無添加石けんを販売するシャボン玉石けん(福岡県北九州市)の森田隼人社長は、社会性を追求することが経済性を伸ばすことにつながると断言する。森田社長は創業者である先代の光徳氏から30歳の時に事業を引き継ぐと、新聞に意見広告を出したり、講演に登壇したりすることで消費者の啓もうに力を入れてきた。(オルタナS編集長=池田 真隆、編集部=多田野 豪)

シャボン玉石けんのの定番人気商品の「浴用石けん」、香料、着色料、エデト酸塩(EDTA-4Na)などの酸化防止剤、合成界面活性剤を使用していない無添加石けん

1910年創業の同社では、「健康な体ときれいな水を守る」という企業理念のもと、45年前から無添加石けんづくりを行う。無添加石けんのパイオニアとして知られるが、実は創業当時の主力製品は環境負荷の高い合成洗剤であった。国鉄(現JR)などを大手クライアントに抱え、月商は8千万円に及んだ。

転機は1974年に起きる。国鉄へ合成洗剤を納めていたが、錆が早いという理由で、無添加石けんの製造を依頼される。早速、試作品をつくると、当時社長だった光徳氏も自宅で使った。光徳氏は原因不明の赤い湿疹に悩んでいたが、無添加石けんを使うことで、湿疹が出なくなった。これまで悩んでいた赤い湿疹の原因が、自らがつくった合成洗剤だと分かると、環境や人に悪いものはもう売らないと一大決心を下す。

しかし、その志に反して現実は厳しかった。合成洗剤と比べると製造工数が掛かる無添加石けんは割高で、かつ、社会の理解も低かった。8千万円あった月の売上高が78万円に激減し、社員からの訴えもあったが、「悪いと分かった商品は売るわけにはいかない」と軸はぶらさなかった。その結果、100人いた社員も相次いで離れ、わずか5人になってしまい、赤字経営が17年間続いた。

■品質と啓もうの両輪で復調

直近の売上高は67億円で黒字だが、回復できた要因は何か。森田社長は、取材中に「消費者への地道な啓もう」と繰り返し述べる。1991年には光徳氏が『自然流「せっけん」読本』を出版。化学物質や添加物の人体や生態系への負の影響を知った読者の口コミが広がり、17年間続いた赤字経営が復調の兆しを見せる。

森田隼人社長

先代の父の覚悟と姿勢から学んだことを、森田社長も継続して行う。2018年には、柔軟剤や制汗剤スプレーなどの人工的な香りによって、頭痛やめまいなどの体調不良を引き起こす健康被害である「香害」を警鐘する意見広告を大手新聞に出して話題になった。香りに含まれる成分は、化学物質過敏症を引き起こす原因の一つ。重症になると、仕事や学校へ行けなくなるなど、日常生活にも支障をきたす「環境病」である。

自社サイト上には、「合成洗剤との違い」や「無添加へのこだわり」についての説明が豊富に掲載されている。添加物の含有量が1%未満の場合、成分欄に表記する義務はない。そのため、香料などを添加していながら成分欄に表記していない石けん・合成洗剤メーカーもあると注意喚起している。合成洗剤に含まれる合成界面活性剤のなかには、人の健康や生態系に有害な化学物質に指定されているものがあるとも紹介している。

同社では人体への安全性や高い生分解性を持つ石けんを学術的に調べる研究所を設立。研究成果は、地球環境に優しい化粧品や家庭用品づくりに生かしている。

さらに、SDGsの達成に貢献するため多彩な社会貢献活動も行う。人気商品である「シャボン玉浴用3個入り」の売上高の1%を、安全な水を利用できない国での井戸建設などの活動に寄付している。

インドネシアで泥炭火災の消火実験をしたときの様子

また、世界で初めて環境にやさしい石けん系消火剤を開発し、2013年からは、インドネシアにおける森林・泥炭火災用消火剤の開発・普及に取り組んでいる。焼き畑などが原因で、森林火災と泥炭火災が多発しており、煙害や温室効果ガスの発生など国際的な問題に発展している。

水のみでは消火が難しく、長期化・広域化しやすい泥炭火災だが、石けん系消火剤は、小水量で素早く消火できる上に、環境への残留性が低い。この取り組みが、高く評価され、環境省グッドライフアワード「環境大臣賞 企業部門」を受賞した。




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