それは、所内にある地球環境研究センター・副センター長を務める江守正多先生だ。著書も多い、地球温暖化の将来予測とリスク論を専門とする研究者の眼には、今回の新型ウイルスの騒動はどう映っているのだろう。
そもそも、リーマンショックで経済が縮小したとされる2009年も、実際に減った世界のCO2の排出量は2%に満たない。コロナ禍にあって、今年の世界のCO2排出量は約8%下がると試算される。
江守先生は、「ステイホームでも電気は使う。そしてスーパーに物を運ぶためやAmazonの倉庫へもトラックは走るし、電車は空でも動いている。実はエネルギーを使う活動はそんなに減っていない」と分析する。そしてむしろ、「コロナが去った後、外出や移動、人に会うことの『我慢』と気候変動対策が混同され、我慢疲れした人々に対策が後回しにされる」ことを危惧されていた。
先生は続ける。
「気候変動については、まず『対策=我慢』みたいなイメージを払拭することが大切。それは、世界平均で約2/3の人が『気候変動対策は生活の質を向上させる機会』と認識しているという調査結果に対し、日本人はなぜか気候変動対策は『我慢』だし、『コストがかかる』し、『便利さや快適さを諦めなければいけない』と捉えている節がある。つまり、そこにこのコロナ対策全般を覆う『我慢』のイメージが重なってしまうのはまずい。まずはそこを変えなければいけない」
「脱炭素や再生可能エネルギーの推進は本来もっとポジティブで、社会をアップデートするもの。しかも日本がもし脱化石燃料ということを最終的に達成できれば、これまで化石燃料の輸入に払ってきた予算が国内でまわるようになる。そういった大きな経済的なメリットまでついてくる」
なるほど、コロナ対策の「我慢」と比べ、気候変動対策はポジティブに社会をアップデートし、さらには経済的にもいいことづくめとのことで、大きく違う。ではそれを実現する、具体的な戦略はあるのだろうか
「最近BBCやガーディアンで紹介された論文に『社会の3.5%の人が参加すると、ムーヴメントは成功する』というものがある。本質的な関心を持つ3.5%の人たちは、政治や経済システムに働きかけ、そのことで制度やシステムが変わる。そうすると残りの96.5%は、別に関心を持たなくても、仕組みが変わることで必然的にC02を減らすしかなくなる。すべての電力会社が再エネ100%になれば再エネを使う以外はなく、電気自動車しか売っていなければそれを買うことになる。だから最近は、『本質的な興味を持つ3.5%』をどう生み出すかということを考えている」
私たちは強いリーダーの登場や、大きな気候変動の被害が起きれば人々は眼を覚ますだろうと、根拠のない期待に社会を委ねがちだ。
その点について聞くと、先生は笑いながら、「『社会が変わってから気候変動対策をしましょう』と待っていても、猶予はあと30年。だから今は、いろいろな考え方がある中でも対策が進むような話をしていきたい。それは例えば、『金儲けさえできればいいんだ』という人でも対策をしたくなるような」と語ってくれた。
*インタビュー全文はこちら⇒【初回】江守正多|コロナと気候変動、その共通点と相違点
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