青年海外協力隊として、ジャマイカ・ポートアントニオ(ポートランド州)に派遣されて、10か月が経過した。先日、友人のジャマイカ人の子ども2人と遊んでいると、マリーク(3歳)が突然私を「セクシーガール!」と呼んだ。はたして、日本の3歳の子どもが妙齢の女性にセクシーガールと言うだろうか。

言葉をかけてきたマリーク


ここジャマイカでは、男性が女性に対して「セクシー」「魅力的」「美しい」などという言葉を多用する。

その女性を知っていようが否かは関係ない。思ったことを口に出すのだ。大人がするから、子どもも真似をする。正直、見知らぬ男性に突然魅力的と言われても嬉しくはない。時には彼らと話すことさえ、億劫になる。一喜一憂しながら毎日を過ごしている。

青年海外協力隊の目的は大きく下記の3項目ある。
1.開発途上国の発展と復興に貢献すること
2.途上国との友好親善、相互理解を促進すること
3.ボランティア経験の社会還元

このうち、派遣された国での専門分野の活動によって『項目1』、日本帰国後に『項目3』は達成される。しかし一番難しいのが『項目2』の途上国との友好親善、相互理解を促進すること。要は、途上国の人々との異文化交流を図るということだ。

そもそも、異文化交流とは何か。ジャマイカ人に、折り紙を教えることだろうか。日本料理を振る舞うことだろうか。仲良くなり、酒を飲み交わせば異文化交流になるのだろうか。

配属先事務所からの帰り道、ボートやヨットの港沿いにある、観光客向けの酒場のテラス席で読書をしていた時のこと。

一人のジャマイカ人男性が声をかけてきた。ポートアントニオで生まれ、ミュージシャンをしているというレイモンド(28歳)。

ここジャマイカでは、アジア人は珍しいのでよく声をかけられる。特に私の住む場所は田舎なので、ジャマイカ音楽を目当てに訪れる若者もほとんど見かけない。私に声をかけるのは、主に男性だ。そして十中八九、誰もが同じことを言う。

「君は素敵だね。とても魅力的だよ。電話番号教えてくれない?」

私ははっきりと断る。初めて会った人に電話番号は教えないことにしていること、外国人であるが故に、よく知らない人を信用できないこと。

お互いを知らないから交換したいのに、と食い下がるレイモンド。ここまでの会話は日常茶飯事だ。人間性ではなく、ただアジア人という外見だけでしか判断されないことに悲しみを感じながら、適当に話題を変える。

無視することは簡単だ。しかし、私は青年海外協力隊の一員としてジャマイカに来ている身。ふと、異文化交流という言葉が頭をよぎった。

日本人であること。ボランティアとして、環境教育をする為にジャマイカに来たことを説明する。ただ女性を誘う目的で私に話しかけてくる男性にそれが届くかどうかはわからない。

それでも、私が話すことが、もしかしたら何かのきかっけを与えるかもしれないと思って話す。私一人のせいで、日本に対する悪い印象を持って欲しくはないからだ。

正直、教育も高卒程度で、一度も海外に出た経験のない人々と仲良くなるのは非常に難しい。中国と日本同士だってそう簡単ではないのは周知だろう。肌の色も、言葉も、文化も全く違う。

私が異物であることは、紛れもない。私がここで暮らすこと自体が、異文化交流だろう。しかしとて、他にできることはないのか。悩みは尽きない。(オルタナSジャマイカ支局特派員=原彩子)