日本には原因が不明、または治療法のない子どもの難病が、国の指定を受けているものだけでも760以上あることをご存知でしょうか。そしてまた、難病とともに暮らす子どもの数は25万人を超えるといいます。医療技術が進歩し、長く生きられる命が増えている一方で、制度が十分に追いついていない現実があります。(JAMMIN=山本 めぐみ)
難病の子どもとその家族を支援して30年
東京に事務所を構える認定NPO法人「難病のこども支援全国ネットワーク(以下「難病ネット」)」は、難病の子どもとその家族を支援したいと、難病の子どもを持つ親と医療者が中心になり、1988年に活動をスタートしました。
30年前は、ピアサポート(同じ立場の人による支援)という言葉さえ全く知られていない時代。「かなり先駆的な取り組みだったと思う」と話すのは、団体専務理事の福島慎吾(ふくしま・しんご)さん(53)。24歳になるお子さんは、日本に1000人ほどとされる神経難病・脊髄性筋萎縮症(せきずいせいきんいしゅくしょう、SMA)を持って生まれてきました。
団体の活動は、難病の子どもを持つ家族の電話相談からスタートしました。当時はほかに相談できる場所がなく、電話が殺到したといいます。
現在は月〜金曜日の朝11時から午後3時まで、医師や看護師、社会福祉士や精神保健福祉士など専門の知識を持つ相談員が相談に応じ、医療に関する相談だけでなく福祉や教育などの相談も受け付けています。
さらに気軽に相談や話ができる場所として、病院に拠点を設けてのピアサポート活動にも力を入れており、現在は東京都内の3つの病院と、神奈川県と埼玉県の2つの病院に拠点を設けています。
「子どもの病名を告知されてすぐは特に、親御さんは悩みや不安を一人で抱え、孤独を感じています。この相談は予約不要で、病院に来たときに日頃の悩みや不安を吐露できる場。
親御さんが「悩みを聞いてくれる人がいる。相談できる人がいる。一人ではないんだ」と感じられるようにというコンセプトで運営している場でもあります」と話すのは、団体主任の本田睦子(ほんだ・むつこ)さん(47)。本田さんは、日本全国に100人もいないとされる希少難病「ペナ・ショッカー症候群」により幼い我が子を亡くしました。
サマーキャンプや宿泊施設運営等、交流活動にも力を入れている
「難病のある子どもがいる家庭は、普段の生活がどうしてもこもりがちになる」と福島さん。
難病ネットでは、交流活動として「友だちをつくろう」を合言葉に、全国7箇所でサマーキャンプ“がんばれ共和国”を開催しているほか、山梨県北杜市にある“あおぞら共和国”にて、難病のある子どもとそのご家族、支援者が無料で利用できる宿泊施設の運営を行っています。
「宿泊施設は4年前にオープンし、これまででのべ6000人以上のご家族にご利用いただきました。事前に事務局へ予約いただいて、無料でご利用いただけます。行楽シーズンはあっという間に埋まってしまう、人気の施設です」(本田さん)
「大自然と触れ合い、家族や仲間たちで過ごせるみんなの別荘、といったイメージです。将来的には診療所をつくり、何かあった時のためにドクターが常駐できたらいいなという夢もあります」(福島さん)
さらに、交流活動として関東・関西で「親の会連絡会」を定期的に開催しています。
指定難病だけでも760超。子どもの難病の現状
現在、日本で指定難病に指定されている疾病の数は333。この指定を受けていれば医療費負担の軽減などの支援を受けることができます。子ども特有の疾病については、別の制度で「小児慢性特定疾病(略して「小慢」)というものがあり、ここに関しては、指定されている疾病の数は762に上ります。
「皆さん、たくさんあるねと驚かれるのですが、指定されていない本当に希少な疾病も含めるともっとたくさん、それこそ何千何万という病名があるといわれており、25万人以上の患者がいるとされています」と福島さん。
また近年では、これまでの医療で同じ病名であったものでも遺伝子レベルで調べることができるようになり、厳密には違う疾病であるということもわかってきました。
「難病の治療研究、医療費の助成などを含む福祉サービスなどは『疾病単位』になりますが、学校や仕事のことなど生活面についてはライフステージによって抱える問題こそ変わるものの、当事者家族の方たちにとっては『実はそこに病名はあまり関係ない』ことも多い」と福島さんは現状を指摘します。
「困ったことがあった時に近くに相談できる場所があって、気持ちを吐き出せたり理解し合えたり、支え合える人や仲間がいることが大きな力になる。病名を超えて、このネットワークがあることで出会いが生まれ、子どもや親御さん、ご家族の価値観や生き方が変わっていく。それが我々の強みだと思っています」(福島さん)
