「ヨナグニウマ」をご存知でしょうか。現在、日本に存在するのは130頭とされ、絶滅が危惧されている沖縄・与那国島の在来馬です。過去には家畜として米やサトウキビなどの重い荷物を背中に乗せて働き人と共に暮らしてきましたが、農業の機械化が進み、彼らの居場所と人間との関係性は次第に失われていきました。ヨナグニウマの活用法を探りながら、保護活動を行う団体を紹介します。(JAMMIN=山本 めぐみ)

ヨナグニウマの新たな価値を提案

天然ビーチをヨナグニウマに乗って散策する「ビーチライド」。馬に乗って白い砂浜と青い海、青い空と沖縄を満喫できるプログラムだ

沖縄で活動する一般社団法人「ヨナグニウマ保護活用協会」。現在日本に残る沖縄の在来馬「ヨナグニウマ」を有効に活用し、保存に貢献することを目的に活動しています。

「現在は沖縄本島にある直営牧場や、石垣島や久米島などにある兄弟牧場でヨナグニウマを自家繁殖し、レジャー的乗馬や動物介在教育、ホースセラピーなどの現場で彼らが活躍できるよう調教しながら、観光乗馬や馬糞堆肥などの活用法にも取り組んでいます」と話すのは、代表の中川美和子(なかがわ・みわこ)さん(51)。

お話をお伺いした中川美和子さん。ヨナグニウマ に魅せられ、18年前に東京から与那国島へ移住した

「悲しいけれど現代の馬は家畜という存在でしかないので、農業の機械化が進んだ今、人が飼わなくなればそのまま死に絶えてしまいます。また繁殖だけで活用がなされなければ、一時的に数は増えるでしょうが、いつかはやはり絶滅してしまいます。ヨナグニウマを活用して『価値がある』『人間のために役立っている』ということを示しながら、彼らが必要とされる社会をつくっていきたい」と活用法を提案していく大切さを語ります。

体は小さく、優しい性格が特徴

小柄だけれど、力強い身体を持つヨナグニウマ。毛色は全体的に茶色で、タテガミと尻尾、脚の先が黒に近い茶色なのが特徴

ヨナグニウマはどんな馬なのでしょうか。特徴を聞いてみました。

「現在日本に8種残っている在来馬の一種で、1969年に与那国町の天然記念物に指定されました。馬というと競走馬のような大きな馬をイメージされる方が多いと思いますが、ヨナグニウマは少し小さいサイズの馬です。体高が120cm、体重は200kg前後。競走馬が5〜600kgなので、2〜3分の1の大きさですね。
ポニーをご存知だと思いますが、ポニーの定義が体高147cm以下の馬なので、ヨナグニウマもポニーに入ります。海外に行くとヨナグニウマは『ヨナグニポニー』と呼ばれます」

牧場に遊びに来た子どもたちと馬。「毎週来ている子どもたちは、馬ととっても仲良しです」(中川さん)

「『こんな小さい馬に乗れるの?』と驚かれることもあるのですが、活発で足腰もしっかりしていて、乗ってみるとすごく面白い馬です。乗馬初心者はもちろん、上級者にとっても乗って楽しい馬で、活用の幅がすごく広い馬でもあります。性格は素直で温厚、競走馬と比べると別の生き物のようにおとなしいです。馬はいわゆる噛んだり蹴ったりという行為が怖い・危ないと敬遠されたりするのですが、きちんと愛されて育った馬は人間を積極的に攻撃したりはしません。接し方さえ間違えなければ、とても優しい馬です」

いかにニーズを生み出していくかが課題

与那国島にある北牧場。ヨナグニウマがほぼ野生の状態で放牧されている

ヨナグニウマは沖縄・与那国島を中心に生息しています。与那国島は離島であるために外の馬との交雑が少なく、在来馬の中でも特に純度が高いといわれていますが、その数は現在130頭にまで減ってしまいました。

「与那国島には、ヨナグニウマのみを放牧できる北牧場と東牧場、混血の馬を放してもよい南牧場の3つの牧場があります。多くのヨナグニウマが北牧場と東牧場に放牧されていて野生に近い暮らし方をしていますが、実は一頭一頭には持ち主がいます」と中川さん。

「ヨナグニウマ保護活用協会」では、運営する牧場「うみかぜホースファーム」(沖縄県南城市)で12頭のヨナグニウマを飼養している他、仲間が別の島で育てている馬も合わせると全部で27頭のヨナグニウマを育てています。

沖縄本島・南城市にある「うみかぜホースファーム」。多様な馬遊びが楽しめる

「今は家畜としての利用もなくなってしまいましたが、一方で馬の飼育には手間もお金もかかるので、最近は手放す方も多いです。新たな活用法が確立されておらず、手間ばかりかかって飼うメリットを感じられないというのが理由としてあると思います。地元の方たちにも魅力を知ってもらいながら、ただ残していくだけではなく、やはり活用していくこと、彼らのニーズを生み出していくことが重要だと思っています」

乗馬や動物介在教育など
触れ合うことで魅力を伝える

乗馬トレッキングの様子。ヨナグニウマの背に揺られながら楽しむ沖縄の自然は、また格別だという

「うみかぜホースファーム」では、はやくから観光乗馬としての活用に目を向けてきました。

「牧場では、馬に乗って海岸を散策するビーチライド(10月下旬〜5月)や馬に乗って海に入る海馬(うみうま)遊び(4月末〜10月下旬)、乗馬トレッキングなどのプログラムを用意しています。馬と触れ合いながら自然を満喫する。おとなしくて小柄なヨナグニウマだからこそのプログラムです」

