新型コロナウイルスの影響で自粛状態が続くが、いまコミュニティ活動にできることは何か。20年前からコミュニティー研究を続けているNPO法人CRファクトリーの呉(ご)哲煥(てつあき)代表に寄稿してもらった。
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新型コロナの影響により、緊急事態宣言が全国で発出され、外出などが制限されるようになった。三密を避けなければならない状況が続く。市民活動・コミュニティ活動の基本的な道具である「イベント」「ミーティング」「懇親会」が封じられている。そして、きっとこの状況はもうしばらく続く。その前提に立ったとき、この社会状況下で市民活動・コミュニティ活動はどうすれば良いのか。そこを考えたい。(寄稿・CRファクトリー代表=呉哲煥)
1. コミュニケーション手段の大転換
まずは、コミュニケーションをどうするか?
集まれない、会えない、リアルで話せない。いま、多くの人がこれを機に、否が応でもZoomなどのオンラインツールを使い始めている。
この先、オンラインツールが爆発的に普及して、みんなのオンラインツール経験が増えていくことは間違いないだろう。まだ未経験でイメージが湧かない人も、少しずつ経験を積んで、慣れてきて、徐々に使いこなすようになっていくだろう。
これは、多くの人が携帯電話・スマホを持つようになったことと似ている。
コミュニケーションの道具が固定電話から携帯電話に移行したり、情報の取り方がテレビ・新聞・ラジオからスマホによるウェブメディア・SNSに大きく変化したことと似ている。
おおげさかもしれないけど(たぶんおおげさじゃない)、そういう既存システムの破壊と移行・再構築が起きるほどのインパクトをこの新型コロナはもたらす可能性がある。
そう考えると、市民活動・コミュニティ活動のコミュニケーション方法も、リアルからオンラインに大きく移行するかもしれない。
このコロナ期間に、オンラインイベントやウェビナー(ウェブセミナー)がたくさん開催され、多くの人がそれを主催したり、参加するようになるだろう。
ミーティングや面談や研修をZoomでなどで行なうことも多くの人が体験することになるだろう。ご飯会や飲み会や雑談会をオンラインで行なう動きもすでに盛んになっている。
まずは、固定電話→携帯電話、テレビ・新聞・ラジオ→スマホ・インターネット・SNSのような大転換が起きるかもしれないという見立ては持っていてもよいかもしれない。
そして、そのためには、少しずつでいいから、自分のオンライン体験を増やして、慣れていって、強くなっていって欲しい。
周りの人にも教えてあげて、みんなで使えるように慣れていくことは必要かもしれない。
たぶん、きっと、集まりにくい・会いにくい時間はもう少し続く。
私は1年間〜1年半ぐらいは続くのではないかと思っている。ここは考え方を転換して、覚悟を決めて、がんばってほしい。
2.リアルとオンラインの住み分け
このコロナ期間に、多くの人がオンラインツールでのコミュニケーション経験を増やしていって、リアルでやっていたものをオンラインに代替し始めたとき、
「オンラインで良いもの」「オンラインが良いもの」「(オンラインでもできなくはないが)リアルの方が良いもの」が浮き彫りになってくるのではないか、と思う。
■イベント・セミナー
イベントやセミナーも、種類によっては「オンラインで良いもの」「オンラインが良いもの」もある。知識・情報・講義中心のものは「オンラインで良い」ものが多い。
さらには、「記録(もう一度後で見る)」「共有(みんなで同じものを見れる)」「距離(全国どこに居ても参加できる)」においてはオンラインが有利で「オンラインが良い」でしょう。
特に組織変革の視点からは、セミナーに参加した人だけが知識・情報・やる気を得るだけでなく、セミナー内容を他の組織メンバーが同じように共有していることによって、共通認識・共通言語ができて、施策導入・組織変化が加速する。
オンラインはこの点においては利がある。さらには、「距離(全国どこに居ても参加できる)」においても、オンラインは圧倒的に利がある。
