利益編重の資本主義からの脱却を図り、共感資本社会を目指す取り組みが始まった。先導するのは、eumo(ユーモ)の新井和宏代表。上場・非上場に関わらず「いい会社」に投資するという独自の投資哲学を持つ鎌倉投信の創業メンバーの一人だ。「変革は地方から始まる」と話す新井氏に展望を聞いた。(オルタナS編集長=池田 真隆)

共感資本社会を目指すeumoの新井社長

私は昨年9月に、10年間働いてきた資産運用会社である鎌倉投信を辞めてeumo(ユーモ)という会社を立ち上げました。eumoでは共感や信頼関係がお金に代わる資産となる「共感資本社会」の実現を目指しています。

事業内容を説明する前に、まずなぜ鎌倉投信を辞めて新たな会社を創業したのかについて説明したいと思います。私は2008年11月に志を同じくする4人の仲間と鎌倉投信を立ち上げました。2010年3月からは投資信託「結い 2101」の運用責任者として、上場・非上場に関係なく「いい会社」に投資してきました。

経済的な指標だけでなく社会性も重視する、投資先企業をすべて公開するなど、従来の常識をくつがえす投資哲学のもとで運用してきて、約1万9千人の個人投資家から純資産総額360億円(2018年5月時点)を集める規模までに成長しました。

一方で、課題も感じていました。それは、非上場企業への投資です。「結い 2101」では6社の非上場企業に投資をしていましたが、全て社債への投資です。投資信託ではルール上、非上場企業の株式へ投資することは可能ですが、実際はできませんでした。

6社の投資先の1社に今治にあるオーガニックタオルメーカーのIKEUCHI ORGANICがあります。赤ちゃんが口に入れても害がないタオルをつくっていて、電力は100%風力発電。私が理想とする社員を大切にしながら安定的に成長していく「年輪経営」を目指している、大好きな会社です。

この会社はベンチャーキャピタルからの出資も受けていて、昨年6月に投資契約の期限が3カ月後の9月末に迫っていると相談を受けました。

鎌倉投信では非上場のIKEUCHI ORGANICの株式に出資できない。どうするか考えた結果、その年の8月に鎌倉投信を辞めるという選択肢を選びました。これが、私がeumoを創業した経緯です。昨年の9月13日にeumoを立ち上げ、ベンチャーキャピタルからIKEUCHI ORGANICの株式を買い取りました。

eumoの事業を説明します。IKEUCHI ORGANICへの投資に加えて、共感資本社会を実現するための人財を育てる教育事業「eumo academy」を行っています。

eumo academyでは様々な分野の第一人者が講師として登壇

eumo academyはすでに第1期が始まっています。全8回の連続講座と約5ヶ月間の地域でのイノベーションを起こす活動で、20代から66歳までの19人が受講生です。東京の六本木で毎月集まるのですが、わざわざ岡山や福岡から来ている人もいます。共感資本社会を理解してもらい、社会関係資本を増大させる仕組みを学びます。

資本主義社会では会社の重要な評価軸は利益ですが、共感資本主義では評価軸は一つではなく、多様にあると考えています。地域への貢献、社会性、社員の自己追求など違って構わないことが前提にあり、多様性があることで創造性豊かな社会につながります。

講座のテーマは、幸福経営論、ブロックチェーン、SDGs経営などで、共感資本社会で人々が幸せに生きる仕組みを追求していきます。例えば、成人発達理論(講師:立石慎也・パフォーマンスデザイン社長)を学ぶ回もあります。スポーツ選手らのメンタリングを行う立石さんは、「栄光を手に入れると、手に入れたことに引きずり込まれる」と指摘します。

つまり、成功体験にとらわれすぎて、次の成功をつくることができない状況に陥ってしまうことがあると言うのです。手放す行為について学びます。飛騨高山でフィールドワークも行っています。地方には社会課題が山積しているので、地方のソーシャルベンチャーと都市の人財をつなげることが狙いです。フィールドワークでは船坂酒造や飛騨産業、地域通貨を展開している信用組合などを訪問しています。

最後に、独自の共感コミュニティー通貨である「eumo Coin」をつくって、今年の9月15日から実証実験をスタートします。将来的には上場ではなくICO(Initial Coin Offering/新規仮想通貨公開)に変わっていく流れが起きるかも知れませんから、それに合わせられるように考えています。

「eumo Coin」では関係性をお金に換えていきます。使用期限を設定、直接現地に行かないと使えない、顔が見える――など色々な制約をつけた新しいお金です。例えば、「eumo Coin」は1コイン1円換算で、そのコインを使える地方企業が運営するお店に足を運ぶとします。実際にコインを使い終えた後に、使用期限切れのコインを再配布するロジックを検討しています。

動き続ける限り、お金になる新しいお金なので、将来的にはベーシックインカムとして配布したいと考えています。幸福度と成人発達度を可視化して計測する成人発達支援プロジェクトのプラットフォームの開発も進めています。(談)

eumo

新井和宏:
1968年生まれ。東京理科大学卒。
1992年住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)入社、2000年バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック・ジャパン)入社。公的年金などを中心に、多岐にわたる運用業務に従事。2007~2008年、大病とリーマン・ショックをきっかけに、それまで信奉してきた金融工学、数式に則った投資、金融市場のあり方に疑問を持つようになる。2008年11月、鎌倉投信株式会社を元同僚と創業。2010年3月より運用を開始した投資信託「結い2101」の運用責任者として活躍した。2018年9月、株式会社eumo(ユーモ)を設立。


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