親ががんになった時。病気がタブー視され、子どもが家族から排除されてしまうことがあります。こうした状況を問題視した、親ががんの子どもを支えるNPOがあります。代表は、自身も乳がんを経験し、夫を自死によって突然失った一人の女性。「がんは自死や事故死と異なり、突然亡くなるわけではない。子どもが孤独や疎外感を感じないように、蚊帳の外に置かずしっかり向き合ってほしい」と強調します。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「死」がタブーであるがゆえに子どもが家族から排除されてしまう

「がんってなに?どうやってなおすの?」。紙芝居を使って、健康な細胞とがん細胞について学ぶ子どもたち

NPO法人Hope Tree(ホープツリー)代表理事の大沢(おおさわ)かおりさん(52)。東京都内の病院で、患者や家族の心理・社会的な相談に乗る医療ソーシャルワーカーとして勤務しながら、親ががんの子どもをサポートする団体を立ち上げ、11年前より活動しています。

「まだまだ死が、家族の間でタブーと捉えられていると感じる」と大沢さん。
病院で働いていると、「弱った姿を見せたくない」「まだちゃんと話していないから」と病院へ子どもを連れて来ることを躊躇する親も少なくないといいます。

Hope Tree代表理事の大沢かおりさん

「しかし、子どもの立場になってみるとどうでしょうか。さよならを言えないままいつの間にかお父さんやお母さんが死んでしまったら、どんな気持ちになるでしょうか。家族間で死がタブーであるがゆえに、子どもが家族から排除されてしまうような構図が浮かび上がってきます」と病気の親を持つ子どもの課題を指摘します。

「患者さんや配偶者の方に話を聞いてみると『自分が死ぬ事は考えたくない』という当然の葛藤や『死を認めたら死が早くやってきてしまうのではないか』という不安を抱えていたりします。気持ちをお伺いしながら、子どもが一人取り残されないためには親御さんにどんなサポートができるのか、慎重に考えて対応していく必要があります」

子どもが親の病気について学びながら気持ちを整理していくプログラムを提供

怒りを感じた時に、どうしたらすっきりするかを考えてサイコロの面に描いているところ。怒りを感じたらサイコロを振って、出た面と同じ動きをすることで感情が和らぐ

Hope Treeは、がんの親を持つ子どもを対象にさまざまなプログラムを提供しています。

「親ががんになり『子どもとどう向き合ったらいいのか分からない』『もう先が短いのをどう伝えていいのか分からない』といった時に、子どもと一緒に話や工作をしながら気持ちを表出してもらったり、同じような状況の子どもを集めたりといったプログラムを運営しています」と大沢さん。

そのうちの一つが、がんの親を持つ小学生を対象にした「CLIMB®(クライム)プログラム」です。大沢さんによると、アメリカでは広く用いられているプログラムで、1回2時間のセッションを、週末を利用して6週間連続して行います。

「CLIMB®(クライム)プログラム」で、点滴のしくみを学ぶ

「『いろんな気持ちになるけれどどんな気持ちになってもいいんだよ』ということや、気分が落ち込んだ時や悲しい時、イライラした時はどうしたらいいかをみんなで考えて、溜め込まず、健康的に表出する方法を考えます。そしてがんはどんな病気で、治療にはどんなことをするのかを子どもにもわかるように伝えるプログラムです」

「人形を使って点滴体験をしたり、手術室や放射線治療のお部屋の写真を見せながらこんな治療をするんだよと説明したり、抗がん剤がどうやってがん細胞をやっつけるかを分かりやすく説明した動画を見たりして、子どもたちなりに病気や副作用の理由なども正しく理解します。状況を正しく理解できるようになるので漠然とした不安がなくなります」

「最終的には、親子のコミュニケーションの促進が目的」

「CLIMB®(クライム)プログラム」にて、「強さの箱」を作っているところ。「箱の外側を、自分の強さを感じられるもの、自分を守ってくれるもの、自分の好きなもの、の絵や写真の切り抜きやシールで飾ります。箱の中には、心配な事を書いてしまいます」(大沢さん)

「子どものがんの捉え方は、その子の年齢や性格、家族背景によっていろいろ。がんや治療への理解を深めてもらうことで、最終的には親子間のコミュニケーションを促進することが目的です」と大沢さん。

「プログラムに参加して、『今のことはわかったけど、先々はどうなるの?』『具合が悪くなったら何も教えてくれなくなるんじゃないの?』と将来への不安を抱く子もいます。『もし先々疑問や不安が出てきたら、それをお父さんお母さんに聞いていいんだよ、一人で抱え込まなくていいんだよ』ということも必ず伝えるようにしています」

2016年11月に、親をがんで亡くした子どもと配偶者を対象に、長野・軽井沢で開催したグリーフキャンプにて。小学校1年生のMちゃんが書いたカード

「親御さんが忙しそうにしていたり、あえて病気の話題に触れないような雰囲気を出していたりすると、それは子どもにも伝わります。そして、子どもたちは一人で孤独や不安をどんどん募らせていきます。私たち第三者が関わることで、家族間のタブーを無くし、なんでも話し合える関係を築いてほしい。死というテーマがタブーでなくなると、不安や思いをなんでもぶつけてくれるようになるし、大人が向き合う姿勢を見せると、子どもは必ず向き合ってくれます」

