貧困や教育格差、環境問題などの社会問題を解決する事業である「ソーシャルビジネス」は2006年にグラミン銀行を立ち上げたムハマド・ユヌス氏がノーベル平和賞を受賞したことで世界中に広がり出した。日本でも多くの社会起業家が生まれ、大手メディアでも「社会起業家特集」を組むことが珍しくない時代になった。収益と社会問題の二兎を追う経営を実践する会社のパーパス(存在意義)とは何か。これまでの企業とどう違うのか。17の社会的事業を展開するボーダレス・ジャパン(東京・新宿)の田口一成社長の考えを紹介する。

ボーダレス・ジャパンを立ち上げた田口社長

なぜ、社会問題を解決するいいビジネスアイデアは広がらないのか?
(下記の文章は、田口社長のブログを転載しました。原文はこちら

自分は何のためにこの会社を経営しているのか?というのは、どんな経営者にとっても一番重要な問いです。じゃ、ボーダレスは?ってことで、今日は少しボーダレスという企業グループの存在意義について書いてみたいと思います。

ボーダレスは社会起業家たちが集まって構成する「グループ企業群」です。社会問題を解決するソーシャルビジネスが次々に生まれ、その拠点はどんどん広がっている。

しかし、この企業グループ、普通じゃない。なんせ起業家たちの持ち株比率は0%。すべての会社がボーダレスグループ100%出資。つまり、何億円の利益を出そうとも起業家には1円の利益配当もない、ということ。

独立心旺盛な起業家たちが、そんな企業グループにあえて参画してくる理由は一体どこにあるのか??そこにこそ、表に見えない「ボーダレスグループ経営の本当の姿」があるので、今日はそこを説明したいと思います。

例えば、こんなシーンを想像してみてください。

あなたはケニアで貧しい大豆農家を支援する事業モデルを開発したとしよう。昨年は、1年目にも関わらず500名以上の契約農家を迎え入れ、彼らの収入を大きく改善しました。

さて、そこで質問です。

Q.あなたは、そのモデルを世界中に広げ、一人でも多くの貧困農家を救いたいと思いますか?

“もちろん、YES!”とあなたは言うでしょう。ケニアの全ての農家、いや世界中の貧困農家にこのモデルを届けたいと思っている。

そこに、ある人物がやってきてこう言いました。

Q.はじめまして。田口と言います。あなたのモデルはとても素晴らしいですね。是非、僕にそのノウハウを教えてくれませんか?私もあなたのアイデアでタンザニアの貧しい農家さんを救いたい。

さて、あなたは今、どう思っただろうか?

見ず知らずの人がやってきて、あなたが数年間ろくに給料もとらず試行錯誤して創り上げた事業ノウハウを教えて欲しいという。あなたはならどうしますか?

さっきと同じように“もちろん、YES!”と、本当に言えるでしょうか?

・こいつは何者?本当に信用できるのか?
・本気で農家を救いたいと思ってるのか?
・自分が儲けたいだけじゃないのか?

あなたの心はそんな風に思っているかも知れない。
そして、結局あなたはこうするだろう。

「まずは、業務提携を結びましょう。」
「研修費用は〇〇万円。ロイヤリティ収入として〇%位でどうでしょう。」
「2年目も継続するかどうかは、結果をみて決めましょう。」

んん??

さっき、あなたは「このモデルで一人でも多くの人を救いたい」と言ったばかりなのに、それを広げたいという人が実際に現れてきたとたん、別のことを言っている。

さっきの言葉は嘘だったのか?

では、次の場合はどうでしょうか?
あなたの弟がやってきてこう言いました。

Q.姉ちゃんが開発したこの事業モデルは素晴らしいね。俺に、そのノウハウを教えてくれない?タンザニアにいって俺もこの事業を広げたい。

今度はどうでしょう?

A.もちろん!早速、明日から教えてあげるからすぐこっちに来なさい。事業をスタートする時は、タンザニアにうちのスタッフを送ってあげるよ。

とあなたは言うでしょう。契約だ、ロイヤリティだ、なんて話は一瞬たりとも頭をよぎらず即答でYES!

社会問題の解決がなかなか加速しない理由はここにあると思っています。

僕は毎日福岡で、未来の社会起業家たちと新しいソーシャルビジネスを立ち上げようといくつもの事業開発をしていますが、調べれば調べるほど、世の中にはいいアイディアがたくさん埋まっていることに気付かされます。

では、なぜこのアイディアは世界中に広がっていかないのだろうか?みんなが同じようなテーマにバラバラに挑戦しなくても、良いソリューションはみんなで共有した方が良いに決まってる。

でも、そうならないのはなぜなのか??
何がそれを邪魔しているのか??

いくら社会のためにと言っても“人間だもの”。よく分からない出会ったばかりの人間に、自分のお金と時間をかけて汗水流してつくりあげたノウハウを「はい、どうぞ」とは渡せないのが人間です。

逆に言えば、そこにこそ社会を変えるスピードを一気加速できるヒントが隠されている。そこへの挑戦こそが、このボーダレスという企業グループをつくった本当の理由です。

そこで、僕らの出した答えは「みんなが身内になる」ということ。

お金も人もノウハウもすべてを共有する家族になる。他人だけどそんな家族のような状態をつくりたい。そこで僕らは、みんなの財布を一つにすることにしました。

財布を一つにすることで、家族の誰かの成功はそのまま自分の成功となる。各社が上げる余剰利益は100%、グループの共有ポケットに戻す。そうやって、みんなの共有ポケットを大きくしていくことで、何が起こるのか?

仲間が増えれば増えるほど、共有ポケットは大きくなっていくので、みんなが進んで自分の事業アイデア・ノウハウを提供するようになる。そうして、大きくなった共有ポケットを使って、自分は一人ではできなかったより大きな規模の事業投資を行えるようになっていく。

そうやって、ある国である社会起業家が開発したアイディアは、瞬く間に世界中にいる仲間たちに広がっていく。

アフリカだけでなく、アジアや中南米、世界中にいるボーダレスグループの起業家たちが、つぎつぎとケニアを訪れ、このモデルを学び自国の貧困農家を救うために持ち帰る。そこには、一人では到底できない社会変革スピードとインパクトが生まれる。

それこそが世界の社会起業家たちがここに集う理由であり、ボーダレスグループという会社の存在意義です。

“社会起業家の共同体”という生態系をつくる。それこそが、世界の社会変革スピードをいっきに加速させるために、僕らが考えたボーダレス流の社会アプローチです。


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