1年間に新たにがんと告げられる患者のうち、18歳未満の子どもがいる患者の数は56,143人、その子どもたちの数は87,017人と推定されるというデータがあります(国立がん研究センター)。「子育てをしながらがんと向き合う母親とその家族を支えたい」と活動するNPO法人に話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

闘病中の親子を対象にイベントを開催

2017年4月に開催した、がんと向き合う親子のためのチェロコンサート。「普段の生活が張り詰めていることが多い子育て中のがんのママたちにとってはチェロの音色がとても癒しの時間になりました」(金城さん)

福岡市を拠点に活動するNPO法人「NPO法人がんのママをささえ隊ネットワーク ETERNAL BRIDGE(以下「エターナルブリッジ」)」。がんと向き合う母親とその子ども、周りで支える人たちのための様々な情報やイベントを提供しています。

「当事者同士が語り合う『かたり場』を毎月運営していますが『かたり場plus』として、親子で楽しめるクッキングやコンサート、ストレッチやウォーキングなどのイベントをセットで開催することもあります」と話すのは、団体副代表の金城舞(かねしろ・まい)さん(40)。乳腺外科の医師として働きながら、3人の子どもを育てる母親でもあります。

お話をお伺いした金城舞さん。息子さんと一緒に

「私たちは”母親”という視点からがん患者さんとそのご家族をサポートしていますが、狙いはいくつかあります。一つは、イベントに参加してもらうことで、親子が自然に楽しみながら良い時間をつくってもらうこと。もちろん治療して元気になる方が多数ですが、残念ながら亡くなってしまうお母さんもいます。がんになったからといっていろんなことを諦めるのではなく、治療中に一緒に楽しい時間を持つことが、後々になって良い親子関係の礎になります」

「もう一つは、イベントを通じて、子どもにお母さんの生き方や考え方、存在を感じてほしいということ。万が一お母さんが亡くなってしまったとしても、その子の中で『お母さんはこうだったな』『お母さんと一緒にこんなことをしたな』という思い出があることで、その後も強く生きていくことができると思っています」

がんになった母親が、一人で悩みを抱え込んでしまう現実

2019年7月の「かたり場 plus アロマセラピー」の様子。各人の好みと体調に合わせ、セラピストによる調合でオリジナルのmyオイルが完成

がんと闘病しながら子育てする母親はどんな悩みや不安を抱えているのでしょうか。

「普段医師として働く中で、子育てをしているお母さんにがんを告知した時、一番に口から出てくるのは子どものこと」と金城さん。

「ただでさえ大変な子育てなのに、そこに治療が加わるとなると、時間的にも精神的にも大きな負担となります。子どもの食事は誰が用意するのか、習い事の送り迎えはどうするのか…、『どうやって子育てをしよう』『どう両立したらいいんだろう』という不安を感じるお母さんが多いです」

「入院中は旦那さんや親御さんに協力してもらったり、それが難しい場合は育児院に預ける方もいらっしゃいます。治療中は薬の副作用などで体調が優れず、思うように動けないこともあります。本当に大変で、皆さんどうされているのだろうと思います」

「治療のために脱毛中のママと、まだ髪の毛が生えそろっていないお子さんとの笑顔のツーショットです。いろんな理由で頭はお揃いだけれど、親子でいれば笑顔になれる、幸せが伝わってくる一枚です」(金城さん)

さらには、子どもや周囲のママ友、近所の人などに病気のことを隠していることで「母親が一人で問題を全て抱え込み、余計につらくなってしまう」という現実があると指摘します。

「なかなかまだ、がんであることを我が子や周囲の人たちに伝えられない現実があると思います。やはりがんに対する社会のイメージが悪すぎるところがあって、真面目なお母さんであればあるほど『子どもがかわいそう』『周囲に心配をかけたくない』とあちこちに気を配って、周りに言えないままどんどんしんどくなってしまう。『がんになったら終わり』ではなく、がんになっても笑顔でいられる時もあるし、家族でいられるんだということ、でもそのためには、周囲の理解と少しの支援が必要なんだということを、もっとたくさんの人に知ってもらいたい」

「かわいそう」ではなく
「みんなで支え合おう」という世の中に

2017年8月に開催した親子でのクッキングイベント。「お母さんたちが料理を習っている間に、子どもたちにも簡単な健康おやつを作ってもらいました。お母さんのためにできることが一つでも増えると、それだけで子どもたちにとっては力になります」(金城さん)

「これまで、社会があまりにがんの当事者のことを知らなさすぎたのではないか」と金城さんはいいます。

「子育て中の母親のがんは、芸能人の方のカミングアウトがあって広く認知されたところがあります。がんになること、そして子育て中の母親ががんになることも特別なことではありません。ある日突然、自分がその当事者になってしまうかもしれないのです。他人ごとの『かわいそう』ではなく『みんなで支え合って乗り越えていこう』という世の中になってほしい」

エターナルブリッジが出版した体験談集。「企授乳期発症の方、シングルマザーの方、再発している方、お仕事していたり専業主婦だったりと様々な立場のママの体験談を掲載しています」)(金城さん)

