサーの決定、オフィサーの主体的活動(ミーティングの開催や資金の回収など)をしている。またプロジェクトの失敗を防ぐため、返済能力があるか確認することや、プロジェクトの円滑な進行ができるかどうかの判断などのリスク管理を徹底していた。

しかしこの私たちが渡航をする夏は雨が多く降る時期で、洪水が頻繁に起きてしまっていた。家の中まで水が入ってしまうことや、普段使う道が膝まで水で浸かってしまうなど、洪水は生活環境に多大な悪影響を及ぼしていた。

私たちは洪水が今回のプロジェクトに及ぼすネガティブな影響に対してのリスク管理を事前に持つことはできなかった。それは予測不足の部分や期間的・資金的アプローチができなかったからである。

そのため、water-supply プロジェクトは資金回収の未達成、住民のモチベーションの低下などから、続行は不可能となってしまった。そこで洪水の解決を住民から新たなプロジェクトとして提案されたが、その提案された手法は洪水の問題の根本的解決ではなく、一部地域の一時的解決を図るものであった。

長期的支援になってしまう問題、資金をだれがどこまで出すのかなど、 FEST の理念である住民主体を高めるような解決法ではないと判断したため、そのプロジェクトは行わないことをアナック班は決定した。

私は、住民たちとの繋がりを強く感じることができた。2回目の渡航にもかかわらず、住民たちはとても温かく迎えてくれた。プロジェクト外ではご飯を作ってくれたり、世間話をしたりして、楽しい、また行きたいと思う空間がそこにはあった。ふとした時に気づいたのは、住民達はよく笑っている。それを見るとこちらも自然と笑顔になっているのだ。

しかし住民が洪水によって苦しんでいる現状を目の当たりにしながらも、FEST の目指す最良の国際協力である「住民が主体的に問題の解決に取り組み、幅広い選択肢を持つこと」を達成できないという壁や、学生団体であるがための資金の問題により支援することができないのは、とても悔しい結果である。

そもそも私が国際協力をしようと思ったきっかけは、まだ幼い私が、自分の住んでいる環境が当たり前だと考えていた頃であった。メディアなどで同じ年くらいの子どもや大人が、私から見ればまったく異なった大変な環境で生活し、苦労している姿を見たこと、またそれを何とか支援しようと自分のできる範囲で奮闘する人を見たからである。

私は大学に入ってからこの FEST の「向こう見ずな支援を無くす」という、国際協力に真剣である姿勢や考えに深く感銘を受け、自分にできることを探そうとこの団体で活動している。

実際に FEST で活動をし、こういったアナックでのもどかしい現状を目の当たりにして、住民の自立(住民が様々な問題に対して、自分たちだけで様々な解決策を持てるようにする)の支援を達成するのは、果たして参加型開発のような手法が適しているのか、また単なる資源移転で住民自立の目標は達成されるのか、まだまだ学ぶべきことは多い。

期間や資金の限られている学生団体がこのような支援、またはその支援の効果測定をするのは難しい。私たちが「最善な」支援を見つける日は遠い。

ではこのような問題に対し、どのように個人として、FEST として取り組んでいくのだろうか。住民にとって「最善な」支援とは。まだまだ先の見えないこの問題に私は不安と、何とかして解決したいという意欲でいっぱいである。


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