世界では年間800万トンものごみが陸域から海洋に流出しているといわれており、その量は2050年までに魚の量を上回るといいます。海に流入するごみの5〜8割は陸由来といわれ、陸からごみを減らしていくことができれば、海洋ごみを減らすことにつながります。企業や自治体と協力しながら、参加者とともに東京・荒川を清掃、そこでの体験を、ごみ問題を考える次のアクションへつなげてもらいたいと活動するNPOがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)
荒川で清掃活動「クリーンエイド」
東京を拠点に活動するNPO法人「荒川クリーンエイド・フォーラム」。荒川の清掃活動を軸に、市民がごみ問題について知るきっかけづくりを提供しています。清掃活動である「クリーンエイド」は「クリーン」+「エイド」の造語。「荒川河川敷のさまざまな場所でごみを拾うなかで、一人ひとりがごみの問題を考えて次のアクションを起こし、豊かな自然を取り戻すことを目的としています」と話すのは、団体事務局長の今村和志(いまむら・かずゆき)さん(38)。
企業や自治体、市民団体や学校などが主体となってクリーンエイドを実施しており、その数は年間で190回以上、参加者は1.3万人にも上るといいます。
「日本は諸外国からきれいな国だといわれています。街中に落ちているごみも多くないかもしれません。でも、一歩荒川の水際に踏み込んでもらうと、川に大量のごみが溢れている現実を目の当たりにします。クリーンエイドに参加することで現実を知り、ごみ問題を考えるきっかけにしてもらえたら」と今村さん。
企業や自治体などからは「社会貢献の基礎について学びたい」「寮に住む新入社員にごみの問題について考えてもらいたい」「チームワークを強めたい」などといったさまざまな理由をもとにクリーンエイド実施の依頼があり、「荒川クリーンエイド・フォーラム」はそれぞれのニーズに応えるかたちでプログラムを実施しています。
「調べるごみ拾い」を実施、
集めたごみを見える化
クリーンエイドは、全体で2時間ほどのプログラムが基本。最初にごみ拾いの説明、それから6人1組のチームで1時間ほど清掃活動を行い、最後に振り返りを行います。
「清掃には特徴があって、各会場でどんなごみが落ちていたのか、その数はいくつだったのかを確認しながら拾っていく、『国際海岸クリーンアップ(International Coastal Cleanup、ICC)』のルールに準拠した『調べるごみ拾い』を行っています。チームでごみを拾いながらシートに記入していくかたちです。ただ拾うだけではなく、集めたごみの種類と数を見える化することによって、参加される方たちに気づきが生まれます」と今村さん。
では実際に、荒川にはどのようなごみがあるのでしょうか。
「容器包装系のプラスチックごみが多いですね。人の生活とごみの内容と相関があります。例えば、流行っている飲料水やお菓子のごみがすぐ川のごみとして反映されます」
「かといって、新しいごみばかりというわけでもありません。荒川は河岸に植物がたくさん生えていて、そこにごみが一度ひっかかったら、大きな出水でもない限り、ずっとそのままごみが留まり続けるという特徴もあります。ごみ拾いをしていると昔のごみが出てきたりすることもあります」
流域人口は一千万人
荒川ならではのごみ事情
川のごみならではの特徴が、ほかにもあるか尋ねてみました。
「海岸の漂着ごみは波に洗われるため、タバコのフィルターなどの小さなごみも見つけやすいですが、荒川の場合は泥が堆積しているので、小さなごみは泥にまみれて見つかりにくいという特徴があります」
「河川ごみ(川のごみ)は、私たちそれぞれの生活の身近な場所にある支川(支流の川)や水路から流れ出たごみが集約して集まってくるので、海洋ごみと比較してごみの密度が濃いという点も特徴の一つです。特に荒川はその流域人口が一千万人といわれており、沿川にたくさんの人が住んでいることから、集まってくるごみも必然的に多くなります」
さらに特徴としてもう一つあるのが、河川敷生活者の出すごみの問題だと今村さんは指摘します。
「荒川下流域の30kmには200人ほどのホームレスが暮らしています。生活に必要な道具を拾ってきたごみの中から調達している方もいます。街中からごみをたくさん集めてきて、使わないものは川に捨ててしまうといった問題もあります。河川敷に住まなければならないという社会構造自体も一つの社会課題といえるので、問題はそう単純ではないということも知っておかなければなりません。別方面からの支援も必要になります」
レジ袋から、テレビや冷蔵庫まで…。
川に漂着する、ありとあらゆる種類のごみ
では、川には一体どのようなごみがあるのでしょうか。
「やはり容器包装系のごみが多いです。一つひとつのごみの由来をさかのぼって追跡することはできないのでどこから来たかはわかりませんが、私たちの生活にある、ありとあらゆるごみがあるといっても過言ではありません。壊れたビニール傘やスーパーのレジ袋はもちろん、空き缶や滋養強壮剤の空き瓶、テレビや冷蔵庫、トラクターのタイヤまで、本当になんでもありますね」
