ひとり親世帯や生活保護世帯、児童養護施設など、困難な環境下にある子どもたちは、ふたり親世帯の子どもに比べて学びの機会が得られにくい傾向があります。環境によって生じる格差を埋めたいと、環境に左右されない学びの場作りに取り組むNPOを紹介します。(JAMMIN=山本 めぐみ)

すべての子どもに、学びの機会を

学習支援の様子。ひとり親世帯や生活保護世帯の子どもを対象にした「スタサポ」。無料で食事の提供も行う「スタサポ へるすたでぃ」拠点の学習場面

北海道を拠点に活動する認定NPO法人「Kacotam(カコタム)」。経済的な理由や家庭環境によってなかなか学びの機会を得られない子どもを対象に、学習支援などのサポートを行なっています。

「経済的に困窮している家庭やひとり親家庭は、教育に限らず学校外で親子揃って食事をしたり一緒に出かけたりといった経験が一般の家庭よりも少ない状況にある。様々な学びの機会を提供したい」。そう話すのは、Kacotam代表の高橋勇造(たかはし・ゆうぞう)さん(32)。

Kacotam代表の高橋勇造さん

Kacotamは、児童養護施設や母子生活支援施設、児童心理治療施設にいる子どもたちを訪れて学習支援を行う「学ボラ」事業のほか、ひとり親世帯や生活保護世帯の子どもを対象に学習支援を行う「スタサポ」事業を北海道内の7拠点で展開しています。

他にも定時制高校の授業のサポートや、過去に経済的理由や家庭環境で勉強できなかった若者を対象に高卒認定試験合格を目指して支援するリラーニング、必要に応じて受験の学習支援なども行い、環境に左右されずに学べる環境づくりをサポートしています。

「環境が整うことで、子どもは力を発揮する」

中高生のオープンスペース「ゆるきち」。建物の1階の楽器スペースでセッションする若者

子どもの「環境づくり」にこだわる高橋さん。その理由を聞いてみました。

「子ども自身はもともと、意欲や何かに取り組む姿勢を持っています。しかしそれが置かれている環境によって失われたり、育むことが難しかったりすることがあるのではないかと思います。環境がしっかり整えば、あとは子どもたちが自然に向かいたい方に向かって動いていくことができる。だからこそ環境づくりが私たちの役目だと考えています」

子どもたちの希望を募って開催されたプログラミング体験会の様子

「学習支援をする中で、大人はつい子どもに対して『あるべき姿』を抱きがちです。大人は状況がわかるだけに『どうにかして学力を上げないと』とか『勉強させないと』とか、つい『こうしなければ』を持ってしまう。しかし大人のその態度が、子どもの可能性を失うことにつながりかねません」

活動を始めた当初、「どちらかといえば子どもを変えようという意識を持っていた」という高橋さん。

「積極的に学習を進めるとか、自己肯定感を高めるためにたくさん褒めるようにするとか、理想を持って子どもと関わっていました。しかし活動を続ける中で、そういった働きかけをしなくても子ども自身が自然と何かを感じたり得たりして、自分の力で変わっていく様子をたくさん見ました。この経験が、団体として『環境づくりに徹底すること』につながっている」と話します。

信じて向き合うことが大切

「微生物の勉強をしたい」という希望を受けて、顕微鏡で微生物を観察。真剣な表情を浮かべる子ども

ある施設を訪問した際に出会った一人の中学生。当時、彼は万引きや暴力が絶えなかったといいます。

「その中学生を担当したメンバーは『暴力はやめよう』『万引きは良くない』という働きかけを特にしませんでした。ただいつも通り、会って一緒に勉強したり話をしたりしている中で、次第に彼の問題行動がなくなっていきました」

「その子がどういった経緯で施設に入ったのかはわかりませんが、信頼している大人から暴力を振るわれたり大事にされなかったり、何らかの事情があって入ってきているわけです。毎週決まった時間に約束通りに来てくれる人がいて、一緒に勉強したり話をしたりすることを積み重ねていく中で『この人は信頼できる存在なんだ』というふうに思えるようになったのかもしれません。一人でもそう思うことができれば、そのイメージを持って他の人とも関わりを持てるようになります。そんな中で万引きや暴力も緩和されたのかもしれません」

