医療の発達に伴い、小さな命が救われ、障がいがあっても自宅で生活できるようになりました。医療的ケア児(生活に医療的ケアを必要とする子ども)は、全国に19,000人いるとされ、その数はこの10年で10倍にも増えています。一方でこういった子どもを預けられる施設はまだ少なく、母親や家族が閉鎖的な環境で子どもの介助をしている現状があるといいます。重度障がい児の居場所と母親の社会参画、両方をかなえたいと設立された施設を紹介します。(JAMMIN=山本 めぐみ)

重度障がい児とその家族、それぞれが自分らしくあれる空間

Buranoを利用する子どもとその家族。重度障害児とそのお母さん、きょうだいも笑顔になれる場所づくりに取り組んでいる

茨城県古河市にある「Burano(ブラーノ)」。デイサービスとして重度障がい児を預かるだけでなく、同じ建物内に母親が集まって働けるコワーキングスペースを備え、子どもを見守りながら、同時にお母さんたちが仕事を通じて社会とつながる場所を用意した施設です。

建物の中にはきょうだいのためのスペースも設けられており、重度障がい児・お母さん・きょうだい、それぞれが分断されることなく、同じ空間で楽しめるよう配慮されています。

「子どもに障がいがあったとしても、自分らしさを忘れないでほしい。どう生きるか、何をしたいか、自分で選択していく中でその人本来のカラーが生まれてくる。選択できない社会なのだとしたら、そこを変えていかなければならい」。そう話すのは、この施設を運営する一般社団法人「Burano」代表理事の秋山未来(あきやま・みく)さん(35)と、秋山さんの夫であり理事の政明(まさあき)さん(34)。

お話をお伺いしたBuranoの秋山政明さんと秋山未来さん夫婦

重症心身障がい児や医療的ケア児といった重度障がい児を対象にした多機能型デイサービス「titta(チッタ)」と、重度心身障がい児の母親をはじめとした家事や育児に制約を受けがちなお母さんたちが集まり、仕事ができる「kikka (キッカ)の二つの事業を行う施設を、2018年8月に日本財団の援助を受けてオープンしました。

吹き抜けのスペースで同じ空間を過ごせる

Buranoの内装。天井が吹き抜けになっており、開放的なスペースだ

2階建ての一軒家をまるまる改装したという施設の最大の特徴は、吹き抜けの天井。1階と2階が2.5畳の吹き抜けでつながっていて、開放的な空間になっています。

「1階にケアが必要な子どもたちと看護師さん・保育士さんがいて、その真上、2階でお母さんたちが働いています。1階で子どもたちが遊ぶ音や2階のお母さんの笑い声がお互いに聞こえるような空間になっています。2階にはきょうだい児が遊べるスペースもあります」と政明さん。

仕事する未来さんの隣で、息子の晴くんも遊びに熱中

「重い障がいのある子どもたちは、声を大きく発さないことがほとんどです。こうやって吹き抜けから階下が見えるので、お母さんたちも子どもの様子を見ながら安心して仕事に集中できるようです。きょうだいの遊び声が聞こえるのも、お母さんはもちろん、障がいのある子どもたちにとっても安心できるのではないでしょうか」と未来さん。

また、子どもの面倒を見るために自宅にいる時間が圧倒的に長くなりがちなおお母さんたちを思い、窓を大きく作り、外の光がたっぷりと入るような空間づくりにもこだわったといいます。

重度障がい児を持つ母親の現状

日常の一コマ。お母さんもきょうだい児も、皆が笑顔になれる場所

秋山さん夫婦がBuranoをスタートさせたのは、今年3歳になる息子が医療的ケア児で生まれたことがきっかけでした。

「重度障がい児を持つお母さんは、時間や場所に大きな制約を受けます。急な発作や体調変化などもあるので、常に子どもを見守りながら、体調が落ち着いている時にしか自分の時間がありません。そのため本人に働きたい気持ちがあっても、時間と場所の関係で働くことは現実的ではなく、次第に『働く』ことが選択肢から外れていってしまいます」

「未就学の子どもたちは保育園も幼稚園も様々な理由から断られてしまい、ほとんどの場合、ほぼ24時間体制でお母さんが自宅で面倒を見ているのが現状です。働くことはもちろん、買い物をしたり、美容室へ行ったり、自分の時間をとることさえ難しい状況」と政明さん。

思い思いにクレヨンでお絵かき

「重度障がい児が育つ環境を少しでも楽しいものにしたかったし、たとえ障がいを持って生まれてきたとしても、お母さん、きょうだいの未来をポジティブなものにしたい。そんな思いから、『重度障がい児の預かり』と『お母さんの社会参画』という二つの事業を一緒にするようになりました。障がいのある子どもが生まれてきたことをプラスに変えて、世界を切り拓くきっかけにしてほしい」と施設への思いを語ります。