難病のある子どもたちやその家族が抱える課題とは
また、医療技術の進歩によって難病のある子どもが長く生きられるようになった一方で、家族にとって一生涯続く医療費の負担は決して軽くなく、課題がまだまだ残っていると福島さんは指摘します。
「『指定難病』や『小慢』とされていない、何千何万もあるとされる難病もあわせた時に、支援の網の目から漏れてしまい、公的な支援が行き届かず負担を抱えているご家族があります。疾病によっては制度の谷間に落ち込んでしまい、高い医療費を負担し続けるというケースもあります」
さらにもう一つの課題として、「トランジション」と呼ばれる、子どもの難病ならではの問題があります。「子どもの難病」であるがゆえに、20歳の誕生日を迎えるとそれまで受けていた医療費の助成が受けられなくなってしまうというのです。
「小慢」に指定されていて、なおかつ「指定難病」でもある疾病は、762のうち、約半分の48%。つまり、残りの52%の疾病については、20歳になった時点でそれまで受けていた支援が継続して受けられなくなってしまうのです。
「そうすると家族の医療費負担が大きくなり、それまでと同じ薬を飲み続けることができなくなって治まっていた症状が再発したり悪化したりといったことが起きてくる」と本田さん。
「当事者やその家族の日々の生活を考えた時、病名があまり関係ないのと同じように、年齢もまた同じ。当事者の声を伝え、20歳を過ぎても引き続きそれまで通りの公的な支援や医療を受けられるように働きかけていくことも私たちの課題の一つです」(本田さん)
「私がこの団体に携わるようになった15年ほど前と比べて、少しずつ時代も変わってきました。行政や医療職などの専門職・研究者なども少しずつ我々の声に耳を傾けてくださるようになりましたし、国や自治体、病院や研究機関の会議にも当事者側の委員として入るようにもなりました。
また、希少な疾病の親の会・患者会も増えています。それぞれは小さくても、つながることでそれがやがて大きな力になり、課題の解決に向けて加速していくのではないでしょうか」(福島さん)
誰もが生きやすい社会を目指して
「難病や障害があっても、その子どもが同年代の子どもたちと地域でともに育ち、ともに遊び、ともに学ぶ共生社会をつくっていきたい」と二人。
「そのためには、限られたことを限られた人たちとやるのではなく、すべての人たちに開かれた活動としてやっていく必要があると思っていて、そこで重要になってくるのが学校教育だと捉えています。
30年後ぐらいになるかもしれませんが、合理的な配慮を受けつつ、年齢の小さい頃から難病や障害のある人もない人も一緒に暮らしていく環境が普通になれば、社会そのものが大きく変わるのではないでしょうか」(福島さん)
「地域の中で暮らしていく時に、お互いに『いろんな人がいるんだよ』ということを知ることができたら、難病や障害のある人だけでなく、誰もが生きやすくなる。そこを目指していくお手伝いが今後もできればと思います」(本田さん)
宿泊施設“あおぞら共和国”の運営を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、難病ネットと1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×難病ネット」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、難病の子どもとそのご家族が無料で利用できる宿泊施設“あおぞら共和国”の運営資金となります。
「宿泊は無料で提供していますが、経費として一泊一人あたり約2,800円がかかります。チャリティーアイテムで、ぜひ私たちの活動を応援いただけたら」(本田さん)
JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、同じ一つのバスに乗って、嬉しそうな表情を浮かべる様々な動物たち。病気や障害の有無に関わらず、誰しもに楽しみやワクワクする空間があることを表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、12月2日~12月8日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・難病の子どもとその家族を支援して30年。難病のある子どももそうでない子どもも、ともに生き、輝ける社会を目指して〜NPO法人難病のこども支援全国ネットワーク
山本 めぐみ(JAMMIN): JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は280を超え、チャリティー総額は3,900万円を突破しました。