「ディスレクシア」をご存知ですか?知的に問題がないものの、読み書きに関して特徴のあるつまずきや学習困難を示す症状で、外部からは判断しづらく、また日本ではまだまだ認知が低いため、日常の生活で困難を強いられることがあるといいます。しかし一方で、人知れずディスレクシアに悩んでいる人は多いといいます。「ディスレクシアが活きる社会」を目指して活動するNPOの代表らに話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

■人口の10%ほどいるとされるディスレクシア

一人ひとり症状や文字が読みづらい理由は異なるが、ディスレクシアの人たちは、基本的に「音韻」に問題を抱えているという ©NPO EDGE

お話をお伺いしたのは、「ディスレクシアの全ての人が活き活きと暮らせる社会」を目指し、ディスレクシアの正しい認識の普及と支援を目的に活動する「NPO法人EDGE(エッジ)」(東京)代表の藤堂栄子(とうどう・えいこ)さん(65)と、企画・コーディネートを担当する娘の亜美(あみ)さん(33)。

ディスレクシアは、LD(学習障害)の一種とされ、読み書きに困難を伴うという症状があります。人によって程度の差はありますが、ディスレクシアの人たちが共通して抱えているのは「音韻」の問題だといいます。

藤堂栄子さん(左)と、藤堂亜美さん(右)。ディスレクシアの有名なアーティストVince Lowさんの絵画を持って。描かれているジョン・レノンもまた、ディスレクシアだったと言われている

「文字と、その音とを結びつけて操作する力が弱い。たとえば『りんご』という文字が書かれているとする。この時、通常の働きであれば、脳の中では様々な部位を使い『りんご』の文字を『りんご』の音だと認識する回路があるが、ディスレクシアの人たちはここがうまく機能せず、『り』の文字を見て『り』という音だということを認識するのに時間がかかってしまう」

「一人ひとり症状や文字が読みづらい理由は異なるが、ゴシック体や明朝体などフォントの差で文字を識別しづらかったり、また『わ』と『れ』、『く』と『へ』、『し』と『つ』など、文字の角度の問題で、分別が難しいということもある」と藤堂さん。日本ではまだ認知度は低いですが、統計によっては、人口の10パーセント程の人たちがこの症状を抱えているという結果が出ているといいます。

60歳でディスレクシアと判明

藤堂さん自身、ディスレクシアと判明した一人。47歳の時に息子さんがディスレクシアだとわかり、症状が似ていたことから「もしかすると自分もそうではないか」と感じていたといいます。

スマホの文字読み上げアプリや音声入力ツールを使って、紙面の内容理解メモやメール、スケジュール管理を行う藤堂さん。ディスレクシアの人たちにとって、スマホは他にも、行き先の記録やコミュニケーションツールとしても使うことができる

「電車やバスに乗る時、書かれている行き先が瞬時に読めないのでいつまでたっても乗車できなかったり、乗車しても書かれている降車駅の名前が読めずに降りるべきところがわからなかったりといったことが何度もあった。ほかにも、電話口でメモをとると違うように書いていたり、待ち合わせの日付や時間を間違えたりといったこともある。大人のディスレクシア検査をしてくれるところが無く、60歳になってはっきりディスレクシアだとわかった」と振り返ります。

藤堂さんが携帯している「ヘルプカード」。「これを使って読み書きの手伝いを依頼できる。このカードがあれば、役所や銀行などの窓口での記入時に、ストレスが10分の1になる」と話す

「ディスレクシアの症状が、仕事に影響を及ぼすこともある」と話すのは、娘の亜美さん。

「ディスレクシアの人の中には、数字の識別に問題を抱える人もいる。母はそのパターンで、生年月日や今日の日付、電話番号を間違えることがある。こういった症状があると、仕事はできても日々の報告書がめちゃくちゃで、仕事をしていないと思われてしまったり、接客の仕事で『これをください』とメニューを見せられても読み間違えてオーダーをとってしまったりといったことが出てくる」と指摘します。

学校の授業は、ディスレクシアの人たちにとって大きな壁

ディスレクシアの人は音声化された情報の方が理解しやすいことがある。また、教科書を見ながら音声を聞くことで文字と音と意味が繋がることもあるという。EDGEでは文部科学省より委託を受け、国語と社会の教科書の本文を中心に文字を音声化したもの(音声教材『beam』)を、ディスレクシアを含むLD、学習に困難を持つ児童生徒に無償で提供している

60歳でディスレクシアだと判明するまで、理由がわからず人と違うことに悩むことはなかったのか?藤堂さんに尋ねてみました。

「父親の仕事の関係で、10年ほど海外で生活をしていたこともあり、帰国して入った学校では日本語の読み書きがあまりできなかったが『帰国子女だからしょうがない』とクラスメイトたちみんなが助けてくれた」

「なので私の場合は大きな問題を感じることはなかったが、通常の学校の授業は、ディスレクシアを抱える人にとっては大きな課題。ほとんどの人は、一つの文字に対して一つの音しかない平仮名とカタカナは訓練して読めるようになるが、一つの文字で読み方がいくつも出てくる漢字や、前後にくる文字によって読み方が異なってくる英単語は、まさに混乱そのもの」

「授業についていけない」。不登校になる子どもも

ディスレクシアのことを正しく理解してほしいと、藤堂さんたちはこれまでいくつかの本の出版も行っている

さらには、教科書を読んだり、黒板に書かれていることを板書したりすることも、ディスレクシアの人にとって大きなハードルだといいます。

「教科書や黒板に何が書かれているのか、それを音に変えて意味を理解しながら書き写したり、音にして読みながらそれを理解するということが難しい。聴覚から得た情報を文字に置き換えて書くことも至難の技。『先生が言ったことをメモする』『声に出して読む』というのは、ディスレクシアの人にとってものすごく難しい」

