今年1月21日、オンラインのスペイン語サービス「スパニッシモ」が開設された。立ち上げたのは、当時世界一周旅行中だった有村拓朗氏(27)と吉川恭平氏(同)だ。二人は、雇用問題が深刻化するグアテマラに雇用を生むため、起業を決意。開設から約10カ月経って感じる変化や今後の展望について、話を聞いた。

左から、吉川恭平氏、有村拓朗氏


グアテマラを救いたい

スペイン語を公用語として話す国・地域は20以上存在するが、その中でもグアテマラで使われるスペイン語は発音が非常に綺麗だという。また価格も一番安いため、スペイン語を学ぶためにグアテマラを訪れる人も多い。

しかし国が観光業に依存しているため、閑散期になるとスペイン語教師は職を失う人が跡を絶たない。その事実を知った二人は、「どうにかできないか」と考え、思いついたのが、オンラインスペイン語サービスであった。オンラインであれば、観光シーズンに左右されることもない。

二人が起ち上げたスパニッシモは、業界最安値で50分500円から授業を受けることができ、オープンから10カ月が経った今、会員は既に800人を超えている。

教育は現地の人が作ることに意味がある

「教育というものは、現地の人が作ることに意味がある」と吉川氏は言う。「スパニッシモの強みは、サービス一つひとつを現地の先生たちが作っていること」だと話した。

しかし、最初から現地の教師たちと想いを共有できたわけではない。オンラインサービスを始めると言っても、現地にツテもコネもない状態からのスタート。多くの人は半信半疑だったという。

二人がずっと伝え続けたことは、「グアテマラの雇用を何とかしたい」「雇用を安定させるためには、それだけサービスが大きくならないといけない」ということだ。

「目指すからにはスペイン語業界で世界一になる」という目標も、「そこを目指すことによって、しっかり教師たちの受け皿が持てる」と二人は言う。教師たちの意識は少しずつ変わっていった。

「自分たちで作っていくんだ」という意識に変わった教師たちは、オンラインに特化した教材の開発を行った。また、毎週ミーティングを行い、日本人が何度もつまずく箇所があればすぐに改善する。教材は既に何度もリニューアルをしているという。 

新しい講師を育成する研修の様子


スパニッシモが与えた変化

意識が変わり、教師たちの生活と仕事への姿勢は大きく変化した。中には、収入が3.5倍になった先生もいるほどだ。ある先生は「お前たちがそういう気持ちでグアテマラを変えたいというなら、俺はこれに掛ける」と、学校の隣に引っ越してきたという。

スパニッシモで教えたいという先生は、多くいる。入学テスト、講師の育成プログラムの修了、そして想いを共有できることを前提としているため、それらをクリアできない場合は断ることもあるという。雇用を生むのが目的ではあるが、だからこそ先生の質を落とさないためにそこは譲らない。

しかし、採用条件の一つでもある英語のスキルがなく断ったとしても、「何が何でも英語を身につけて戻ってくる!」と言い、違う場所で英語を学んだあとに再度面接に来る人もいるというから驚きだ。

彼らにとっては、生活がかかっている。スパニッシモで働ける条件を満たすために、彼らは全力で努力するのだ。

スパニッシモと出会って、変化があったのは教師だけではない。実際にスパニッシモを利用する日本の生徒は、先生を通してグアテマラを知る。そして先生に会いにいくことを目的に、旅行でグアテマラを訪れる人も少なくないという。決して近い距離ではない。それでも「会いたい」と思う先生との出逢いは、生徒にとって、とても貴重なものであろう。

スパニッシモのこれから

スパニッシモは、来年上旬を目処にアメリカへ進出する。英語のサイトをオープンさせるのだ。アメリカにはスペイン語の需要が多くあるため、そこを狙う。また、来年中にグアテマラに職業訓練校を作る予定だ。

「オンライン上の先生を育成するのが目的。グアテマラ全土で広めていきたい」と、吉川氏。「育成したあとに、彼らが自分の町に戻って、同じようなサービスを作ってもらっても構わない。競合が増えれば、それだけ雇用も増える」と二人は語った。

「グアテマラの雇用を改善する」という二人の活動は、まだ始まったばかり。「起業家」というよりも、「革命家」という方が相応しい二人である。日本人二人と現地の教師たちが、グアテマラの未来を変えるかもしれない。今後の活動から目が離せない。(オルタナS編集部員=大森清香)


スパニッシモ