これから5〜7月にかけて、ウミガメは産卵期を迎えます。普段は海の中で生活していますが、産卵の時だけ、自分の生まれた浜辺に戻って産卵します。環境破壊や乱獲により数が減りつつあり、その神秘さえも失われつつある今、人とウミガメとが共存できる社会を目指し、活動を続けるNPOに話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

ウミガメ保全のために、啓発活動を行いながら、持続可能な保護を目指す

海の中を優雅に泳ぐアオウミガメ

「エバーラスティング・ネイチャー」(神奈川)は、ウミガメが多く生息する小笠原諸島と関東、そしてインドネシアの3つの拠点でウミガメの調査・保全・研究活動を行う認定NPO法人です。

「フィールドワークをモットーに、調査・研究活動だけでなく、周辺の環境や人々の暮らしも同時に持続可能なものにするべく活動しているところが活動の大きな特徴」と話すのは、スタッフの岩井千尋(いわい・ちひろ)さん(35)。

小笠原諸島にある「小笠原海洋センター」にはスタッフが常駐し、ウミガメの調査・研究の傍ら、地域の人や観光客が実際にウミガメと触れ合えるよう放流体験や甲羅磨き体験などを行い、ウミガメが抱える課題を身近に感じてもらいたいと啓発活動を行なっています。

お話をお伺いした岩井さん(写真前列)。インドネシアでウミガメ保護活動をしている島を旅立つ際の1枚

また、千葉や茨城、神奈川の海岸に死亡して漂着するウミガメ個体の解剖調査も行なっており、生態を把握するために役立てているほか、インドネシアでは毎年ふ化する卵の数を調べるモニタリング調査を行いつつ、産卵のために浜辺にやってくるウミガメのパトロール活動をしています。

スタッフとしてあえて現地の人を雇い、一緒に見守ることで少しずつ啓発活動にも力を入れているといいます。

ウミガメは世界にたった7種類。乱獲や人間の介入により数が減った種も

調査の様子(インドネシア)。ウミガメの赤ちゃんがふ化したあとの地面を掘り、ふ化殻を調査する。調査は炎天下で行われ、かつ産卵場所まで砂浜を何時間も歩くことも

カメ自体は世界に約300種類ほどいるにも関わらず、世界に存在するウミガメは、全部でたった7種類しかいないのだそうです。

「日本には、本土・四国・九州にアカウミガメが、八丈島以南や屋久島以南にアオウミガメが、奄美諸島などの南の地域にはタイマイと呼ばれるウミガメも数は少ないですが産卵に訪れます」と岩井さん。ウミガメの中には、人間の乱獲や介入により数を大きく減らしてしまった種があるといいます。

産卵中のタイマイ。「ウミガメの産卵シーンはとても神秘的」と岩井さん

「タイマイの甲羅はべっこうの原料なのですが、そのために乱獲により数が大きく減少してしました。私たちの調査では、20世紀の間で8割がいなくなったとい結果が出ています。現在、ワシントン条約によりタイマイを国際間で商取引することは禁止されており、市場に出回っているべっこうはワシントン条約で乱獲が禁止される前のストック。先々に残していくことを考えて獲っていればここまで減らずに済んだのではないかと思います」

「他に、オサガメという種はウミガメ最大種で、体が2m近くあって泳ぎがとても得意です。とても敏感なウミガメで、砂浜で人の気配がすると産卵せずに海に帰ってしまうこともあります。少し前までオサガメの大産卵地であったマレーシアは産卵数がどんどん減少し、ついに2000年初頭に絶滅宣言がされました」

まるで恐竜のような姿をしているオサガメ。ウミガメ類の中でも最も絶滅に近い種のうちの1つ

「なぜ絶滅してしまったのか。実はマレーシアでは、人間がオサガメの卵を掘り出し、別の場所に卵を移植し管理する『卵の移植』という保護活動が行われていました。この卵の移植がオサガメを絶滅に追いやってしまったと私たちは考えています」

ウミガメ保全の難しさ

関東の海岸に漂着する死亡したウミガメ個体の調査。調査道具を持って現場に急行し、その場で解剖・調査を行う

自然の環境であれば、5月〜7月にかけて、夜〜明け方にピンポン球サイズの大きさの卵を平均で100個ぐらい産卵するウミガメ。60日前後でふ化し、生まれた赤ちゃんガメは海へと帰っていきます。

自然の中でもエサ場にたどり着けず死んでしまったり、他の生き物に食べられてしまったりして、成体になるのは千匹のうち数匹といわれていますが、一方でマレーシアのオサガメのように、人間の介入によって数を減らしてしまうケースもあるといいます。

「団体によって保全のための方向性ややり方が異なり、世界を見渡しても卵を人工的に移植している浜辺では産卵数が減っている」と岩井さん。「国際会議などで卵の移植は良くないという指摘も出ていますが、良かれと思って移植を続ける団体があるのも事実」とウミガメ保全の難しさを指摘します。