「これを先生からは『なまけている』『ふざけている』と判断されてしまう。保護者は、家でも勉強させてそれをカバーしようとする。本人はがんばっていても、周りの友達から取り残されているように感じ、親や先生にもわかってもらえず、怒られたり、人よりたくさん勉強させられたり…。孤独を感じ、不登校になってしまう子どももいる。教育現場でディスレクシアのことを正しく知る人を増やし、ディスレクシアの人たちをサポートするのが、私たちの活動のひとつの使命」

読み書き困難を体験できるプログラムで講義を行う藤堂さん。読み書き困難からの不安、イライラ、やる気の喪失、自己不全感などを2時間から4時間で実感できる。その際に感じる「自分がしてほしかったこと」が、明日からの支援に役立つと藤堂さん。この時の講義はテレビ会議システムを使い、全国9カ所を結んで私立高校の職員、教師を対象に開催された

現在、ディスレクシアの人が1クラスに2〜3人いてもおかしくないと言われていますが、先生たちがディスレクシア自体を知っていたとしても、『自分のクラスにディスレクシアの生徒がいる』とは思わないというところも課題のひとつだと藤堂さん。

「読み書きに困難がある以外は、普通の人と全く何も変わらないのがディスレクシア。仮に周囲の大人が『もしかしてこの子はディスレクシアかもしれない』と思っても、先生や保護者が『傷つけるのでは』『受け入れてもらえないかもしれない』と遠慮して言い出せないということもある」といいます。

「読み書きができないとダメ」にとらわれないで

東京で2017年に開催された「アジア太平洋ディスレクシア・フェスティバル2017」で。ベトナム、タイ、インドネシア、インド、マレーシア、シンガポール、香港などからディスレクシアの当事者や専門家が集まり、和気あいあいとした雰囲気で文化交流やネットワークが行われた

読み書きが困難な以外は、普通の人と何ら変わらないディスレクシア。どういう風にしていけば、彼らの才能を伸ばしていくことができるのでしょうか。

「読み書きにとらわれず、その子本人ができることを認めてあげてほしい。昆虫が大好きだとか、ゲームだったら人には負けないとか、本人が活き活きとしている姿を、磨いてあげてほしい。本人の本来持っている才能を花開かせるために、『じゃあ、こんな勉強の仕方をしてみない?』とか『今度パソコンを使ってみよう』と先生から提案できれば、子ども保護者も、ずっと楽になるのではないか」と藤堂さん。

ディスレクシアのVince Lowさん(左)は、マレーシア出身の世界的に有名なスクリブルアーティスト。現在は広告代理店で働く。藤堂高直(とうどう・たかなお)さん(右)は名門建築大学を卒業後、英、独、仏、シンガポールにて建築設計をする傍ら、陶芸、執筆、NPO活動を行っている。2017年に開催された「アジア太平洋ディスレクシア・フェスティバル」での「ディスレクシアの才能展」にて。中央は藤堂亜美さん

「教育の目的は、知識を身につけ、それを咀嚼してアウトプットするということ。現在の教育のあり方は、目的とやり方がひっくり返ってしまっている部分があるのではないか」と疑問を投げかけます。

「日本には、『読み書き計算ができないと、立派な大人になれない』とか『仕事ができない』といった圧力や先入観がまだまだ残っている。しかし、自分の好きなことや強みを把握できたら、それを活かすために不得意な読み書きをどうするか、ということも自然と補っていけるのではないか」

「今はスマートフォンやパソコンで音声を認識して文字を書けたりとテクノロジーも発達してきている。その力も借りながら、ディスレクシアの人たちが自分らしく生きられる世の中になってほしい。自分の才能を生かして、得意な分野で幸せに生きている人たちはたくさんいる。そのことを、本人や保護者に知ってほしい」

ディスレクシア啓発を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は「EDGE」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

「JAMMIN×EDGE」コラボアイテムを1アイテム買うごとに、700円がチャリティーされ、ディスレクシアの若者が発信する啓発動画を製作するための資金になります。

「諸外国では、映画監督のスティーブン・スピルバーグ氏や実業家のリチャード・ブランソン氏などが啓発ビデオに出演し、同じディスレクシアの人たちにエールを送ると同時に、一般の人たちへ啓発を行っている。ディスレクシアの若者が作った啓発アニメやイラストに、彼らのエールをのせた動画を製作し、発信したい」(藤堂さん)

「JAMMIN×EDGE」1週間限定のチャリティーデザイン(ベーシックTシャツのカラーは全8色、価格は3,400円(チャリティー・税込み)。他にパーカーやマルシェバッグ、キッズ用Tシャツなども販売)

JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、様々なかたちのスイッチがついた電球。電球の中には、無限の宇宙が広がっています。一人ひとりの周囲にある社会や人々がその人を認め支えることで、本人の魅力や可能性が無限に広がっていく様子を表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、7月9日~7月15日までの1週間。チャリティーアイテムはJAMMINホームページより購入できます。

JAMMINの特集ページでは、ディスレクシアについて、また「EDGE」の活動について、お二人へのより詳しいインタビューを掲載中。こちらもあわせて、チェックしてみてくださいね。

ディスレクシア(読み書き困難)が活きる社会を目指して〜NPO法人EDGE

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年3月で、チャリティー累計額が2,000万円を突破しました!

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