アパレル大手ストライプインターナショナル(岡山市、石川康晴社長)が基幹ブランド「earth music&ecology」を立ち上げてから20年余りが過ぎた。当初から「エシカル(倫理的)」をコンセプトにしていたのは先見の明だが、この数年でようやく顧客の意識が追い付いてきた。石川社長はエシカルを掲げる目的は「ロイヤルカスタマー(優良顧客)」の開拓戦略だと言い切る。(聞き手・オルタナ編集長=森 摂、オルタナS編集長=池田 真隆 写真=飯塚 麻美)
*このインタビュー記事は第3弾となります。第1弾はこちら

インタビューに答える石川社長

ブランド名「エコロジー」の原点は「聖書」にあった

――1999年にエコロジーという言葉をブランド名に付けました。当時は、京都議定書が出たばかりで、CO2の削減やリサイクルなどの取り組みは起きていましたが、エコ的な要素を商品に取り入れたり企業戦略に落とし込んだりする動きはほとんどなかったと思います。

石川:1998年に聖書を読みました。クリスチャンではないのですが、ブランドをつくるときに、勉強のために色々な本を読みました。人生で最初に英語の本を読んだのがその「聖書」でした。

実は98年が赤字になったのです。それまで欧米から商品を買い付けて販売していたのですが、このビジネスモデルに限界を感じて、自分たちでオリジナルブランドをつくることを考えていました。

ブランドの存在意義を模索するなかで、経営戦略やマーケティング、デザインだけでなく、貧困やジェンダー、環境などの社会問題も考えていました。

最適な文献を探す中、ヒッピーは聖書を読んでいると聞き、英語でしたが、分からないながら読みました。そこで、ブランドの方向性を決める言葉に出合いました。読んだときに、「これだ」と思いましたね。

聖書に、環境が悪化し、動物が絶滅しても、相変わらずお金儲けばかり考えている人向けのメッセージを見つけました。この言葉に感銘を受けて、21世紀に大切な概念は「エコロジーだ」という考えにたどり着きました。

NPOとの出会いでエシカルへ

――貧困や児童労働、ジェンダーの問題もご存知だったとのことですが、「エコロジー」にこだわったのはなぜでしょうか。

石川:創業当時、まだ年齢が27歳だったので、人権や貧困以上に環境への関心度が高かったのですね。earth music&ecologyのスタートのときの素材のレギュレーションは、必ず環境に配慮した麻素材を全体の2割に使っていました。フリースにはリサイクルペットボトルやオーガニックコットンを使ったりしていました。

ただ、創業して15年くらいは、実態は利益第一主義でした。環境やエシカル、サステナブルに大きく舵を切ったのは2009年ごろですね。そこからearth music&ecologyのテレビCMも始めました。

――2009年に大きく舵を切ったきっかけは何でしたか。

石川:社会課題の現場で働くNPOの方と出会ったことが大きいと思います。私が出会ったのは、内モンゴル自治区で植樹活動をしているNPO法人「緑化ネットワーク」事務局長の方でした。活動に共感して、earth music&ecologyの森をつくろうと決めました。

2010年からの10年間で10万本を植樹することを目指しています。2016年までは社員も植樹活動に参加していて、その後はNPOに活動を委託しています。

SDGs推進は「1社1村で」

――earth music&ecologyを立ち上げたばかりの頃は、エコな要素を訴えてもあまり響かなかったと思いますが、幸いなことに、この2~3年でSDGsの浸透度はかなり高まっています。

石川:特にこの2年くらいは経営者がこぞって「SDGs」と言っていますからね。

私には、SDGsを推進していく上でこだわっている概念があります。それが、「1社1村運動」です。岡山県出身なので、申し訳ないのですが、ほかの地域よりも岡山により思い入れが強くあります。

1社1村という概念で、企業が屋号を構えた場所に貢献することで、行政の「薄く広く」をカバーできるのではないかと思っています。1社1村運動がSDGsを推進していくための日本のトレンドになればいいと思っています。

――2010年には、岡山県内の49歳以下の起業家や研究者、文化人を表彰する「オカヤマアワード」を立ち上げました。

石川:実はこのアワードを立ち上げたときに、かなり重鎮の方から、「人を表彰するのは死んでからするものだ。お前みたいな若造が人を表彰するなんて50年早い。死んでからやれ」と言われました。