さらに、地元の人たちにもヨナグニウマの魅力を伝えたいと2000年からは与那国島の学校で馬を使った授業を開始しました。沖縄本島でも、月に5〜6回保育園を訪れ、小学校で馬の授業を行なっているといいます。

南城市の小学校での馬を使った授業風景。授業の最後には、子どもたちから馬への感謝の気持ちを直接伝えてもらうのだそう

「生きている馬と触れ合うことや観察することで、子どもたちにとって様々な効果があります。切り口は本当に色々で、馬の世話をしながら例えばエサの分量を計るのが算数の勉強になったり、みんなで協力し合うことを学んだり、昔の馬との思い出をおじいちゃんおばあちゃんに聞いて地域の歴史を学んだりと幅広いですね。与那国島も高齢化が進んでいますが、最近『小さい頃にヨナグニウマに乗った』という若者がぽつぽつとボランティアに来てくれたり『獣医になりたい』といってくれたり、少しずつ地域の財産であるヨナグニウマに意識を向けてくれるようになってきました」

ホースセラピーも実施

ホースセラピーの様子。障がいを持つ子どもでも、やさしいヨナグニウマとボランティアさんのサポートがあれば安心してホースセラピーを楽しむことができる

「うみかぜホースファーム」では、障がいのある子どもや高齢者が馬と触れ合う機会を持つ「ホースセラピー」も実施しています。

「ヨナグニウマは小さく見た目も優しいので、近づきやすいところがあるのではないかなと思います」と中川さん。

「合う・合わないもありますが、馬と触れ合う中で、波長がぴったりと合うと、笑わなかった子どもが笑顔になったり、表情が本当に明るくなります。馬とぴったりくっついて離れない人もいます。感情を表に出してくれるので、反応が感じられて私たちも嬉しいですし、ホースセラピーは可能性がまだまだある分野だと感じています」

自然に近いかたちで飼育

リラックスした表情を浮かべる馬と子どもたち。「うみかぜホースファーム」で小中学生向けに開催している「馬クラブ」の後の1枚

1頭の馬を飼育するために必要な放牧地は1ヘクタールといわれており、団体では現在、「うみかぜホースファーム」以外にも別の放牧地を借り、馬の群れを3つのグループに分けて飼育しています。

「牧場に簡単な厩舎はありますが、自由に出入りできるようにしてあって、馬はそれぞれ好きなところで生活しています」と中川さん。「閉じ込めて飼うのは人間の事情。彼らにとってはストレスになってしまうので、できるだけ自然に近いかたちで飼育したい」と話します。

ポカポカ陽気の放牧地で、のんびり昼寝をする馬たち

普段は広い放牧地で自由に生活する馬たちですが、さすがに悪天候の日には雨風をしのげる場所が必要です。これまでは放牧地の木々がその役割を果たしていましたが、昨年沖縄を襲った台風の影響で多くの木がなぎ倒されてしまい、雨風をしのげる場所が減ってしまったといいます。

「台風が多い場所ですので、今年はなんとか雨風をしのげる小屋を建ててあげたいと思っています」(中川さん)

「ヨナグニウマは、パートナー」

東京出身の中川さんは18年前、旅行で訪れた与那国島でヨナグニウマに出会いました。馬が自然に人々の生活に溶け込んでいる風景や、馬自体にも魅力を感じたといいます。やがて団体の活動を知り、「ヨナグニウマを守りたい」という信念に惹かれたと同時に、「何か世のためになることをやりたい」という思いもあり、仕事を辞めて沖縄に移住。最初はボランティアで活動に携わっていました。

「仕事を辞めて与那国島でアルバイトをしながら1年ぐらいやるつもりが、楽しくて気がついたら5年ほど経っていました。その後、沖縄本島の動物園にヨナグニウマを連れていくという話が持ち上がり、そこで牧場長として働くようになりました。2017年に任意団体から一般社団法人になり、創業者である前代表から代表を引き継ぐかたちで現在に至ります」

中川さんにとってヨナグニウマはどんな存在か尋ねてみると、笑顔で次のような答えが返ってきました。

「ヨナグニウマがいない人生は考えられないですね。相棒のような、パートナーのような存在です」

ヨナグニウマの保護活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「ヨナグニウマ保護活用協会」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します「JAMMIN×ヨナグニウマ保護活用協会」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、ヨナグニウマの放牧地に、雨風をしのげる小屋を建設するための資金となります。

「建設にはトータルで100万円ほどが必要です。今回のキャンペーンで、その一部を集めることができたら幸いです」(中川さん)

「JAMMIN×ヨナグニウマ 保護活用協会」1週間限定のチャリティーアイテム。写真はベーシックTシャツ(全11色、チャリティー・税込3,400円)。他にもボーダーTシャツやキッズTシャツ、トートバッグなどを販売中

コラボデザインに描かれているのは、愛らしいヨナグニウマが一歩を踏み出す姿。人とヨナグニウマとが共に穏やかに暮らす明るい未来に向けて、歩む様子を表現しています。

チャリティーアイテムの販売期間は、5月20日~5月26日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページではインタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

与那国馬を守れ。失われゆく馬の活用法を提案しながら、人との共存を目指す〜一般社団法人ヨナグニウマ保護活用協会

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。創業6年目を迎え、チャリティー総額は3,000万円を突破しました。

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