■ミーティング
ミーティングもかなりのものはオンラインに代替できるようになるでしょう。
特に情報共有・状況共有・すり合わせ系のミーティングはオンラインでもいけるし、移動時間や交通費などのコストを考えたときは、両方の利点を勘案した上で、オンラインでやろうということも多くなると思う。
■リアルの方が良いもの=「理念共感」「モチベーション」「関係性」
一方で、「リアルの方が良いもの」は、「理念共感」「モチベーション」「関係性」の3つではないかと私は思います。リアルの価値は、つきつめると「体験」「身体性」です。この点においてはリアルの方がかなり優位だと思います。
① 理念共感
理念・価値観への共感は、もちろん文言や映像でもつくりだすことはできますが、フェスのような体感があることがそれを深めることになります。
また、双方向の深い対話があることでそれを深めることができます。「心を動かされる」ような理念共感、「じ〜んと心が喜ぶ」ような価値観共感は、リアルの方が有利そうです。
② モチベーション
モチベーションにおいても、リアルが強そうです。
Zoomでのミーティングや面談でもモチベーションは変わらず上がりますが、その体験の浅さがモチベーションやコミットメントを上げきれない・持続しないということになっている気がします。
少し非効率に思えるかもしれませんが、電車で移動する時間(そこで考える時間)や、リアルでの深い対話、一緒にランチしたり、雑談したり、帰りの電車や車でふいに熱い話になるなど、偶発的に起こることもひっくるめて人のモチベーションはつくられているのだと思います。
また、リアルに会っていた方が、先輩や後輩や仲間の姿勢・人格・生き様を感じやすくて、それもモチベーションにつながっているような気がします。
もう一つ思うのは、既にある深い関係性であれば、オンラインコミュニケーションによってもモチベーションを上げることはできるけれども、まだ無い(希薄な)関係性の中でのモチベーションやコミットメントを上げることの難しさです。この点については、この時期に転職や異動や新しく活動に参加した人たち、そして、それを受け入れる人事・組織も今まさに体験しているところでしょう。モチベーションとコミットメントをつくることにおいては、やはりリアルが強いと思います。
③ 関係性
そして、最もリアルに優位性・強みがあるのが「関係性」ではないでしょうか。
会って話をする、近況を報告し合う、なにげない雑談をする、深い対話をする、一緒にご飯を食べる、飲み会をする、お茶をする、カフェでいろいろな話をする、帰りの電車や車の中でいろいろな話をする、研修をする、合宿をする、レジャー・遊びをする、etc。
そんなことたちの積み重ねによって「関係性」はつくられています。そして、この「関係性」があってこそ、イベントやプロジェクトや活動ができるのであって、「関係性」はすべてにおける基盤と言ってもいいでしょう。そして、これはかなりリアルが有効だと思います。
コロナ期間中に、コミュニケーションの手段がリアルからオンラインに大きく移行したとしても、これらのことのリアルの優位性は残るような気がします(5年後にこの文章を検証したいですね)。
よって、ここの着目を忘れずに、多くのものをオンラインに代替できたとしても、「リアルの方が良いもの」を代替しないようにしたいです。
私の経験則は、「理念共感」「モチベーション」「関係性」の3つです。これをつくりだすための様々なことは「リアル」に優位性があると思います。
3.身体性の確保
外出自粛の渦中において、今まさに起こっていることは、身体性の減衰だと思います。一人暮らしの方は、しばらく知り合い・友人とリアルに会っていないみたいなこともあるのではないでしょうか。すべてのコミュニケーションをオンラインに切り替えて、空いた時間でジョギングや散歩をするなんて、なんだか近未来のようですね。
ここからは少しチャレンジングな思考実験も含めて提案していきます。
緊急事態宣言が終了し、外出自粛要請が緩和されても、それでもワクチンと治療薬が開発されるまでは、しばらく三密を避ける日々が続くでしょう。
