ある時はプロデューサー、ある時はプランナー、ある時はスピーカー。いくつもの顔と肩書きを持ち様々な仕事をこなすノマドワーカー安藤美冬。何より驚きなのが営業活動を一切しないでもオファーが来る点である。彼女がそのような働き方が出来るのはなぜなのか伺った。(聞き手・オルタナS編集部=池田真隆)
■高収入で安定していた会社を辞め、自分の名前で勝負する道へ
安藤さんのキャリアは慶應義塾大学を卒業し、400倍とも言われる新卒倍率を勝ち取って始まった。出版社最大手の集英社に入社し、女性誌の広告業務、書籍単行本のプロモーション業務に関わり、職場環境にも恵まれた順風満帆な日々を7年間過ごしていた。
しかし、29歳の誕生日、人生を変える転機が訪れる。
20代最後の節目を迎えた自分が自分自身に投げかけた「一度きりの人生、このままでいいのだろうか」という問い。それは、何不自由ない生活と仕事の先に続いていく「未来」への強烈な疑問と、自分の可能性を試してみたいと願う「挑戦への飽くなき欲求」だった。しかしながらやりたいことも見えず、辞めることへの踏ん切りもつかないまま1年以上が経過。
「辞めよう。成功する保証はないが、飛び出すなら今しかない」。そう覚悟したのは30歳の時。メンターに「読みなさい」と薦められた日本を代表する芸術家、岡本太郎氏の『自分の中に毒を持て』(青春文庫)という本と出会ったことがきっかけであった。
「その本を開いた瞬間、『危険な道を選べ』というフレーズが目に飛び込んできました。その時になにか稲妻のようなものが全身を駆け抜けた感覚がして、気づいたら人目をはばからずにぼろぼろと涙を流していました」
その言葉が引き金となり、今までの安定していた生活や地位をすべて捨てて、自分の人生を何かにぶつけてみたいという思いだけを握りしめ、2010年7月上司に辞意を伝えた。
■ 会社を辞めて半年後に得た報酬は4万円
会社を辞めてから5カ月間は無収入状態が続いた。世の中は、想いだけで渡り合えるほど甘くはなかった。今までの安定した環境とは180度違う過酷な現実にぶちあたっていたのである。厳しい現状を見かねた友人からの仕事でなんとか報酬を得るものの、その額は4万円。「4万円でも、自分の手がけた仕事でいただいたお金はとても有り難かった」と安藤さんは当時を振り返って笑顔で語るが、それも会社を辞めた半年後の2011年3月のことだった。
そんな彼女も今では多い時に週に5〜6件の仕事のオファーをもらい、常に12〜13件の仕事をこなしている。ここまで彼女の状況を一変させたのは何。
■ ソーシャルメディアで発信し続けたことでファンを獲得、「自分ポータルサイト化」に成功
その問いに対して、安藤さんが真っ先に口にしたのはソーシャルメディアであった。
「twitterやfacebookなどソーシャルメディアを、私は『個人の発信力がつくる自分のメディア』と定義し、『セルフメディア』と呼んでいます。これらセルフメディアを使いこなすことにより、自分に興味を持ってもらえる人を増やしたおかげで、徐々に『安藤さんにお会いしてみたい』『こんな業務はできませんか』という問い合わせや仕事のオファーをネット経由でいただくようになりました」
会社員時代からtwitterを実名で使用し、トライ&エラーを繰り返してきた。「読んでくださる人が面白い、タメになると思う情報」を発信し続け、プロフィールも受け手のメリットを考えてつくり込んだ結果、自ら営業活動をすることなく、人、モノ、チャンス、お金、そして仕事を自然と引き寄せる「自分ポータルサイト化」を実現させたのである。
■名刺1つにも徹底してこだわる「セルフブランディング」は自分を高く売る方法