ふ化した赤ちゃんガメは、地上に出るとものすごいエネルギーで海へと進んでいく

「ウミガメについては、実はまだわかっていないことが多いです。普段は海の中で生活しているけれど、産卵のためにだけ上陸する。しかもどこの浜辺でも良いわけではなくて、自分が生まれた浜辺に戻ってくるといわれています。なぜ同じ浜辺に戻ってくるのかはわかっていませんが、彼らが何か方向性がわかるような機能を持っていて、同じ場所に戻って来られるのではないかといわれていますが、人間が手を加えることで、この機能も失われてしまうのではないかと懸念されています。卵の向きの上下を変えて移植すると、それだけで卵は死んでしまいますし、人工的な場所に移植したりすることで異変をきたす恐れがあるのです」

小笠原諸島は人とウミガメとが共存する、稀な成功例

エバーラスティング・ネイチャーの活動拠点の一つであるインドネシアでは、ウミガメの卵が食用として市場に出回っており、「ウミガメを後世に残す」という未来を意識しながら現状と向き合うことの難しさを痛感していると岩井さん。
一方で日本の小笠原諸島では、地域の人たちの中ですでに「ウミガメを守らなければ」という意識の基盤ができており、ウミガメが人と共存しながら数を増やしている、世界的にも稀な場所だと話します。

「実は小笠原諸島でも、アオウミガメが食料として流通しています。数が減ってから保護しようという動きが出て、現在は食用としての流通もありながら、確実に数を増やしています。ウミガメを捕獲しながら数を増やしている島は世界を見ても他になく、とても珍しいケースです」

時には迷いガメを救出することも。「産卵にやってきた母ガメがくぼみにはまってしまっており、この後大人4人がかりでこのアオウミガメを救出することに成功しました」(岩井さん)

「ウミガメが観光資源の一つになっているので、地元の方たちが観光地や飲食店などに『ウミガメにライトをあてないで』という張り紙をしてくださったり、ウミガメを守るためのマナーを周知してくださったりと協力していただいています。1900年代前半には、小笠原に来遊する母ガメは20~30頭まで減少しましたが、現在は産卵シーズンには毎年500~600頭ほどの母ガメがこの場所を訪れています」

「小笠原諸島は、ヒトとウミガメとが共存しているモデルケース。今後別の地域でも、同じようにヒトとウミガメとか共存できる社会を目指していくことができたらと思います」

なるべく自然の状態でウミガメと自然を守る

ウミガメの赤ちゃん。「アオウミガメの赤ちゃんはとっても愛らしい。小笠原海洋センターにやって来て一目惚れする人が後を絶ちません」(岩井さん)

近年、海洋ゴミの問題からウミガメ保護に関心を持つ人が多いと岩井さん。「私たちの調査でも、死亡漂着したウミガメを解剖すると5〜6割は何らかの人工物を食べた痕跡があります。人工物が喉やお腹に詰まって、それが原因で死んでしまうということは稀ですが、お腹の中からスーパーの袋のようなプラスチックが2、3枚出てくることがあります。プラスチックに含まれる物質が何らかの悪影響を及ぼしているのではないかと研究が進んでいますが、真偽のほどはまだわかっていません」

「ウミガメを保全していくにあたり、『ゴミを食べて死んでかわいそう』『ゴミが良くない』と『ゴミが問題』という風に捉えられがちな部分がありますが、それだけではないということを知ってもらいたいと思っています。地域やウミガメの種類によっても異なりますが、ウミガメの居場所が少しずつ失われ、数が減る原因は、ゴミも含め、様々な人間活動の影響に寄るところが大きいです」

「護岸工事で砂浜が減っています。上陸してもブロックだらけで産卵ができないウミガメがいます。保護という名目でさえも、人間の介入により数が減りつつある浜辺があります。私たちの生活や行動が、彼らに影響を与えているのです」

「小笠原諸島もそうですし、世界の別の地域を見ても、ウミガメが増えている地域は人間が大きく介入しておらず、あまり何もしないで自然と増えてきたというケースがほとんどです。ウミガメの力、自然の力を信じて、彼らが本来の姿で生きていける、持続可能な自然を目指していけたら」

ウミガメ保護を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「エバーラスティング・ネイチャー」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×エバーラスティング・ネイチャーア」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、小笠原諸島のウミガメの調査や夜間の砂浜パトロール、保護したウミガメを放流するために必要となる資金等、ウミガメ保護のために使われます。

「JAMMIN×エバーラスティング・ネイチャー」1週間限定のチャリティーアイテム。写真はベーシックTシャツ(全11色、チャリティー・税込3,400円)。他にもボーダーTシャツやキッズTシャツ、トートバッグなどを販売中

コラボデザインに描かれているのは、甲羅の上に豊かな自然を載せたウミガメの姿。ウミガメを後世へ残していくためには、保護だけでなく豊かな自然を守っていくことへの人間の理解が必要であるというメッセージを表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、4月29日~5月5日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページではインタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

ウミガメと人間とが共存できる、持続可能な社会を目指して〜NPO法人エバーラスティング・ネイチャー

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。創業6年目を迎え、チャリティー総額は3,000万円を突破しました。

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