「HIV/エイズ」について、皆さんどんなイメージを持っていますか?「一度感染してしまったら、死んでしまう病気」――そんなイメージを抱いている方も少なからずいらっしゃるのではないかと思います。
しかし現在、HIVの治療は進化を遂げ、早期発見と治療によりそのリスクは最大限に下げられることが明らかになっています。しかし一方で、HIV/エイズへの社会の偏見や差別は依然として残ったまま。HIV陽性者やその家族をサポートするNPOに話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
早期発見と治療により、老後を考えられる時代に
「NPO法人ぷれいす東京」(東京)は、HIV陽性と診断された人やその家族・周囲の方々へ、対面や電話による相談サービスや当事者同士が集まれる参加型プログラムの運営といった直接支援をはじめ、HIVの啓発・予防、調査・研究などを行っている団体です。
代表の生島嗣(いくしま・ゆずる)さん(60)によると、近年のある調査では、HIV陽性者とそうではない人との平均寿命は6〜7年ほどしか変わらないという結果も出ており、HIV陽性者が、病気とつき合いながらも長生きできる道が開かれてきているといいます。
「1996年ごろから非常に効果のある治療薬が登場し、亡くなる方は激減しました。現在、ガンなどの合併症によって亡くなるというケースはありますが、HIVで命を落とす方は非常に少なくなってきています。早期発見と適切な治療が、リスクを減らしてくれるのです」
「デンマークの調査では、HIV陽性者とそうではない人との寿命の差は6〜7年という結果で出ています。他の国の調査では、もっと年齢差の少ない結果も報告されています。早期に治療を始められれば、HIV感染がわかっても、老後を考えられる時代になってきているのです」
自分の感染に気づいている人は、全体の7~8割
HIVと付き合っていくためには、何よりも早期発見と治療が重要だと生島さんは指摘します。
「『エイズ』は『後天性免疫不全症候群』という病気の名前で、『HIV』はウイルスの名前。国によって診断の基準は異なりますが、日本では免疫力が低下した時に起こる23の症状が出た時にエイズ(発症)と診断されます。免疫力が下がると、体の中にある健康な時にはなんともない常在菌が悪さをして、いろいろな症状が出てきます」
「HIV感染したばかりの時期に、6〜7割の人にインフルエンザのような症状が出ると言われていますが、症状から感染を見わけることはできません。予防のない性行為がある場合は『HIVに感染しているかもしれない』という可能性を念頭において、早めに検査を受け、感染の有無を確認することが大切です。早期発見をして治療をするということが、非常に大きなメリットになるからです」
しかし、毎年新たに1,400人前後がHIV感染の事実を知るという現在、HIVと診断される人のうち、自ら感染を疑い保健所や検査所などで結果を知る人の割合は全体の3〜4割で、残る6〜7割の人たちは体調不良などで一般の病院を訪れた際に、予想しないかたちで感染を知ると言います。
また、日本国内で自分の感染に気づいている人は、患者全体の7〜8割だと生島さんは警鐘を鳴らします。
「つまり、残る2〜3割の人たちは、自分の感染に気づいていないため、知らないうちにHIVの感染を広げてしまう可能性がある」
服薬により、ウイルスは「検出限度以下」にまで下げられる
「検査を受け、早期に感染がわかる人、そして治療を開始する人をいかに増やすかが、感染のリスクを下げ、社会にとってもすごく重要であると指摘されている」と話すのは、ぷれいす東京事務局の佐藤郁夫(さとう・いくお)さん(59)。
佐藤さんは21年前、1997年にHIV陽性と診断された当事者です。現在は服薬を続けながら、16年連れ添ったパートナー(HIV陰性者)と共に、穏やかで充実した人生を生きています。
「私たちは『U=U、検出限界以下は、感染しない』という世界的なキャンペーンに賛同しています。『検出限界以下(Undetectable)=非感染(Untransmittable) (U=U)』は、HIVに感染しても適切な治療(服薬)を続け、血液中のHIVウイルスが検査でも見つからないレベル(検出限界以下)になれば、他者に感染させるとことがないという意味です」
「この数年、いくつかの国際的な研究によって、このU=Uの科学的エビデンスが確認されました。ヨーロッパで実施された調査では、HIV陽性者とHIV陰性者のカップル888組を複数年にわたり観察したところ、コンドームを使わない性行為があったにもかかわらず、パートナー間での感染はゼロでした。検出限界以下の状態を半年以上維持できれば、パートナーへの感染はないと考えられています」(生島さん)
つまり、HIV感染のリスクが高いのは、HIV陽性を自覚して治療している人たちではなく、自分の感染に気づいていない人たち。「どんな町に住んでいる人でも、HIVを身近に考えていくことが大事」と生島さんは話します。
「病気と共に生きる人生があると思えたら、意識も変わるのでは」
HIV陽性者として、顔と本名を公開して活動を続けている佐藤さん。その理由を、聞いてみました。
「病気になるのは誰でもショックですよね。でも、どんな病気もそうですが、その先に病気とともに生きる人生があると思えたら、見る目が変わるんじゃないかと思っているんです」
「個人個人のHIVに対する偏見が、検査を受けることを止めていたりもします。検査をする人が増え、治療をする人が増えれば、周りに感染する確率も減ります。いかにHIVに対する偏見を減らし、どうしたら社会に受け入れてもらえるかを考えた時に、顔を出し、声を出して幸せに生きているという姿を見せることが、HIVへの偏見や不安を少しでも和らげることにつながるのではないかと思って、顔を出して活動しています」
一方で、時には差別や偏見に苦しむこともあるといいます。
「HIVの治療自体は、ほとんどお医者さんが管理・処方してくれるので大きな不安はありませんが、普段の生活で、風邪をひいたり、骨折したりすることも当然ありますよね。こわいのはむしろそこで、一般の医療機関でHIV陽性だと伝えると、ひどい扱いを受けることもあります。医療関係者に、HIVが正しく理解されていないという現実は、正直あります。偏見を乗り越えて、『HIV陽性だよ』というカミングアウトがあった時に『そう』と受け入れられる。そんなことが普通になる日が来てくれたら」
HIVへの差別や偏見をなくす活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、ぷれいす東京と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×ぷれいす東京」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、HIV/エイズへの差別や偏見を減らしていくために、HIV陽性者の声を中心としたWEBコンテンツを制作するための費用になります。
「私たちは感染がわかって6ヶ月以内の人たちのサポートグループを運営し、これまでに500人以上がこのプログラムを卒業していきました。彼らの声をWEB上で可視化できれば」(佐藤さん)
JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、“We’re already living together”、「HIVを持っている人も、そうでない人も、どちらか分からない人も、私たちは、もうすでに一緒に生きている」というぷれいす東京のメッセージ。
“LIVING”の最初の”I”の文字に、虫眼鏡が乗っています。ここにはHIVの検査を受けることが”I”=自分自身を見つめることにつながるという意味と、自分を知ることがHIV/エイズへの差別や偏見をなくすことにつながっていくという意味が込められているのと同時に、虫眼鏡のレンズが”O”の文字の役割も果たしていて、“We’re already loving together”という隠しメッセージも含まれています。
チャリティーアイテムの販売期間は、11月26日〜12月2日までの1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、生島さんと佐藤さんへのより詳しいインタビューを掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・HIV/エイズのこと、正しく知って。HIV陽性者がありのままに生きられる社会を目指して〜ぷれいす東京
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年9月で、チャリティー累計額が2,500万円を突破しました!
【JAMMIN】
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