最近、メディアでも「ケアマネージャーが高齢者の自宅を訪問すると、適切な飼養管理ができていない大量のペットがいて、対応に困った」などという話をよく耳にします。社会福祉関係職であれば、「家庭内暴力の疑いで家庭訪問した家において、人間の家族だけではなく、ペットも虐待されている痕跡があった」など、人間に社会福祉の支援の手が必要な状況において、動物も助けが必要なのでは?と疑う現場に遭遇したことがあるのではないでしょうか。(寄稿・一般社団法人アニマル・リテラシー総研理事=山﨑 佐季子)
このような人間側の社会福祉の課題における「動物問題」、すなわち人間と動物双方に支援の手を差し伸べなければならない状況に対応する領域として、海外では「Veterinary Social Work (VSW)」という概念が注目され始めています。
VSWは、「獣医療とソーシャルワークの実践が交差する場面における人間のニーズに対応する」1)領域として、2000年代初頭にアメリカのテネシー大学により初めて提唱された概念です。
実際、獣医療(動物にかかわる問題)とソーシャルワーク(人間社会の課題)が交差する現場は多岐にわたり、人間のニーズに対応するためには、結果として動物にも目を向けそのニーズに対応せざるを得ない場合が多々あります。
例えば、先の大量のペットが不適切に飼養管理されている高齢者の自宅については、もし、住環境が大量の動物とその糞尿や食べ残しで極めて劣悪な衛生状況であれば、そこに住んでいる高齢者のためにも、汚れを清掃し、動物の世話を手伝ってもらえるようなサービスと高齢者をつなげる必要があります。
人間の住環境を整えるために、結果的に、その人間に付随する動物の福祉も維持する必要があるのです。また、この高齢者が福祉施設に入所しなければならない、となった場合… 「家族の一員」として生活を共にしていたペットを残し入所するのは高齢者にとって心理的負担であると同時に、彼らが入所を拒否する可能性も出てきます。
もし、ペットを幸せにしてくれる新しい飼い主を斡旋できるサービスがあれば、高齢者も安心して施設に入所でき、人間側の要支援者の心の安定に寄与しますが、動物の将来の生活環境を整えるという意味で、結果として動物を支援するということにもなります。
もちろん、ソーシャルワークは、人間に社会福祉的な支援を提供する領域であり、決してその担い手である社会福祉専門職が「ペットも支援しなければならない」ということではありません。
VSWが提唱している点は、飼い主という人間にとっては動物が人間家族と同じ位置づけにあり、人間を支援するためには、その人間が大切にしている動物にも対応する必要があるということです。人間に対する支援をより良いものにするためにも、社会福祉専門職と動物関係者が連携し、日本においてもVSWが対応すべき領域に目を向けていく必要があるのではないでしょうか。