「子どもが求めているのは問題の答えだけでなく、一緒に試行錯誤する時間」

子どもの「やりたい」をカタチにするプロジェクトにて、高校生の女の子の「オリジナルのエフェクターを作りたい」をカタチにしている場面

Kacotamでは、学習支援だけでなく子どもたちの視野が広がる環境づくりにも力を入れています。中でも「子どもの『やりたい』をカタチにするプロジェクト」は、子どもたち「好き」「やりたい」を実際にやってみるプロジェクトで、やる前には気づかなかったことが見えたり、新しい「好き」「やりたい」が見つけたりするきっかけにもなっているといいます。

「やりたいことをかたちにしていく中で子どもたち自身が誰かと一緒に何かを考えたり、自分の好きなことを突き詰めてもいいんだと感じたり、そんなことが身につくきっかけにもなるかなと思っています」と高橋さん。

子どもの「やりたい」をカタチにするプロジェクトから発足した「からあげ研究会」。様々な条件を設定したからあげを作って試食し、多くの人が美味しいと感じた条件を調べた。参加した子どもは料理人や管理栄養士を目指していて、企画を通じてレシピ研究の楽しい面と大変な面との両方を感じたと同時に、次の「やりたい」が出てきたそう

「ひとり親家庭の子どもや施設の子どもは、日常的に自分の意志を発するのが難しい環境にいます。信頼関係を築き、少しでも思いを口にできる雰囲気を作るよう心がけています。子どもに必要なのは、教科書に載っている問題の答えだけではなく、調べたり考えたり、一緒に試行錯誤することやその時間でもあるのではないでしょうか。大人が働きかけなくても、子どもたちは自然と関わりの中で何かを感じ、何かを得て、ありたい姿に向かっていきます」

家庭環境に後ろめたさを感じずにいられる環境づくりを

企業とNPOと連携して行っている自然体験学習の様子。札幌市手稲区の星置川を訪れ、虫や魚を探しているところ

Kacotamの今後の目標について尋ねてみました。

「7年間この活動をしてきたノウハウを生かしながら、自分たちの団体だけでなく様々な団体と協力して、北海道内179の市町村の一つ一つに学びの場ができたらと思います。もう一つはやはり、子どもの視野が広がる環境づくりにも力を入れていきたいですね」と高橋さん。

「ひとり親家庭であったり生活保護を受けていたり、経済的に苦しいということは本来、後ろめたく捉えることではないと私は思います。しかし当事者は後ろめたく捉えてしまう。それがなくなるようにしていきたいですね。関わる子どもたちに、他ではなかなか経験できないような学びの機会を提供することで、逆に周囲から『羨ましい』と思われるぐらいになれば、後ろめたさもなくなっていくのではないでしょうか。そういうことも、ゆくゆく考えていけたらいいなと思っています」

子どもたちの「やりたい!」を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「Kacotam」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×Kacotam」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、「子どもの『やりたい』をカタチにするプロジェクト」を実施するための資金になります。

「子どもによってそれぞれ興味は違い、毎回企画の内容も異なります。直接学力につながるものではないので助成金などを得ることも難しい企画です。ぜひチャリティーアイテムで子どもたちの『やりたい』を応援いただけたら」(高橋さん)

「JAMMIN×Kacotam」1週間限定のチャリティーアイテム。写真はベーシックTシャツ(全11色、チャリティー・税込3,400円)。他にもボーダーTシャツやキッズTシャツ、トートバッグなどを販売中

コラボデザインに描かれているのは、宇宙の中で自由に飛ぶ鳥たちの姿。自分の向かいたい方向に向かって思うままに行動する子どもたちの無限の可能性を表現しました。チャリティーアイテムの販売期間は、6月3日~6月9日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページではインタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

すべての子どもたちに「好き」や「やりたい」を見つけるきっかけと、視野を広げる様々な学びの場を〜NPO法人Kacotam

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。創業6年目を迎え、チャリティー総額は3,000万円を突破しました。

【JAMMIN】
ホームページはこちら
facebookはこちら
twitterはこちら
Instagramはこちら

【編集部おすすめの最新ニュースやイベント情報などをLINEでお届け!】
友だち追加