「ドラッグによって制御の利かなくなった息子を泣く泣く殺した母親もいる」――そう話すのは、長年ロヒンギャで薬物問題に取り組んできた非営利団体NOGOR代表のラシド氏だ。2017年8月に起きた大虐殺を機に、ロヒンギャの薬物中毒者は激増。ドラッグに手を伸ばす背景には、大虐殺で負った心理的外傷(トラウマ)や薬物の「運び屋」として利用され、手に入りやすくなったことなどがある。7歳の子どもも中毒者になってしまうまでに広がる薬物問題を追うために現地を訪れた。(寄稿=小西 遊馬・慶応義塾大学総合政策学部2年)

NOGOR代表のラシド氏。多くのロヒンギャ活動家に話を伺うも、口を揃えて「ロヒンギャに薬物中毒の心配はない」そう口にする。/photo taken by 綿谷達人

ロヒンギャに薬物が広がった原因についてラシド氏はこう話した。2017年8月以降、難民の数が急激に増加したことで、国境警備隊や検問パトロールの取り締まりも強化された。そこで、薬物組織は隣国ミャンマーからロヒンギャ難民を利用して薬物を運ぶようにした。その結果、ロヒンギャは容易に薬物が手に入る環境になってしまったという。

そして何より、同年の大虐殺で負ったトラウマが、薬物中毒者への道を加速させていると訴える。「家族や隣人を目の前でレイプ、斬首され、全てをなくした彼らが負った心の傷は、とてもすぐに癒えるものではない。キャンプ内では仕事が禁じられ、やることも未来もない。彼らのトラウマ、そしてこうした状況が薬物中毒者を激増させている」(ラシド氏)。

月に20人近くの薬物中毒者が施設に送られる。なかには小さな子どもも/ photo taken by 綿谷達人

しかし、真の問題は薬物中毒そのものではなく、中毒者が巻き起こす悲劇にあると筆者は考える。ラシド氏からも、ドラッグによって家族を売り飛ばしたり、殺害したりした中毒者の話を聞いた。

世界の多くの凶悪犯罪は、薬物中毒者によって行われていることを忘れてはいけない。現段階でも、「テロの温床」「我々も同じく貧しい、なぜロヒンギャだけ」と、現地人の不安や不満は小さくない。

そこで、もし仮に、ドラッグ欲しさにロヒンギャ薬物中毒者が、キャンプ外のバングラディッシュ人に危害を加えたらどうなるのだろうか。ロヒンギャのミャンマー強制送還の確率は格段に高まり、彼らは行き場を失うだろう。

ロヒンギャの人身売買の問題においても、上記した通り、人身売買を促進しているものの一つに薬物中毒が含まれることは、疑いようのないことだ。

いま直面している薬物問題は、今後のロヒンギャの行方を大きく左右する。

NOGORは非営利団体として活動しており、貧困から、ドラッグ、人身売買、食品衛生など幅広くバングラディッシュ人、ロヒンギャへの支援を行う非営利組織。2001年の設立から計3支部まで広げ、バングラディッシュ中で活動しています。現在急激な薬物中毒者の全てに対応できるほどの資金がない状況です。個人、団体共々ご支援をしてくださる方を募集しております。詳細は下記SNSで筆者宛、または、団体へ直接ご連絡くださると嬉しいです。
HP:http://www.nongor.org

筆者プロフィール:小西遊馬 Konishi Yuma
慶應義塾大学総合政策学部2年
「社会をよりよくを、誰もが憧れる“かっこいいに”」をテーマに、二人組のジャーナリスト、“レッツコニー”として活動中。インドのスラムや売春窟、台湾の環境汚染など、様々な社会問題をテーマに調査し、自身のSNSを中心に発信している。
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