人生とは決断の連続だ。決断によって人生は左右されると言っても過言ではない。そこで、30代で現役引退を決意し、第二の人生を歩み始めた為末大さんと、同じく30代で日本を離れニュージーランドへの移住を決意した元アーティスト・プロデューサーの四角大輔さんに、「決断」をテーマに話し合ってもらった。(聞き手・オルタナS副編集長=池田真隆)

写真左から為末大さん、四角大輔さん


——お二人が「決断」をするときに大切にしていることは何でしょうか。

四角:人が決断するとき、すでに「心の真ん中は答えを知っている」のです。しかし、理由や裏付けを探そうとしたがるのが、多くの人が実践する決断までのルートだと思います。僕もかつては、そのようにしていました。答え合わせをして決めていかないと不安でしょうがなかったのです。

今は頭よりも、自分自身の心の声を聞くことを心がけています。その小さな声こそ、大事だと感じているからです。今の時代は物質的に豊かになり、情報も大量に溢れ、ネットでは2次情報が氾濫しています。自分の声が聞き取りにくい状況にあるからこそ、「決断」の前にはゆっくりと落ち着ける場所で耳を澄ませる時間をとるべきなのです。

為末:決断で悩むときは、軸を見失っているときか、その決断をしたことで成功したとしても、その成功が何をもって成功と定義しているのかが不明瞭なときが多いです。結局のところ、自分の人生とは何なのかということが悩みの根本にあると思います。

決断はいくら考えても答えはありません。行動にうつしてみないとわからないからです。ですが、ぼくも自分は答えをもとから知っていると考えるタイプの人間です。だからこそ、迷ったら自分に問いかけることを意識していますね。

よく、陸上選手でも見かけたのですが、ある一定のレベルまでは教科書通りの練習をしていればたどり着く事ができます。けれど、極めていくと教科書に書いていない問題にぶつかります。その領域に入ったときには、よけいな常識を取っ払って感性を信じるしかありません。誰も教えてくれないので、答えを自分自身に尋ねるのです。

型にはめる教え方をするなら絶対に教えなくていけないことが一つある

四角:僕は高校時代にベースボールを体験したくて、アメリカに留学しました。そこでのエピソードなのですが、スランプに陥りヒットが打てなくなった時、監督にバッティングフォームをチェックしてもらおうと相談したんです。

すると監督は、「お前はそのスイングで気持ちいいのか?」と聞いてきました。「気持ちいいとか、よくないとかは関係ないです。フォームに不備はないですか?」と再度訊ねました。それでも監督は同じことを聞いてくる。そのやりとりを通して、自分が「型」にはまっていたことに気づきました。

アメリカでは全員フォームが違います。これが正解という「型」がそもそもなく、自分に一番合うフォームからスタートします。一方、日本では型を大切にし、型を磨きあげます。確かに、型を重視する指導法だと、全体のレベルは上がりやすいですが、自分自身が本来持っていた才能に気づかないまま成長してしまう場合があります。

音楽の世界に入っても同じような場面を目撃してきました。天才的な素質を持っていた歌手が型にはめられることで潰れていくのです。

為末:根本をいうと、その問題を解決するには初等教育から変えていかないといけませんね。しかし、現実的にそれは難しいです。落ちこぼれを作らなくするなど型にはめることでのメリットもありますし。

ただ、型にはめる教え方をするなら絶対に必要なことが一つあります。それは、型破りの方法も教えることです。もしかすると、一生型にはまったまま人生を終えていく人もいるかもしれません。だから、自分自身に語りかけられるタイミングを持つことや、方法も教えてあげたほうがいいですね。

四角:陸上の世界にも型を破れないで成長が止まる選手は多いですか?

為末:多いですね。身体よりも頭を信頼していることで、身体が感じていることに気づけなくなっています。

四角:僕がこれほどまでに、型破りな人生を生きるようになったきっかけの一つは、アメリカに留学までして野球をしたのに結局、型を破れなかったという悔いがあるからです。もちろん、徹底的に型を身につけたからこそ今の自分がいるのも事実です。ところで為末さんが型を破った時期はいつ頃からでしょうか?何かきっかけはあったのですか?


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四角大輔|Daisuke YOSUMI
Lake Edge Nomad Inc.代表/
ソニーミュージック、ワーナーミュージック在籍中に10数組のアーティストを担当し『無名の新人をブレイクさせる達人』と称された。掟破りを信条とし、イノベーティブな仕掛けを次々と展開。数々の年間1位や歴代1位、20回のオリコン1位、7度のミリオンセールスを記録し、CD売上は2千万枚超。現在は、原生林に囲まれたニュージーランドの湖畔と東京都心を拠点にノマドライフをおくりながら、企業やアーティストへのアドバイザリー事業、執筆及び講演活動、フライフィッシングやトレッキングの商品開発などを行う。登山、アウトドア雑誌では表紙にも頻繁に登場。上智大学講師を務め「ライフスタイルデザイン/セルフプロデュース」をテーマとした講義を複数の大学で実践。「ソトコト」「PEAKS」「フィールドライフ」「Fly Fisher」などのネイチャー系雑誌にて連載中。著書に「自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと」「やらなくてもいい、できなくてもいい~人生の景色が変わる44の逆転ルール」Fly Fishing Trip(共著)」。
HP|4dsk.co
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Twitter| http://twitter.com/4dsk


為末大:
1978 年5月3日広島出身世界大会において、トラック種目で日本人初となる2つのメダルを獲得した陸上選手。
『侍ハードラー』の異名をもつ世界ランク5位(自己最高)のハードラー。
身長の大きい選手が有利である中、170 センチという体躯ながら、ハードルを越えるテクニックで世界の強豪と対等の戦いを展開する。
2001年世界選手権で、銅メダルを獲得。2005 年ヘルシンキ世界選手権で、豪雨の決勝の中、銅メダルを獲得。2012年に現役を引退。11月中には、著書「走りながら考える 人生のハードルを超える64の方法」を発売予定。為末大の生き方、考え方、挫折や苦悩、恥など、心の中に立ちはだかるハードルをいかにしにて乗り越えるのかなど、生き方のヒントとなる考えが収録されている。
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