社会福祉の第一線で活躍する若手を表彰する「社会福祉HERO’S TOKYO 2019」(主催:全国社会福祉法人経営者協議会、以下全国経営協)の決勝大会が12月10日、渋谷ストリームで開かれた。7人のファイナリストが取り組みを5分ほどでプレゼン。会場の投票の結果、グランプリには特別養護老人ホーム「萩の風」を運営する社会福祉法人ウエル千寿会(宮城県仙台市)の田中伸弥さんが輝いた。(オルタナS編集長=池田 真隆)
「死についてご家族と話し合ったことがある人、手を挙げてもらえますか?」ーー田中さんのプレゼンはこの問いかけから始まった。
将来、社会福祉分野への就職を考えている大学生ら100人弱が集まった会場からはまばらに手が挙がる。「そうですよね。本来、生と死は通じ合っているのに、死について考える機会は少ない。なぜでしょうか?」。
■看取りを開いた特養
特別養護老人ホームで働く田中さんが行った改革は、看取りを開いたことだ。入居者が最期を迎えるまで、職員だけでなく地域住民との交流の機会をもたらした。
地域の人が自由に出入りできるように生垣のない庭をつくり、子どもたちが気軽に遊びに来られるように駄菓子屋をつくった。
さらに、就業支援や、地域振興プロジェクト、子ども食堂の開設など、地域との接点を積極的に増やした。
ICTを導入して、さらに垣根を取っ払った。スマートフォンで入居者の状況を家族と共有するサービスを導入。日々の様子を写真や動画にして、投稿でき、その投稿にコメントを付けることができるようにした。「入居者とご家族との信頼関係があるからこそできること」とする。
死を遠ざけて考えるようになった背景についてこう説明した。「日本社会が経済成長を優先して発展したことで、邪魔なもの・停滞するもの・非効率なものを隠してきた。この一環で地域のなかで死は閉じられてしまった」。
「生きることと死ぬことは、本来同じことなのに、死ぬことだけを隠してしまったから、どう生きていけばいいのかわからなくなってしまった」とし、死を地域に開くことで、地域住民と入居者の接点をつくり、生きた証として「命をつなぐこと」を目指した。
京都府城陽市を拠点とする社会福祉法人南山城学園の障害者支援施設「魁(さきがけ)」で働く佐藤走野さんは、「福祉に携わることなら何でもしたい」と言い切った。
施設で働きながら、京都府災害派遣福祉チーム「京都DWAT」の一員として、災害時に障がいのある人などへの支援活動も行っている。佐藤さんは幼少期から20歳まで児童養護施設で過ごした。「何でもする」と断言する背景には、育ててくれた「社会福祉」への恩返しの思いがあった。
福岡県にある社会福祉法人柚の木福祉会営業次長の藤田智絵さんは、同団体が県内の小学校の余裕教室で、知的障がいのある方が働く作業所を運営している取り組みを紹介した。
加えて、老人ホームの入居者をモデルにしたファッションショーを開く社会福祉法人豊悠福祉会(大阪)の中嶋ゆいさん、農福連携でのまちづくりを展開する社会福祉法人弘和会(石川)の宮中経助さん、ICTを導入して働き方改革を行う社会福祉法人江東会 西区南堀江保育園てのひら(大阪府)の保育士・福島里菜さん、Jリーグクラブと連携して健康体操を広める社会福祉法人ひとつの会(山口県)の介護福祉士 谷口洋一さんが登壇した。
イベントでは、特別ゲストの谷まりあと大学生たちとのトークショーも実施された。登壇したのは、ファイナリスト7人のもとへ行き、密着取材を行った学生たち。
谷まりあも介護施設に訪れており、自身の経験を踏まえて、学生たちと社会福祉の魅力を話し合った。トークショーに登壇した多田野豪さん(明治大学)は、「今回の企画を通して、社会福祉が、自分を含め多くの人たちの生活をずっしりと支えているのだと実感しました。今後もっとたくさんの人に知ってもらいたいと思っています」と話した。