4月を迎え、新入社員として会社に入った人や新入生として大学に入学した人、はたまた働く環境を変えた人がいるだろう。新しい環境に一歩を踏み出したあなたへのエールとして、インタビューで聞いたリーダーの格言を紹介したい。紹介するのは、「マイクロピエゾ」方式のインクジェットプリンターを開発したことで知られ、「プリンターの父」と呼ばれるセイコーエプソンの碓井稔社長の言葉。「強みは永久に強みではない。市場からの洗練を恐れないで」と話す。(オルタナS編集長=池田 真隆)

セイコーエプソンの碓井社長 (写真:高橋慎一)

私は1979年に信州精器(現:セイコーエプソン社)に入社してから、開発の仕事に従事してきました。技術者として働いた経験を振り返ると、「一つの課題を解決しても、新たな課題が生まれてくる」ということが分かります。

課題を解決するために技術を磨き続けなくてはいけません。そのために大事なのが、お客様が本当に求めていることに気付き、ニーズに合った技術を使うということです。

私が入社した当初は、電子卓上用プリンターの設計開発を行っていました。上司から「音がうるさいから静かにしてくれ」と頼まれ、動作音測定用の部屋で3カ月ほどかけて、モーターや歯車の精度を調べたりしていました。

そのときにあることに気付きました。プリンターでは、ハンマーで紙を打ち付けて印字していたので、原理的にうるさくなってしまう。そこで、電卓から紙が排出される場所に紙を固定する機構をつけるようにしたことで、音の問題を解決したのです。

その課題は使っている人にとって、本当に課題なのかと考えるようになりました。上司の言われた通りにしているだけではいけません。与えられた課題の意味を突き詰めていくことで、ミッションを越えた働きができるようになります。

課題の意味を突き詰めるためには、お客様が使っているシーンを具体的に想像することです。一番いけないのは、「新しく開発した技術はこういう使い方がいいはずだ」と独りよがりに決めつけてしまうことです。お客様が「こう使いたい」と思う「夢」の共有を通して、自分たちの強みを生かしてほしい。

また、技術を進歩させるためには、市場からの洗練は欠かせません。お客様からのご指摘や競合他社との切磋琢磨の末に磨かれます。完璧なものなんて最初からは作れません。

つまり、強みは永久に強みではないのです。時代とともに変わるし、変えていかないといけないのです。(談)

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