「大きな一本の荒川に対して、たくさんの支川や水路がつながっており、そのそれぞれに人々の生活があります。ごみをきちんとごみ箱に捨てた、ごみ回収の日にちゃんと出したと思っていても、たとえば雨の日に屋外のごみ箱やごみ集積所から流れ出たり、生活の中で出るマイクロプラスチック(小さなプラスチック片)が河川へたどり着いたりすることもあります」
「自分はちゃんとごみ箱に捨てているから海や川のごみは関係ない、海や川にごみを捨てる人が悪いと思う方もいるかもしれないけれど、私たち一人ひとりの生活と河川・海洋ごみは密接に関わっているということを知っておいて欲しい」と今村さん。
「街のごみを減らしていくことができれば、河川ごみを減らすことができる。河川ごみを減らすことができれば、海洋ごみを減らすことができます。世界は海でつながっているので、海洋ごみの問題を日本だけで解決することは難しいですが、まずは一人ひとりが日常生活の中で意識して、『もしかしたらこれは海洋ごみになるかもしれない』という視点を持ち、使い捨てや無駄を無くしていくことが、ごみの削減に大きくつながります」
「荒川をモデルケースに、
全国に清掃活動を広げていきたい」
「荒川クリーンエイド・フォーラム」のように専属スタッフを配属し、年間これだけの回数の川の清掃活動を行う団体は国内でも有数です。
「荒川下流域については、クリーンエイドで回収したごみを、国土交通省関東地方整備局荒川下流河川事務所や沿川の各エリアを管轄する自治体に回収してもらっていますが、やはり活動を続けていくためには行政や各自治体の協力が要です。この仕組みを荒川だけでなく、全国の川に広げていくことができればと思っています」
「荒川は『天井川』といって、川底が周辺の地面の高さよりも高い位置にあります。そのため、下流域では川と街が堤防によって隔てられています。これは『市民の生活が川から一歩離れている』ともいえます。ごみがあるのかどうなのか、どれくらいあるかは、河川敷まで降りて、さらに水際まで近寄ってみないとわからない。見えづらいために問題意識が低くなりがちなごみ問題ですが、実際にそこまで足を運んで目の当たりにしてもらうことで、課題として、自分ごととして捉えてもらえたらと思います」
「ごみを拾う人を増やし、ごみを捨てる人を減らす」
「ごみを拾って『良いことをしたね』で終わるのではなく、活動への参加をきっかけに、日々の生活でどうごみの問題と向き合っていくことができるのか、それぞれの生活に戻ってから次のアクションを考えて、行動に移してしてもらえたら」と今村さん。
「私がこの団体に入職した2016年、荒川河口から3km地点の土を採取してみたところ、土とプラスチックの割合が1対1だった時はさすがに私も危機感を覚えました。マイクロプラスチックが海に流れ出て、プランクトンと勘違いした魚がマイクロプラスチックを食べ、その魚を私たちが口にする。人体に入ったマイクロプラスチックの99%は排出されるといわれていますが、マイクロプラスチックが人体に及ぼす影響はまだよくわかっていません。食物連鎖を介して私たちにもじわじわと影響を与えるかもしれないという意識は持っておいた方が良いと思います」
「『ごみを拾う人』を増やし、『ごみを捨てる人』を減らす。『ごみの早期回収』と『ごみ問題の啓発』の両輪を回していくことが大切だと思っています」
荒川のクリーンエイドを応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「荒川クリーンエイド・フォーラム」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×荒川クリーンエイド・フォーラム」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、荒川でのクリーンエイド開催のための資金となります。
JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、ごみ箱から困った顔を出す、各地の川に生息する鳥「カワウ」。ごみで溢れかえった川からは魚が消え、ついには陸のごみ箱を漁るしかなくなったカワウ。こんな未来の結末を迎えないように、手には「クリーンエイド」と書かれたごみ袋が握られています。
チャリティーアイテムの販売期間は、3月30日~4月5日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・川の清掃活動から、海のごみ問題を考えるきっかけを〜NPO法人荒川クリーンエイド・フォーラム
山本 めぐみ(JAMMIN): JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は4,300万円を突破しました!