武蔵大学社会学部メディア社会学科松本ゼミでは、春休みにフィールドワークを行い、学生たちが地方新聞社などを取材した。近年、若者の新聞離れが叫ばれているが、「新聞の若者離れ」も起きている。地方紙は存続をかけてどのような戦略を取るのか。第一弾として、愛媛県松山市に本社を置く愛媛新聞社を紹介する。

愛媛新聞社社屋(愛媛県松山市)

愛媛新聞社は、1876年(明治9年)の創刊以来、多くの地域住民に親しまれてきた歴史ある新聞社である。明治期には、松山出身の俳句・短歌の名人である正岡子規の活動を数多く取り上げて掲載をしていたという。若者への取り組みとしては、新聞社の社員やOBなどが新聞の作り方を教えに行く「出前講座」を実施しており、昨年は年間で169回も開講した。(武蔵大学松本ゼミ支局=岸川 詩野・武蔵大学社会学部メディア社会学科3年)

愛媛新聞本社を訪れると新聞社のキャラクターである「ピント」が出迎えてくれた。名前の由来は、「耳をピンと立てて情報をキャッチし、いま世の中で起きていることにピントを合わせる。ピンと背筋を伸ばし真摯な姿勢で取り組む。そして、ピンとひらめく」だという。

愛媛新聞社キャラクター「ピント」

今回の取材にあたり、愛媛新聞社の社員である水口重仁さん(地域読者局次長・読者部長)、奥村健さん(メディア推進局メディア開発部副部長)、清原浩之さん(地域読者局販売部部長)の3名に愛媛新聞社の活動について話を伺った。

はじめに、紙媒体の新聞の販売部数の推移や購読者層の変化について清原さんに伺った。2006年下期に32万部あった新聞発行部数が、2018年下期には22万8000部ほどに減少したという。

その理由として、愛媛県も他の地方の例に漏れず年間1万人ほどの人口減少が起きているほか、スマートフォンの急速な浸透により情報を得る手段が多様化したことが背景にあるのではないかと語った。

新聞の購読中止の理由の中には顧客の高齢化も大きく関連している。このため、新聞紙面の文字を拡大して印刷したり、一行15文字だったものを12文字に変更したりするなど多くの人が読みやすい新聞づくりに注力しているという。

愛媛新聞社は、1996年に新聞社のサイトの立ち上げを行った。現在ではそのサイトを中心に様々なデジタルメディア事業を展開している。デジタル事業に関して、奥村さんに話を伺ったところニュースの速報性が求められるようになった近年は、その日に起きたニュース記事を同サイトに10本ほど掲載しているという。

愛媛新聞のサイトでは、サイト内の「アクリートくらぶ」に無料で会員登録することで、愛媛新聞社がサイトに掲載したニュース記事を全文閲覧することが出来る。さらに「アクリートくらぶ」に登録することで愛媛県内の約600店の加盟店で割引などの優待サービスも受けられるという。現在の会員数は3万3300件ほどである。

取材に応じた愛媛新聞社社員(左:水口重仁さん 中央:清原浩之さん 右:奥村健さん)

また、経済情報のみを扱った有料サービスである「E4(イーヨン)」では、愛媛新聞の情報だけでなく愛媛県の経済情報を扱う会社と提携して情報発信をしている。

2014年には、愛媛新聞の電子版事業がスタートした。これは愛媛新聞の電子版を紙媒体の新聞と同様の金額で購読出来るようにしたもので、電子版のみの購読者は現在200人ほどだという。また、「アクリートくらぶ」に加盟している紙媒体の新聞購読者は電子版も追加料金なしで閲覧でき、この会員数は2万500件ほどである。

そのほかのデジタルメディア事業戦略については、様々なサイトに新聞社の記事を掲載している。その一部を挙げると、若者を中心に利用者が多い「LINE NEWS」に1日1回、「YAHOO!ニュース」には1日10本記事を投稿し、より詳しい情報を知りたい読者はリンクから愛媛新聞のサイトにアクセス出来るようになっているという。

収益については、サイトの広告収入と「E4」などの有料サービスの配信料を見込んでいるが、長期的に収益を安定させるためにも若い世代の読者の興味を惹きつけることや日常生活に密接に関わりが深いサービスと関連付けて多くの人々にアクセスしてもらう必要があると奥村さんは語る。

愛媛新聞社は県のスポーツ推進に注力していることもあり、地域の人々がスポーツ関連の情報をデジタルメディアで発信できるような仕組み作りを進めてきた。具体的には、2017年の愛媛国体の際に国体関連の情報を住民が自由に発信できるサイトの運営を行ったことが挙げられる。

紙媒体の新聞の発行部数が減少する中で、新聞を直接読者に届ける販売店の維持や新聞社としての新たなビジネスモデルの構築が求められる。

販売店での新たな取り組みに関して、清原さんに話を聞いた。販売店が組合を作り警備保障会社のアルソックとの共同事業で「みまもりサポート」を行い、新聞の販売網を活かして乳製品の配達や、高齢者の生活の手伝いを30分500円で行う「まごころサポート」などにも着手している。

しかし、これらの事業は新聞社本体の収益に大きく結びつくようなものではないため、現在は愛媛新聞社の認知度の向上や顧客との関わりを深めるために行っているという。(乳製品の配達と「まごころサポート」は試験的にそれぞれ1店舗のみで運営)

新聞社の教育分野での取り組みに関して、2009年に「新しい読者を育てる委員会」を発足させ新聞の将来を担う子ども達に新聞について学んでもらうために「もっと新聞キャンペーン事務局」にて様々な企画を行っている。

この事務局の大きな取り組みの一つとして県内の学校に新聞社の社員や元記者のOBなどが新聞の作り方を教えに行く「出前講座」がある。この講座は、昨年2018年の1年間で169講座を開講している。

また、県内の高校性が新聞記者として新聞を作成したり、愛媛CATVのリポーターとしてスポーツ、芸能、自分たちの周りの出来事などを発信したりしながらメディアについて学ぶ「発信!高校生記者」の活動のサポートも行っている。彼らの記事は、「愛媛新聞ONLINE」から見ることが出来る。

愛媛新聞社での取材を通して、時代の流れに合わせたデジタルメディア事業や、将来の新聞の担い手を育成するために子ども達にメディアを学んでもらう活動にとても注力していることが分かった。これらは紙媒体の新聞の発行部数減少や若者の新聞離れが進む中でとても効果的な活動であると感じた。

また、高齢者の生活の手助けをする「まごころサポート」や住民の生活をより良いものにする情報やサービスがつまった「アクリートくらぶ」は、住民との距離が近い地域新聞社ならではの活動であると思った。これからの地方紙のあり方を考える上で、愛媛新聞社の活躍に注目していきたい。


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