まさにこれから訪れるであろう、個人の時代の新しい働き方の象徴的存在。セルフメディアでの発信ともう1つ、実践しているのは「セルフブランディング」である。彼女にとってセルフブランディングとは言い換えれば、「安藤美冬という商品をあらゆるツールを使って的確にプレゼンテーションする能力」。自分を1円でも高く売るための手段として、そして、やりがいが感じられる仕事をつかむ方法として、顔写真、プロフィール、服装、住む場所、名刺など、自分にまつわるものを多岐に渡って徹底してこだわっている。
「特に駆け出しの頃のフリーランスは、『なんでもやります』と自分を安く売りがちです。結果、下請けのような仕事に甘んじたり、特定の取引先に依存して、せっかく夢を抱いて独立したものの、『フリー=自由』とは縁遠い毎日を送っている人たちがたくさんいる。なぜそんな状況になるかというと、自分の『軸』を定めていないからです。何をやりたくて、何をやりたくないのか。どんな風に自分を見せたいのか。どんな人や企業と仕事をしたいのか。それを突き詰めて考えることがセルフブランディングへの第一歩。それさえ決まれば、「自分の土俵」で勝負することができるのです」
■安藤さんに会いに行こう。11月26日対談イベント出演
「若い人の多くは、自分のやりたいことがしたいと思っている。本当にそう願うなら、人生はたった一度しかないのだから、失敗を怖れずに挑戦すればいい。もちろん、今の会社を辞めることだけが夢を叶える手段でもなくて、会社員であっても組織の中でもっと自由な働き方を実現できる可能性もあるでしょう。辞める、辞めないの二元論にとらわれすぎず、組織という概念にも縛られすぎずに、もっと個人が自由に働く選択肢をこの世の中に対して提示していきたいと思っています。私はこんな働き方がしたかったんだ、それが見つかれば、今以上に自分の人生が楽しく感じられるはずです」
☆11月26日(土)代官山にて二部制の対談イベントに出演します!☆
第一部:14時〜15時30分
『ソーシャル時代のセルフブランディング』
http://green-girl.jp/items/50
第二部:17時〜18時30分
『自由でクリエイティブな人生のつくりかた』
http://green-girl.jp/items/51
安藤美冬(あんどうみふゆ)
(株)spree代表取締役社長
コミュニケーションデザイナー
コンテンツディレクター
慶應義塾大学(アムステルダム大学)、集英社を経て独立。大手企業や個人と契約し商品やサービスに対するコンテンツをつくり出し、プロデュース中。「ソーシャルメディアによる発信とセルフブランディング」を駆使し、「一切営業することなく仕事をしているフリーランスの女性」としてITジャーナリスト佐々木俊尚氏のキュレーションで紹介される。
これまでの主な取引先はトランジットジェネラルオフィス、ビズリーチ、博報堂、ザッパラス、マガジンハウス、実業之日本社、スターツ出版などの法人、経営者や著者など個人。『人生がときめく片づけの魔法』が100万部突破した片づけコンサルタント近藤麻理恵さんと契約し、スクールの立ち上げ、webサイトのディレクション、セミナーや読者向けイベントなどの企画に関わる。(株)ビズリーチのマーケティング部や(株)トランジットジェネラルオフィスと提携し、ユーザー向けのコンテンツのディレクションや、原宿複合施設「THE SHARE」の空間アドバイザリースタッフも務める。丸の内朝大学「5R生活プランナークラス」講師、自由大学「セルフメディア学」講師。
講演やイベントへの出演も多数。「テーマを持って複数の仕事をする」ノマドワーカー。プライベートでは、16歳からこれまで旅してきた国は49カ国。家は買わず更新もせず、常に2年先の人生をどうデザインしたいのか?を考えながら住まいを選ぶ「戦略的住まい選び」を提唱。8年間で引越し6回。
公式ブログ:http://ameblo.jp/andomifuyu/
公式twitter:http://twitter.com/andomifuyu