「価値観が多様化していく時代なので、テクノロジーを駆使して、様々な層に合った切り口でサステナビリティを啓蒙できるかが、日本のエシカルファッションの未来を切り開くカギ」――こう話すのは、『2030年アパレルの未来 日本企業が半分になる日』(東洋経済新報社)の著者の福田稔さん。ファッション業界に今後10年間で起こる変化として、「無駄な在庫を抱えない」「工場や店舗の無人化」「受注生産と大量生産の両立」などを予測する。ファッション業界はどう変わるのか、「WIRED」日本版編集長の松島倫明さんが聞いた。(オルタナS編集長=池田 真隆)
8月上旬、都内で「廃棄商品」を切り口にアパレル企業の未来を考えるプロジェクト「For Fashion Future」のイベントが行われた。毎年、廃棄される服の量は、製造量の半分とされている。当日は、エシカルやサステナビリティに関心の高いメーカーや流通、メディア関係者らが集まり、ファッション業界のビジネスモデルのあり方について議論した。
同イベントでは、経済産業省「服作り4.0」をプロデュースしたローランド・ベルガー パートナーの福田さんと「WIRED」日本版編集長の松島さんの対談が行われた。対談の要旨をまとめた。
■アパレル「エシカルではないと生き残れない」時代に
松島:福田さんはご著書のなかで、2030年には日本のアパレル企業は半分になると書かれています。その要因は何でしょうか?
福田:市場を人数×単価(支出)に分けて説明しましょう。まず人数ですが、2030年の日本の人口数は1億1900万人と推測されています。(参考:国立社会保障・人口問題研究所)2010年には約1億2800万人だったので、1000万人弱減る計算となります。そして、全人口の約3分の1が65歳以上と高齢化がますます進んでいます。高齢化はアパレル支出の減少を促進します。加えて、C2Cによる2次流通市場の拡大や、カジュアル化など単価を抑制する要因は沢山あります。こうしたことから、個人の服への支出額は減っていくと予測されています。
結果、バブル期には15兆円あったアパレル市場は2030年には半分以下の7兆円を下回る可能性もあります。川下側がこのようになる一方、アパレル業界の川上・川中では、事業承継が難しく高齢化に伴い廃業する会社も増えていきます。生き残っているアパレル企業は現在の半分程度になる可能性も十分にあります。
松島:服を買わなくなった背景としてご著書のなかで指摘されていておもしろかったのが、インターネットの発達は社会の情報格差の解消にもつながったわけで、これまでハイブランドは情報格差を意図して生み出すことで「憧れ」をつくっていたけれど、情報格差が解消されたことでその「憧れ」がなくなったことが要因の一つだというご指摘です。このようなデジタルテクノロジーによる「民主化」が起こる次の領域としてブロックチェーンが注目されていますが、海外での活用はどうでしょうか。
福田:たとえば、海外ではテクノロジーを活用して、トレーサビリティやサステイナビリティの担保を実現しようという動きが加速しています。リフォーメーションのようにブランド単位で行っている場合もありますし、非営利組織としては2011年に発足した米サンフランシスコが拠点のサステイナブル・アパレル連合(SAC)があります。
この団体では、環境への負荷を最小限に抑えるサプライチェーンの構築と労働環境の改善を目指し、それに賛同した200社以上のグローバル企業が参画しています。ファーストリテイリングが2014年に日本で初めて参画しました。製品の環境負荷を指数化して公開しており、消費者はその情報をいつでも見ることができます。
しかし、日本では、サプライチェーンの間に商社をはじめ多くの会社が入っていることが多いので、その素材がどこの工場や産地で作られたものか特定することが難しいのが現状です。
松島:海外の消費者はリテラシーが高いので、アパレル企業の取り組みが単なる「グリーンウォッシュ」(マーケティング目的のエコ)ではないのか、常に気を付けています。
福田:グローバルでは2030年に向けてサステナビリティへの共通意識があります。一方、日本ではサステナビリティがバズワード化していて、エシカルの捉え方も、それぞれの観念によって異なります。
例えば、コットンとレザーはどちらがサステイナブルなのか、エシカルなのかという議論があります。環境負荷を指標にすると、レザーはコットンの2倍以上環境負荷が高いです。
しかし、レザージャケットは10年以上着続けられます。そう考えると、コットンよりもレザーのほうが環境に優しいサステイナブルな素材とも言えます。ただし、エシカルかと言われると、動物愛護の視点が入ってくるのでコットンに軍配があがるでしょう。
日本と欧米のリテラシーの違いは、教育にあります。欧米で企業経営者になるようなエリート層は、学生時代に哲学や倫理についてよく学んでいます。エシカルやサステナビリティと経営や企業活動の関係性について考えられる素養があるのです。日本では、そもそも哲学や倫理についてあまり学んでおらず、経営をそのような視点から考えることも少ないため、エシカルというとすぐに「それ儲かるのか」という反応が返ってきます。
松島:10年後の社会では、そもそも服に求めるものも機能性だけでなく、変化していくのではないでしょうか。
福田:経済が成熟して文化的に発展した社会では、服の役割が機能性や情緒性から自己実現手段のための記号としての役割に変化していきます。今後はますます価値観が多様化していくので、不特定多数に刺さる一大ムーブメントは起こしづらいでしょう。
ただ、今後10年でエシカルな選択に好意的な消費者は一定の割合で増えていくと思うので、テクノロジーを活用して、それぞれに合った切り口で訴求できれば、エシカルファッションの未来は切り拓けると思います。
企業を変えるには消費者を変えることが重要です。外からの見方が変わってきたぞと企業に気付かせればいいのです。
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