エターナルブリッジでは、がん治療中の母親の体験談を出版したり、がん治療中の母親とそのご家族の写真展を企画したりといった活動も行いながら、「がんになっても、強く前を向いて生きている」「がんになっても笑顔で家族でいることができる」ということを広く知って欲しいと啓発に取り組んでいます。

「それを知っていれば、これからがんになるかもしれない人が告知を受けた時にどん底に落ち込むことはないかもしれないし、近くにがんの方がいた時に、笑顔でいられるように支えようという気持ちになってくださるのではないかと思っています」

「同じ母親として、やりきれなさを感じた」

「あるお母さんが抗がん剤治療で脱毛している時に、娘さんが幼稚園で描いたママの絵です。ちゃんと髪の毛が描いてありました」(金城さん)

金城さんがこの活動を始めたきっかけについて尋ねてみました。その一つは、乳がんを乗り越えて結婚・妊娠したある患者の存在だといいます。

「その患者さんは妊娠中に再発がわかり、お腹の中に初めての子を宿しながら抗がん剤治療を受け、31週で出産しましたが、その子がハイハイをする前に亡くなりました。最期は体のあちこちにがんが転移していて、脳にも転移していたので、意識が朦朧としたまま、子どもに何かを伝えたり思い出をつくったりという時間もないままに亡くなったんです」

「一体どんな思いで彼女が子どもを産むことを選択したのか。遺していく我が子にどんな思いを抱いていたのか。彼女の母親としての思いは、とても言葉では表現できない思いであったと思います。そしてその思いや母親としての深い愛情を、彼女が亡くなってしまったあと、一体誰がその子に伝えてくれるのか。今でもずっと心に引っかかっています」

「我が子をたった一人遺してどんな思いで亡くなっていったのか。同じ子を持つ母親としてやりきれなさを感じました。そんなことが重なり、活動を始めたんです」

「がんになっても揺るがない親子の絆」を
築いておくことが大切

エターナルブリッジが開催しているイベント『治療中でも笑顔で家族写真』。「お子さんが生後10か月でお母さんの乳がんがわかったご家族です。もうすぐお子さんが8歳、自分もサバイバー歴8年の記念に念願の家族写真が撮れました」(金城さん)

医師として、これまでに子育てをしながら闘病するたくさんの母親やその家族の苦悩を目の当たりにしてきた金城さん。

「『死ぬかもしれない』という事実は、そう簡単に受け入れられることではありません。しかしそこと向き合った時に、我が子にいろんなものを遺してあげられるのではないかと思います」

「でも、はじめて向き合った時にはもう残された時間が少なかったり、厳しい現実に向き合うこと自体が難しかったりします。私たちの活動は一見、親子で楽しく遊んでいるように見えるのですが、先々を見据えて、親子で一緒に過ごす時間、語り合う時間、『がんになっても揺るがない親子の絆』を少しずつ築いていくという目的があります」

親子で味噌作りのイベントを開催した時の1枚。「お母さんと一緒に作ったお味噌を使ってお味噌汁を作るたび、食べるたび、お母さんとお味噌を作った温かい時間やお母さんのことを思い出してほしいとの願いが込められています。お味噌づくりは毎年開催しています」(金城さん)

「お母さんの思いの大部分は子どもへの思い。私自身、『母親からの目線』しかわからない。同じ親でも、父親の目線はわかりません。でも、母親の目線はある程度理解できる。だから、お母さんの困っている部分をサポートしたいし、思いをかなえてあげたいと思っています」

「がんになったからといって、子どもがお母さんの愛情を感じとれなくなることにはしたくないんです。お母さんの愛情を、先々生きていく力に変えて欲しい。がんになったからこそ、より深く親子が向き合い、深い愛情を感じながら生きていってほしいと願っています」

がんになった母親が、家族に思いや愛情を遺すプロジェクトを応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、エターナルブリッジと1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×エターナルブリッジ」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、闘病中の母親が子どもや家族に思いを伝えることを支援するプロジェクトのための資金となります。

「遺されたご家族に向けて、10年後まで毎年希望の時に手紙を届けることができるタイムカプセル郵便や、家族で手形や足型アートをつくったり、家族写真を撮影してもらったりと内容は様々です。このプロジェクトは私たちの活動の原点であり、ずっとやっていきたいと思っています。ぜひ、チャリティーで応援していただけたら」(金城さん)

「JAMMIN×エターナルブリッジ」11/11~11/17の1週間限定販売のコラボアイテム(Tシャツは税込3500円、700円のチャリティー込)。アイテムは他にキッズサイズTシャツやバッグ、パーカーなども

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、虹のような架け橋。がんになっても揺るがない親子や家族の絆だけでなく、周囲の人たちとも温かい関係を築くエターナルブリッジの活動を表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、11月11日~11月17日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

がんと闘う母親が、治療中であっても子どもや家族に愛情を注ぐことができ、笑顔でいられる環境を〜NPO法人がんのママをささえ隊ネットワーク ETERNAL BRIDGE

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、チャリティー総額は3,700万円を突破しました。

【JAMMIN】


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