そして、時代はオンライン全盛になって、多くのことがオンラインで事足りるという雰囲気にもなっていくでしょう。
そのとき、できるだけ感染の予防策を講じながら、社会的距離を取って、慎重になりながらも、「リアルに会う・リアルに集まる・リアルで会話をする」ことをいかにしていけるかがポイントになると思います。
この社会状況下では、こういうことを言うこともかなりはばかられますが、やはり我々人間は身体性を伴う体験が栄養になるのだと思うのです。
換気を十分にして、机を離しながら、マスクをしてミーティングをする。
屋外で、距離を置きながら、キャンプチェアで対話のワークショップをする。
自転車で近くの河川敷に集合して、サッカーのような手を触れないスポーツや、距離を置いてみんなで散歩やジョギングをする。
「そこまでするか」と思うかもしれませんが(笑)、そこまでしてでも「リアルに会う・リアルに集まる・リアルで会話をする」ということを入れ込んでいくことが必要なのではないかなと思います。それがあることが気分の向上や癒やしになって、またオンラインでもがんばれるのだと思うのです。
少しおおげさに書きましたが、コロナ時代の市民活動・コミュニティ活動は、そんな工夫も必要だと思います。
そうでなきゃ、心が細って、「もういいかな」「やらなくてもいいかな」みたいな気持ちにどんどんなっていきかねない。私はそれを避けたい、その流れを止めたいと思っています。
4.自分の問題意識や情熱・想いや興味・関心に立ち返る
このコロナ時代は、市民活動・コミュニティ活動にとっては相当の逆風です。
「イベント」「ミーティング」「懇親会」が封じられ、身体に血液が回らないような状態です。それでも続けますか。どうですか。
少し大きく構えれば、これを機に活動をやめることも良いと思います。
外からの力を機会と捉えて、団体・活動をたたむという選択肢も良いのではないかと思います。
また、2〜3年という少し中期的な視点に立てば、いずれまた今まで通りに会える・集まれる・話せる環境がやってくると思うので、そこまでは一時的に休眠・冬眠する道もあると思います。
一方、想いや信念があるならば、続けられると思います。コミュニケーション手段の変更は余儀なくされると思いますが、これを機に進化することもできると思います。
ダウンサイズして小さく続ける道もあると思います。
環境の変化はどうしても人に不安や戸惑いをもたらしますが、がんばれば適応できちゃうのも現実です。
元々、多くの市民活動・コミュニティ活動は、誰かに言われて始めたものではありません。
自分の問題意識や情熱・想いや興味・関心からスタートしたものだと思います。
だから、究極的に言うと、自分の問題意識や情熱・想いや興味・関心がなくならなければ、活動は止まないのです。心のエネルギーがあれば、今も活動は続いているし、これからも活動は続くのです。コロナによって心が細る状況下だからこそ、改めて自分の中にある問題意識や情熱・想いや興味・関心・好奇心に触れてみてください。
「私はやりたい」と思えたとき、活動は変わらず生きています。
そもそも、私が15年ぐらい見てきた市民活動やコミュニティ活動のみなさんは、こんなときでもたくましく(逆に燃えて)がんばられる方が多いと思います。
むしろこの状況下だからこそ、役割と出番を感じている方もいると思います。
時代の変化に負けずに、自らを進化させて、まわりに光を灯す存在になっていってほしいと思います。
私は、良いコミュニティとつながりには、人の人生を豊かにする力があると思っています。
市民活動やコミュニティ活動を通じてつくられる「コミュニティ」と「つながり」は、人を健康で幸福にする力があると思っています。社会を良くする力があると思っています。
「コミュニティ」と「つながり」は経済や医療と同じように、人間にとって必要なものなのです。
それくらいに必要なものだという認識に立って、自分の気持ちを大切にしながら、自分も含めたまわりのために、社会のために、市民活動・コミュニティ活動が続いていくことを願います。私もがんばります。
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