クラウドソーシングを活用、それぞれのペースでの仕事が可能に

建物の2階がお母さんたちの働くスペース

お母さんたちの社会参画について、Buranoではクラウドソーシング(インターネットを通じて不特定多数の人に業務を委託すること)の会社から直接仕事を受け、これを分配するかたちで事業を行っています。具体的にはデータ入力や文字起こし、原稿チェックなどの仕事を、お母さんたちに業務委託というかたちで取り組んでもらっているといいます。

「一旦仕事を覚えたら、いつ、どこからでも仕事ができる。時間と場所の制約を超えて働くことができるので、障がいのある子どもがいるご家庭でも自分のペースで継続的に仕事を続けてもらうことができます」と未来さん。さらに子どもを持つお母さん同士が共に働くことで、障がい者への理解が深まるきっかけも生まれつつあると期待を寄せます。

「ここでは重度障がい児のお母さんだけでなく、健常児のお母さんも働いています。健常児と重度の障がい児ではどうしても子どもの話題にも違いが出てくる部分があります。両者にとって当たり前があまりに違うし、健常児のお母さんにとっては障がい児がまだまだ身近ではない分、関わり方もなかなかわからない部分があると思います。でも、仕事ということでいえば話題が共通していて、仕事を通じて関わり合っていく中で、深くつながり、互いを認め合い、障がいをもっとフラットに理解し合える場になるのでは」(未来さん)

きょうだい児へのサポートにも力を入れる

Buranoは、きょうだい児同士がつながれる場所でもある。施設の中で遊ぶきょうだいたち

もう一つBuranoが力を入れているのが、きょうだい児へのサポートです。

「障がいのある息子が生まれてから、先に生まれた娘がこの先苦しむことになってしまうのではないかということが見えてきた」と政明さん。いろいろと調べていくうちにきょうだい児支援の大切さにたどり着いたといいます。

「障がいのあるきょうだいがいることを人に言えないという気持ち。プレッシャーや心の苦しさを感じていても、親がそれに気づき、接する余裕がなかなか持てない難しさ…。様々な課題を知り、難しい問題だと感じると同時に、長いスパンで見た時に、きょうだい児への支援が非常に大切だと感じた」という秋山さん夫婦。Buranoでは、障がいのある子どもとそのお母さん、きょうだい児も対象にしたイベントを定期的に開催し、家族で一緒に楽しみ、またきょうだい児同士がつながれる場づくりにも力を入れています。

「きょうだいに障がいがあると、どうしても分断されることが多くなります。大学病院に行けば、小学生以下の子どもは、感染対策という理由できょうだいのいる病室に入ることはできません。一緒に何かをしたりすることも難しいので、ここでは同じ空間で、様々な出来事を共有できることを意識しています」(政明さん)

社会を変えるきっかけを

Buranoの理事も務める美容師のお母さんが、寝たきりの子どもたちのヘアカット。カットからシャンプー、ブローで仕上げて気持ちもさっぱり

「息子が生まれた時、妻が選択肢を制限しなければならないような状態になり、『それでいいんだっけ?なんとかしたい』と思ったことが、活動のきっかけ」と政明さん。「重度の障がいがある子どもが生まれても、やりたいことを選択できる。どんな状況であっても、一人ひとりが『選択できる』社会をつくっていきたいと思っていて、Buranoがそれをかなえる一つのきっかけになれたらと思っています」と今後の活動への思いを語ってくれました。

Buranoの活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、Buranoと1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します「JAMMIN×Burano」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、Buranoが夏に開催する医療的ケア児や重症心身障がい児とそのきょうだいや家族も一緒に楽しめる「キッズフェス」に必要な資金になります。

「一般的なお祭りは医療的ケア児や重度心身障がい児のことを考えられて開催されているものではなく、横になれるスペースや医療機器をつなぐ電源などもないので、健常児しか遊ぶことができません。そうではなく、健常児の子どもたちも障がいのある子どもたちもごちゃまぜで遊べる場所を作りたいと思っています。誰もが参加できるワークショップや触ると動くプロジェクションマッピング、リハビリなどのプログラムを考えています」(未来さん)

「JAMMIN×Burano」1週間限定のチャリティーアイテム。写真はベーシックTシャツ(全11色、チャリティー・税込3,400円)。他にもボーダーTシャツやキッズTシャツ、トートバッグなどを販売中

コラボデザインに描かれているのは、大小様々なかたちをした家。団体名の由来でもあるイタリア・ブラーノ島の街並みを描きました。カラフルな色の家が建つブラーノ島には、個性的な街並みに惹かれて多くの観光客が訪れます。ブラーノ島のように、たくさんの人が色とりどりの個性を訪れる場所にしたい──。団体のそんな思いを表現したデザインです。

チャリティーアイテムの販売期間は、5月6日~5月12日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページではインタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

重度障がい児とそのお母さんやきょうだいが同じ空間を過ごし、自らの意志で「選択」できる社会を目指して〜一般社団法人Burano

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。創業6年目を迎え、チャリティー総額は3,000万円を突破しました。

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