これまで経験したことのない豪雨や台風、猛暑などの異常気象、オーストラリアやアマゾンの森林火災。地球温暖化による気候変動の影響は世界各地で起きており、地球は今、危機的な状況に面しています。気候変動が生態系や私たちの生活に与える影響は計り知れません。今、何が起きているのか。そしてまた、日本はどのような対策に取り組んでいるのか。深刻な地球温暖化を市民の力で食い止めようと活動するNPOに話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
市民の立場で温暖化防止のために活動
1998年、地球温暖化を防ぐための市民団体として誕生したNPO法人「気候ネットワーク」。現在、京都と東京に事務所を構え、地球温暖化防止のために自治体や企業、教育機関、ほかのNPO等と交流・連携しながら、産業や経済、暮らしなどを含めて持続可能な社会を実現するために活動しています。
120カ国・1300団体以上が参加する、世界最大の気候変動に取り組むNGOネットワーク「CAN(キャン)」と連携し、温暖化に関する国際会議に参加して各国政府への提言や働きかけを行うほか、温暖化に関する調査・研究とその情報の発信、国や企業への提言も行っています。
「さらにもう一つの特徴として、京都を中心に地域レベルで再生可能エネルギーを増やしたり環境教育を行ったりと、市民の力で温暖化防止のために取り組んでいる点があります」と話すのは、事務局長の田浦健朗(たうら・けんろう)さん。
市民の立場で、温暖化を防ぐために「グローバル(世界)」「ナショナル(国)」「ローカル(地域)」の3つのレベルで「提案・発信・行動」しています。
洪水、ハリケーンや山火事、温暖化が引き起こす様々な災害
近年、世界中で干ばつ、洪水、ハリケーンや山火事などの災害が多発していますが、この原因になっているのが地球温暖化です。「現在も地球の温度は上がり続けており、今のまま気温が上昇していくと、深刻な危機を免れないといわれている」と田浦さん。
「19世紀(1800年代)半ばの産業革命の前と比べて、地球の平均気温は約1℃上がりました。『たった1℃』と思われるかもしれませんが、しかしこの『たった1℃』が、気候変動を招き、異常気象や大きな被害をもたらしているのです」
ではなぜ、地球は温かくなっているのでしょうか。
「人為起源(人間活動によって発生)の温室効果ガスには、メタンやフロンガスなどいくつかの種類がありますが、最も大きい割合を占めているのが二酸化炭素(CO2)です。18世紀(1700年代)後半から産業が発展する中で、石炭や石油といった化石燃料を大量に消費するようになり、大気中の温室効果ガスの濃度は上がり続けました。地球には太陽から光が降り注ぎ、それによって地表は温められていますが、地球を覆う大気中の温室効果ガスの濃度が高くなると、地表から放射される熱を温室効果ガスがより多く吸収し、それによって地球の気温が上昇します」
2030年までに1.5℃上昇の可能性、地球は危機的な状況にある
さまざまな調査研究によって、今後、2100年ごろまでには最大で4.8℃、最低で0.3℃、地球の気温が上昇するといわれています。
「この短期間で4.8℃も気温が上昇したら、地球は取り返しのつかない事態になるでしょう。国際的な条約の会議において、気候変動による悪影響に人間社会が適応できるレベルに抑えられるよう、産業革命前と比べて平均気温の上昇を2℃未満に抑えることを目標に動いてきましたが、それでも被害は甚大なものになると考えられます」と田浦さんは警鐘を鳴らします。
さらには、このままCO2を排出し続けた場合、今からたった10年後、2030年までに1.5℃の上昇に達してしまう可能性があるといいます。
「先進国についてはCO2の排出は減少気味ですが、中国やインドなどでは増えており、全体的に横ばい傾向です。気温の上昇をなんとか食い止めるために、もはや『低炭素』ではなく、化石資源の使用をやめる『脱炭素』を実現する必要があります」
COP25で「化石賞」を受賞した日本
2019年12月にスペイン・マドリードで開催されたCOP25において、日本は「化石賞」という温暖化対策に対して消極的な国に与えられる不名誉な賞を受賞しました。
「日本は2050年までに温室効果ガスの排出量を80%削減するという目標を立てていますが、日本の排出量は1990年以降、減っていません。さらにこの期に及んで、新たに建設・計画中の石炭火力発電所が30基以上あります」と田浦さん。
「この非常事態に際して、いかにして化石資源を使わずしてエネルギーを生み出していくかというところで先進国や企業が努力している中で、日本では新たな石炭火力発電所が計画、建設されているものが多数あります。これが『化石賞』受賞の大きな原因です」
「日本は未だ電力の多くを火力発電に依存しており、自然エネルギー電力の割合はたった15.6%(2017年度)。これはあまりにも低い数字です。世界各国で、そしてさまざまなグローバル企業でも『脱炭素』の動きが進んでいるのに、日本は『石炭中毒』といわれることもあります」
日本は、自然エネルギーの宝庫
「脱炭素」を目指した時、化石燃料に代わるエネルギーはあるのでしょうか。田浦さんに聞いてみました。
「『自然エネルギー』、いわゆる『再生可能エネルギー』と呼ばれるものがあります。化石資源には石油・石炭・天然ガスがあり、これらはもともと古い時代の植物や動物の死骸が蓄積され、それが熱や圧力によってギュッと固まったものです。これを掘り出して燃やすことによってエネルギーにするのですが、その際に非常に多くのCO2を大気中に排出します」
「一方で、太陽光発電や水力発電、風力発電については、もともと自然にある太陽の光や水の流れ、風を使用してエネルギーを生み出します。場所によって使いやすい場所・使いにくい場所はありますが、どこでも無料で手に入りますし、CO2を排出しません。特に日本は豊かな自然に囲まれた国で、自然エネルギーの宝庫といえます」