子どもと関わるために必要なこと

自分の気持ちが確認できる「気持ちの輪」。「喜び」「悲しみ」「怒り」…、どんな気持ちになっても良いこと、溜め込まずに伝えることを促すツールだ

あと数日・数週間で亡くなる終末期の親の子どもを対象にした特別なプログラムも行なっているHope Tree。親の死が近いと聞いて声を上げて泣いたり、大粒の涙を目に浮かべてじっと耐える子どもが目の前にすると「本当に胸がいっぱいになる」と大沢さん。「でも、その場にいるしかない」と話します。

「その時に、それぞれのプログラムを実施する医療者自身が自分自身のグリーフ(死別などによる深い悲しみ)を認識できているかが大切です。無意識のうちに子どもとの関わりに反映されることのないように、です」

2018年11月に開催した「CLIMB®(クライム)プログラム」ファシリテータ―養成講座にて、参加者の皆さんと。日本各地から医療者が集まる

「まだまだ始まったばかりの分野なので、やはり試行錯誤もあるし、なかなか自信が持てないという現場の医療者の声も聞きます。しかし『自信がないから関わらない』では、いつまでたっても子どもが取り残されてしまう。少しずつでも前に進んでいけるよう、経験を積んでいくことが大切だと思っています」

乳がん、夫の自死…。どん底での出会いが、この道に進むきっかけに

なぜ、あえて死というテーマと向き合うのか。そこには、大沢さんが経験した過去の壮絶な出来事がありました。

「今から16年前、36歳の頃に乳がんになりました。当時、周囲にがんの人はおらず、乳がんの患者会に出向いて同じような人に出会うまでは孤独でした。2年間のきついホルモン療法が終わり、『これから少し治療が楽になるね』と夫と話していた時に、突然その夫を自死で失いました。帰宅して夫の部屋に入り電気をつけると、夫がベルトで首を吊っていたんです。それからしばらくは、真っ暗闇の中に一人放り投げだされ、体を半分切られて、底なし沼の真っ暗闇の中にどんどん沈んでいくような感じでした」

「幸せそうな友人とは連絡を絶ったり、友人が夫婦喧嘩を愚痴ると『喧嘩する夫が居て良いよね』と毒を吐いてしまったり。最低でした。生き残っていることが辛すぎて、夫を後追いしかけて『ああ、病んでるな』と我に返ったこともあります」

2007年にアメリカを訪れ、アメリカのがんセンターでカウンセラーとして親ががんになったこども向けのプログラムを実施しているマーサ・アッシェンブレナーさんという女性に出会った大沢さん。

「彼女に自分の経験を話したら、優しく肩を抱いてくれました。『忘れられがちだけど、親ががんになった時の子どもは不安を抱えていて、ケアが必要』という話を聞き、そういった子どもたちのために学びたいと強く思いました。そして『これこそ私のやりたいことだ』と感じたんです。『事実を知らないまま、大切な人を急に失う子どもを減らしたい。大人は自分で声をあげられるけど、幼い子どもは自らは出来ないから』と。そして日本に帰り、手探りの中でアメリカから持ち帰ったプログラムを元に、親ががんの子どもたちのために活動を始めました」

2016年、「Hope Treeフォーラム」に自身がこの道に進むきっかけを与えてくれたマーサ・アッシェンブレナーさんを招き、講演とワークショップを開催。フォーラム終了後、マーサさんを囲んで、スタッフの皆さんと

「がんは自死や交通事故死のように、突然亡くなるものではありません。だから、子どもが何も知らず、彼らの目の前から愛する人がある日突然いなくなるということだけは避けて欲しいと思うんです。『子どもが傷つくのではないか』と不安に思う親御さんの気持ちもあると思いますが、子どもは底知れぬ力と大きなやさしさを持っています。子どもは逞しく、ずっと同じ場所には留まっていません。大切な人の思い出を抱えながら、自分の人生を生きていくことができる存在だということを信じてほしいと思います」

親をがんで亡くした子どもをサポートできるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「Hope Tree」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×Hope Tree」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、がんで親を亡くした子どもと遺された配偶者を対象に、気持ちと体験を共有する「グリーフキャンプ」開催のための資金となります。

「家族によっては、がんによって一家の大黒柱を失い、参加費が大きな負担になってしまうこともあり、極力参加費を抑えたいと思っています。チャリティーは、アクティビティーの道具や食事、宿泊代として使わせていただきます」(大沢さん)

「JAMMIN×Hope tree」7/29〜8/4の1週間限定販売のチャリティーTシャツ(税込3400円、700円のチャリティー込)。チャリティーは、がんで親を亡くした子どもと遺された配偶者を対象にした「グリーフキャンプ」開催の資金となる

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、サンゴの周りに様々な魚が集まった海の中の世界。悲しいことや辛いことがあっても、ありのままを受け止め子どもをサポートするHope Treeの活動を、深い愛情ですべての生き物を受け入れる大海で表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、7月29日~8月4日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

がんの親を持つ子どもが孤独を抱えないように。がんをタブーにせず、がんの親とその家族が病気と向き合える環境を〜NPO法人Hope Tree

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。創業6年目を迎え、チャリティー総額は3,500万円を突破しました。

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