独自のニュース番組やバラエティ番組を制作し、地域情報を発信することで住民から支持を得ているケーブルテレビ局がある。奈良県にある「近鉄ケーブルネットワーク」(通称KCN)だ。市民主体の番組制作をサポートする事業本部放送事業部次長の矢野光一さんに地域におけるケーブルテレビ局の役割を聞いた。(武蔵大学松本ゼミ支局=芝﨑 万葉・武蔵大学社会学部メディア社会学科3年)

近鉄ケーブルネットワークは、奈良県生駒市に拠点を置き、奈良市や生駒市、大和郡山市など25の市町村を放送エリアにもつケーブルテレビ局だ。奈良県の山間部に向けた、こまどりケーブル、KCN京都、テレビ岸和田を運営している。

ケーブルテレビ局は市民密着型を目指し、市民の声を反映することができる場であるが、KCNでも市民が伝えたい情報を伝えられるように、矢野さんがサポート役となり市民が自由に情報発信をすることができる場所を提供している。地域とつながりをもつための取り組みとして、放送への市民参加と地域独自の情報の発信に力を入れている。

近鉄ケーブルネットワーク 矢野光一さん

KCNでは「テレビは見る時代から使う時代へ」というキーワードをもとに積極的な市民参加が行われており、市民が制作する番組をまるごと放送する「タウンチャンネル」を運営している。

市民自らが身近な人や風景を撮影するなど自由に情報発信を行うことができ、奈良県民に情報発信をしたい方なら誰でも参加できる。技術を要する編集もKCNのスタッフの支援を得られるため、市民は気軽に挑戦することができる。

放送への市民参加は情報発信したいと望む市民の活動を支援することができるし、実際に市民が情報の発信者になることで地域コミュニティを活性することにもつながる。

KCN放送区域にある葛城市では、タウンチャンネルのノウハウが自治体に提供され、まちづくりのツールとして放送への市民参加が行われている。しかし市民が高度な作品を作るのは難しく、現在は高齢化により撮影に参加する市民が少なくなっているうえ、若者の映像視聴はYouTubeに流れているためニーズはあまりないそうだ。

KCNの番組づくりも地域独自の情報を提供することに重きを置いている。ファミリー向けの情報番組(バラエティ)を放送するチャンネルや、地域のスポーツとカルチャーを中心に放送するチャンネルがあり、地域住民に地域の魅力を再発見させる。

もともと近鉄ケーブルネットワークが番組作りを行う際の基本的なスタンスとして「知らなかった奈良が分かる。奈良を再発見できる。地元奈良が気になる番組づくり」がある。タウンチャンネルはまさに地元の人に対して奈良に興味を持たせることができ、地元を好きになってもらうきっかけになると感じた。

地域との密着を図り、地域情報の拠点として活動を行うKCNだが、現在の多様になった動画コンテンツとどう競合し長期加入者を獲得するかがこれからの大きな課題だという。これは他のテレビ局にも言えることであるが、格安で視聴可能な動画配信コンテンツとは違いケーブルテレビ局は放送網の確保が必要であり、その分価格は高価になってしまう。そのため、これからはより地域との密着を図らなければ継続してもらうことが困難になってしまう。

この課題解決のために重要なのが「加入者であり続けてもらうための取り組み」である。KCNが地域との密着をより深いものにするために行っているのが、加入者の生活に関連したサービスの提供である。現在、パソコンやスマートフォンなどの基本操作を教えるパソコン教室や、スマホ教室が加入者には無料で開かれている。

特に、長期加入者に向けた「定額安心パック」は日常に密着したサービスである。例えば電気製品の不具合や水回りのトラブルなど生活での困りごとをKCNが解決する。

これらの取り組みがもつ将来的なビジョンとして矢野さんは、「お客様の生活にどう関わっていくか」だと言う。今後はテレビ局としてテレビ番組を制作するだけでなく、いかに加入者の生活のサポートができるかが長期加入者を増やすための鍵となりそうだ。
 
テレビ局として番組を制作し放送するだけでなく、地域住民が必要とする事業展開を行っていくことで、より地域との密着が期待できる。そしてそれはネットのコンテンツ・サービス事業者(OTT)との差別化にもつながる。

ケーブルテレビ局の強みは地域のニーズに応じた情報を伝えることができるところと地域と深く繋がることができる故の地域住民からの信頼である。これらはOTTが提供するサービスにはない決定的な長所であり、この先も求められる役割であると思う。

この先、ケーブルテレビ局がどのような形で地域に貢献していくのか、貢献するためにどのような取り組みが新たに生まれていくのか。ケーブルテレビ局の発展に期待を込めて、これからも注目していきたい。



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