さらに、こういった自然エネルギーは初期費用こそかかるものの、一旦建ててしまえば燃料費はかかりません。世界的な基準では、自然エネルギーは化石資源よりも価格が安くなってきているといいます。
「たとえば、家庭で買っている電気代は、1キロワット時あたり20円ほど。発電のコストは8〜9円で作ることができるので、その差額分が電力会社に入るというしくみです。一方で、風力発電によるエネルギーも、8〜10円程度で作ることができるようになっています。日照条件の良い砂漠に設置する太陽光発電では、1キロワット時あたり2円という例もあります。私たちは、環境にやさしくない火力発電や原子力発電に頼る必要はありません。自然から生まれる電力も安く供給できるようになってきました」
地域経済をも豊かに循環させる
自然エネルギー
さらに、化石資源から自然エネルギーへとシフトさせていくことで、新たな雇用が生まれたりして、地域経済が循環する効果も期待できるといいます。
「ヨーロッパでは、農業を継続するのが困難になっていた村で、地域の人が風車を建てて風力発電をスタートし、そのエネルギーを売ることで収入が得られるようになり、それで得たお金で再び農業が継続できるようになった事例もあります」
「バイオマス(木材や生ゴミ、紙や海草、プランクトンなど再生可能な生物由来の有機性資源)も利用できる自然エネルギーです。間伐材や木材の端材などを活用する設備を設置した結果、林業や加工業が盛んになってその地域の経済が活性化し、雇用が増えたという事例もあります。自然エネルギーにシフトすることが、その地域の経済を循環させ、生活の質を上げていく効果もあるのです」
豊かな自然に恵まれ、日射条件も良く、多種多様なエネルギー大国である日本。自然エネルギーへのシフトによって豊かな未来を享受できることが見えてきているのに、なかなかその方向転換ができていません。
「残念ですが、さまざまな利権が絡んでいて『自分たちだけは免責されたい、儲けたい』という人たちが国や会社を動かす側に残っているからだと思います」
「これまで通りの生活の質を保ちながら
自然エネルギーにシフトできる」
スウェーデンの10代の環境活動家・グレタさんの呼びかけなどもあり、一般の人々の間でも温暖化の問題への認識は以前に増して広がっていると田浦さん。「ただ、じゃあどうするのか、何ができるかというところまでは共有されていないと感じている」と話します。
「温暖化を食い止めるために暖房を我慢しようとか、シャワーを浴びる回数を減らそうとか、やはり『何かを我慢する』ことが温暖化への対策だと捉えている人が少なくないと感じます。でも、そうではないのだということをまず知ってほしい。『温暖化対策のためにがんばる』とか『何かを我慢する』ではなく、今までと変わらない生活の質を保ちながら、自然エネルギー100%で電気を賄うことは現実的に可能だということ。それだけでなく、その先に今以上に豊かな地域社会が見えてくるのだということを知ってほしいと思います」
地球温暖化を止めるために、私たちには何ができるのでしょうか。
「2016年4月から電力小売全面自由化によって、ご家庭に電気を供給する電力会社が選べるようになりました。地方貢献型の電力会社や、自然エネルギー100%ではなかったとしても、そこを目指してがんばっている電力会社を選ぶことも、消費者である私たちができる一つの選択です。電気代も、実際ほとんど変わりません」
「売り手よし、買い手よし、世間よしの『三方よし』だけでなく、未来もよい『四方よし』を基本としている電力会社もあります。実際に自然エネルギー先進国であるドイツでは、電力の制度を変更し、現在は1000以上の地域のための電力会社があり、消費者が自然エネルギーの多い電力会社の電気や、地域に貢献している電力会社の電気を選ぶことができます」
「日本の電力システムは一部改善されましたが、旧来の考えが残るようなところもあります。環境や社会全体のことを含めて考えると、原子力発電や火力発電は、お金もかかり、リスクも大きいことから、経済的でも合理的でもありません。『脱炭素』がよっぽど合理的で、時代に合った方法です」
市民の力で地球温暖化を食い止める活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「気候ネットワーク」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×気候ネットワーク」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、自然エネルギー100%の時代の実現に向けて、国や企業への提言だけでなく、それぞれの地域でプロフェッショナルな人を増やし、自然エネルギーを導入し、根付かせていくための支援、具体的にはコンサルティングやネットワーク作りなどのサポートを行うための資金となります。
JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、一枚の葉っぱの上に描かれた、自然と都市とが共存する街。葉一枚は小さいけれど、それぞれが枝、幹、そして大きな一本の木につながっています。一本の木を地球と見立て、私たちが普段の生活やコミュニティの中で小さな一つひとつを意識してアクションしていくことが、地球温暖化を食い止めることにつながるというメッセージを表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、3月23日~3月29日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・地球を脅かす気候変動。市民の力で地球温暖化を食い止める〜NPO法人気候ネットワーク
山本 めぐみ(JAMMIN): JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は4,300万円を突破しました!