18歳選挙権によって日本社会の抱える構造的課題―シルバーデモクラシー―がどの程度改善されるのか。少年法など、他の法律での年齢との整合性に関する議論は多くありますが、一度この機会に考えてみましょう。(United Youth代表=福島 宏希)

■圧倒的な少子高齢化―「シルバーデモクラシー」の改善には力及ばず

前回、18歳選挙権によって新たに生まれる240万票がどの程度の重みを持つか、考えました。一方で、20代の投票率の低さから推測して、特に対策を打たなければ18歳、19歳も高い投票率となる可能性は低いと思われます(2014年12月衆議院選挙では、20~24歳の投票率は全ての世代で最も低く、約30%。最も投票率が高いのは70~74歳で約72%(注1))。

仮に20歳代の投票率と同じだと仮定すると、実質的に新たに増える票数は約72万票となります。これを前回2014年12月の衆議院選挙の数字を使い、18歳選挙権が導入されたと仮定して20歳代(および18歳、19歳)と60歳代の投票者数を推計したのが図1です(注2)。

図1。選挙権年齢のわずかな引き下げだけで高齢者寄りの政治が変わるとは言い難い

図1。選挙権年齢のわずかな引き下げだけで高齢者寄りの政治が変わるとは言い難い

18歳選挙権が導入されれば、18歳・19歳を含めた20歳代の投票者数と、60歳代の投票者数との差は縮まりますが、元々の人口と投票率が大きく違うため、差の縮小はわずかにとどまります(60歳の投票者数に対し、0.32→0.37で5%の改善)。

仮に若年層向けの政治教育等が充実し、意識が高まって18歳、19歳の投票率が60歳代並の60%となった場合は、比は0.32→0.43で11%改善しますが、それでも60歳代の4割強にとどまります。18歳、19歳および20歳代の投票率をなるべく上げ、少しでも若年層の意見が政治に反映されるように努めることの重要性は改めて言うまでもありませんが、少子高齢化が大きく進んでしまった現在、選挙権年齢のわずかな引き下げだけで高齢者寄りの政治がドラスティックに変わるとは言い難いということが分かります。

18歳選挙権の意義はシルバーデモクラシーの改善以外にも、政治への関心の高まりや若年層の権利拡大など、様々なものがありますから、一概に意義のあるなしは言えないでしょう。しかし、高齢者偏重の政治姿勢を改善し、社会の持続可能性を増すことが喫緊の課題であるとするならば、今回の選挙権引き下げだけでは到底十分な改善はできません。それには、今後も以下のような取組が必要となってきます。

(1)さらなる選挙権年齢の引き下げ
海外にはオーストリアやブラジルなど、16歳から国政選挙に参加できる国々もあります。それら先行事例を模範として、ヨーロッパでは地方自治体を中心として、16歳へ選挙権年齢を引き下げる動きが活発化しています(注3)。各国の事例を参照しつつ、日本でも選挙権を16歳からとすることは十分検討に値すると考えられます。

(2)被選挙権年齢の引き下げ
もう一つ大きな論点は、被選挙権年齢、つまり選挙に立候補できる年齢の引き下げです。議員になれば直接法律の制定に関与できますし、社会的な発信力も強まるので、選挙権年齢の引き下げよりも、より強力に若者の意見が政治に反映されることになるかもしれません。現在国政選挙では、衆議院議員25歳、参議院議員30歳となっています。なぜ、投票できるのに立候補はできないのでしょうか?また、衆議院は25歳で立候補でき、参議院は30歳にならないと立候補できない合理的な理由が、今存在するのでしょうか?被選挙権も成人年齢である20歳以上にするなど、少なくとも今よりも引き下げることは可能ではないでしょうか。現に世界の半数以上の国々は21歳から立候補ができます(注3)。この点でも日本は過度に若年層の権利を制限していると言えます。

(3)直接若者の声を政治に届ける仕組み作り
政治へ働きかける方法は、選挙だけではありません。現在、多くの「利益団体」「圧力団体」と呼ばれる組織が、自分たちの活動に有利になる様に政治に働きかけています。最も有名なもので、「経団連(日本経済団体連合会)」「全中(全国農業協同組合中央会)」「連合(日本労働組合総連合会)」などがありますが、影響力の差はあれ、ほぼすべての業界がこのような組織を持っています。このような利益団体の存在によって、各業界は、個別の企業や団体が政治へ働きかけるよりも、はるかに強い影響力を持つことに成功しています。

このような仕組みは、構造的に発生してしまうシルバーデモクラシーを改善するヒントとなりえるでしょう。若者がまとまって一定の数を持ち、政治家や政府と折衝することができれば、利益団体と同じ役割を果たすことになります。そうすれば、選挙制度だけでは解決しえない、世代間のアンバランスを埋める一助となるでしょう。そして、制度の変更には長い年月がかかることを鑑みれば、この方法が最も手早く、強力な政治的影響力を若年層が持つことのできる手段と言えるかもしれません。

この他にも多くの方策が提案されていますが、重要なことは、シルバーデモクラシーの解消は、18歳選挙権の達成という一つの取組だけでなされるものではなく、他の多くの取組の組み合わせによって、徐々に改善されていくということです。ですから、これからもこの問題に関心を持ち、さらに取組を進めるためには何ができるのか、社会全体で考え続けなければならないでしょう。

前回、今回と、「選挙により多くの若者が参加することは良いことだ」「シルバーデモクラシーは解消すべきで、その社会的優先順位は高い」という前提で話を進めてきました。しかしながら、「若者が選挙に(政治に)参加することに意味はない(または害悪だ)」「シルバーデモクラシーは世代間対立を煽るだけで、悪いことなどない」という意見があることも事実です。次回は、そのような意見の妥当性を検討していきたいと思います。

2012-Rio-20-press-briefing-e1415843848802-572x400
福島宏希:
若者の力を強くするためのプラットフォーム「United Youth」代表。「社会から弱い者いじめをなくしたい」という想いから、子どもの頃から環境問題に関心を持つ。早稲田大学理工学部卒業、フロリダ州立大学大学院(修士)修了。環境コンサルティング会社に勤務しながら、洞爺湖G8サミットに向けたユースの分野横断プロジェクト「Japan Youth G8 Project」を主宰し、環境副大臣へ提言を提出した。NPO法人エコ・リーグに事務局長兼専従職員として勤務し、2012年「リオ+20(国連環境開発会議)」に政府代表団顧問として参加した。

注)
1 第31回~第47回衆議院議員総選挙年齢別投票率調(総務省)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000255968.pdf
2  人口統計(総務省)および注1から筆者作成
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001118081
3 欧州における 選挙権18歳から16歳への引き下げの動向(NPO法人Rights)
http://www.rights.or.jp/archives/vote/140110.pdf

[showwhatsnew]