でも、私は、2~30代で社会課題に向き合って頑張っている人に賞をお贈りすることで、その人たちのステージが変わっていくと期待しています。

オカヤマアワードは49歳以下の起業家、研究者、文化人を対象に、地域貢献をしながらもグローバルや全国に向かっている人を表彰するものですが、今年で10年目を迎えます。2010年に立ち上げたときの記者会見で、10年で一区切りと決めていたので、今年の11月が最後です。

――オカヤマアワードの後継は何かありますか。

石川:まだ考えていません。オカヤマアワードは次世代リーダーを表彰するものなので、さほど人口が増えない中で毎年新しいリーダーを輩出することが難しくなりました。これからは1年に1回は地方のアワードだと無理があるのではないかと思っています。

ただし、オカヤマアワードは一区切りですが、引き続き本社主導で岡山県の地域活性化を行い、一方で、全国に店舗がありますので、「ローカリングプロジェクト」というものもやっています。全国の店長が、主体的に行いたい地域活動には会社で予算をつける制度です。

――フェアサプライチェーンやダイバーシティ推進、デニムリサイクルなど社会性の高い取り組みを強化しておられます。これらのCSR活動による社内外の効果をどう認識していますか。

石川:会社を創業してから15年間は利益追求型でした。なので、当初はCSRを考えてもなかったです。15年目からもう少し社会に向き合おうと決めて、自社のCSRを考え始めました。当初は予算を使うだけで、例えば年間1億円の予算を取って、中国の砂漠で植林活動を支援するなどです。

いまはSDGs時代なので、環境保護だけでなく、児童労働や人権配慮などにも力を入れています。実は、去年、ダイバーシティ推進室がありましたが、年末にその室をSDGs推進室に変えました。

SDGsの中にもジェンダーの概念が入っているし、当社の社員のほとんどが「アライ」を表明しているのでそう決断しました。女性管理職比率も54%です。私もLGBTをはじめとするマイノリティへの理解を促進するイベント「東京レインボープライド」に率先して参加しましたし、社員が私にカミングアウトするようにもなっています。

「服をつくる会社」ではなく、「多様性をつくる会社」

当社は「服作り」ではなく、「多様性をつくる会社」だと認識しています。だから、アパレルブランドだけでなく、ホテルやレストランなどいろいろな業種にも着手しています。

アパレルを中心に、30以上のブランドがあります。仮に1ブランドや2ブランドしかなかった場合、一つの世界観にみんなが合わせる構造になると思います。

ですが、当社はピンクの髪の毛の子から茶髪の子、アジア人から欧米人もいて、「多様な会社」です。80歳近い匠職人もデスクに座って働いていますし、新入社員がブランドを持っている部署もあります。

多様性があることで、さまざまな事業が立ち上がり、会社が成長してきました。多様性からプロダクトが生まれて、テクノロジーを使って、マーケティングを行う。利益をきちんと生んで、サプライチェーンをSDGsに則ってクリーンにしていく。それらが好循環でまわる仕組みをつくろうとしています。

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石川 康晴(いしかわ やすはる)
株式会社ストライプインターナショナル
代表取締役社長 兼CEO
1970年12月15日岡山市生まれ。岡山大学経済学部卒。京都大学大学院経営学修士(MBA)。94年、23歳で創業。95年クロスカンパニー(現ストライプインターナショナル)を設立。99年に「earth music&ecology」を立ち上げ、SPA(製造小売業)を本格開始。現在30以上のブランドを展開し、グループ売上高は1,300億円、グループ従業員数は6,000名を超える。中国、台湾、ベトナム、インドネシアなど海外各国への進出も強化しており、国内外の店舗数は1,500店まで拡大。ファッションのサブスクリプションサービス「メチャカリ」や、ECデパートメント「STRIPE DEPARTMENT」、ホテル併設型グローバル旗艦店「hotel koe tokyo」など、最新テクノロジーを駆使したプラットフォーム事業・ライフスタイル事業にも注力。公益財団法人 石川文化振興財団の理事長や、国際現代美術展「岡山芸術交流」の総合プロデューサーも務め、地元岡山の文化交流・経済振興にも取り組んでいる。


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