ジャーナリストの堀潤氏が制作した日米メルトダウン事故に迫ったドキュメンタリー「変身-Metamorphosis」が2月15日、渋谷アップリンクで公開された。公開を記念してトークセッションが行われ、堀氏に加え、ゲストには元内閣官房参与の田坂広志氏が加わった。原発事故から3年が経過した今、田坂氏は、「イデオロギーの対立から脱却し、1万7000トンある使用済み核燃料の最終処分について法的枠組みをつくり、現実的で建設的な議論を展開するべきであろう」と話した。(オルタナS副編集長=池田真隆)

写真左からトークセッションに参加した堀氏、田坂氏と、司会を務めたユナイテッドピープルの関根健次代表

堀氏が制作した同映画の一つのテーマは、「忘却」だ。福島第一原発で働いていた元作業員の内部告発映像が4割で、残りの6割を堀氏が撮影した。「脱原発か原発推進かの2極論ではなく、現場の実態を伝えることによって、原発事故の悲惨さを忘れないためにつくった」と言う。

「歴史は繰り返す」という言葉があるように、人は過去にも同じような過ちを繰り返してきた。堀氏は同映画の取材で、米・スリーマイル島で1979年に起きた原発事故の現場を訪れた。

「日米メルトダウン事故に迫ったドキュメンタリーを制作している」と周辺地域で市民運動に携わる人に伝えたところ、「残念だけど、君も、その映画もいつか忘れさられてしまうよ」と言われたという。

同映画では、スリーマイル島原発事故や福島原発事故以外にも、サンタスサーナ原子炉実験場事故(1959年)も紹介しているが、約半世紀前に起こったサンタスサーナ事故への関心は低い。

そもそも事故当時もマスコミ報道が皆無で、米国内でもほとんど知られることがなかった。しかし、今でも、がん・白血病など放射線被曝が原因と思われる疾患にかかった地元住民たちが懸命に原因究明の努力を続けている。

EPA(米国環境保護庁)は住民公聴会を主催し、現在もなお空間線量の高いことを認め、除染を約束した。しかし、DOE(米国エネルギー省)は、「50余年以前の原子炉メルトダウンと個々の疾病の間の因果関係は明らかではない」と被曝住民の訴えを切り捨てた。

同映画では、このサンタスサーナ原子炉事故に対する国民の関心は低いが、今でも事故で苦しむ人々の戦いは続いていることを伝えている。

■世界を含めた政策論を

日本の福島第一原発事故も忘却されてしまうのか。事故から3年が経過しつつあるが、2012年には民間人による独立事故検証委員会なども立ち上がったが、マスコミ報道は少ない。

しかし、田坂氏は、「福島原発事故は、忘却できるものではない。決して逃げられない問題だ」と断言する。それは、高レベル放射性廃棄物と使用済み核燃料の最終処分方法がまだ定まっていないからだ。

先に行われた都知事選でも、「原発問題が真の争点にならない」と言われたが、その理由は、「福島原発の問題を『廃炉』という言葉で片付けて、現実を見ていないからだ。しかし、メルトダウンを起こした福島の3つの原発は、世界に存在する最も危険で厄介な高レベル放射性廃棄物の塊であることを忘れてはならない」と田坂氏は言う。

さらに、田坂氏は、「推進か反対かというイデオロギー的対立はやめて、現在、すでに存在している1万7000トンの使用済み核燃料の長期貯蔵について、法的枠組みをつくって解決していくべきだろう」と述べ、これまで原子力発電から恩恵を受けた割合に応じて、使用済み核燃料を各都道府県が責任を持って引き受け、長期貯蔵する法律を検討するべきだと提案した。

原発から発生する高レベル放射性廃棄物や使用済み核燃料の放射能が安全なレベルになるには、数万年から10万年を要するが、現在、政府が検討しているのは、地下深くに穴を掘り、そこに埋めることで人間環境から隔離する「地層処分」という方式である。

これらの放射性廃棄物を地下深くに埋設することは「技術的には難しくない」が、「それが10万年間安全であることを証明することが極めて難しい」と、田坂氏は指摘する。

また、これまで「電源立地交付金」によって地域経済を維持してきた原発立地自治体を、脱原発の方向に向けるためには、新たに「脱原発交付金」のような制度を導入することの必要性も訴えた。

さらに、日本だけが脱原発を推進しても、近隣諸国が事故を起こした場合には、我が国も甚大な被害を受ける可能性がある。現在、日本政府は、ベトナムやトルコなどに原発を輸出する考えだが、我が国は世界で最高水準の「原子力環境安全産業」を育成し、その技術を、世界に提供していくことが必要であると、田坂氏は述べた。

・「変身-Metamorphosis」の公式サイトはこちら