夢とその実現性を競い合うコンテスト「みんなの夢AWARD3」が2013年1月、日本武道館で開かれる。ノーベル平和賞のムハマド・ユヌス氏も審査員として参加する。運営団体の代表として「2013年をソーシャルビジネス元年にしたい」と意気込む渡邉美樹・ワタミ取締役会長に、このイベントの狙いを聞いた。(聞き手・オルタナS副編集長=池田真隆)

ワタミ取締役会長の渡邉氏


——「2013年をソーシャルビジネス元年にしたい」と表明しましたが、どのような意味を込めたのでしょうか。

近年では「ソーシャルビジネス」という言葉がさまざまに取り上げられていますが、定義があいまいだと感じています。だから、ソーシャルビジネスの定義をより明確にした形で日本に根付かせていきたいのです。

——渡邉さんが目指すソーシャルビジネスとはどのような形なのでしょうか。

寄付に頼らないで、自分たちの力でビジネスを回す形です。寄付を集めて、社会貢献活動に充ててしまうのではなく、寄付金を資本金とし、事業活動をすることで、持続可能な活動を産み続ける仕組みです。

雇用や納税など、社会的な企業としての役割も果たすNPOやNGO団体が増えていくことで、より良い社会を作っていきたいのです。

この概念を広める第一歩のイベントを、2013年1月に行います。日本武道館で行う「みんなの夢AWARD3」です。夢アワードでは、ソーシャルビジネス部門も設けました。また、1億円規模のソーシャルビジネスファンドも設立する予定です。

いかに多くの「ありがとう」を集められるか

——現代の多くの企業は、ビジネスと社会貢献を分けて考えています。ビジネスと社会貢献を一体のものとらえるにはどうしたらよいと考えますか。

企業活動が売上利益を最大の目的とすることから離れることです。そして、企業活動の目的を、いかに多くの「ありがとう」を集めることに切り替えることです。

より多くの「ありがとう」を集めることが目的なら、国内で外食産業を営みお客さんに「ありがとう」といわれることも、カンボジアの子どもたちを支援して「ありがとう」といわれることも全て一緒にとらえられるのです。

金を儲けて支援する仕組みではなく、両方を幸せにしたいという想いから動いているので、ビジネスと社会貢献は一致します。

——しかし、「ありがとう」を集めるだけでは企業活動を継続させるには厳しいのではないでしょうか。

それは違います。お金が飛び交っているのではなく、「ありがとう」が飛び交っているという見方に変えればいいだけです。

「ありがとう」があるから売り上げになり、知恵を使えば利益は出ます。事業活動とは、「ありがとう」を集めているのだという概念で見ればソーシャルビジネスのあり方も見えてくると思います。

——渡邉さんにとっての「ありがとう」とはどういったものでしょうか。

「そうであることが難しい」ということです。まさに、「有り難い」ことです。経済用語でいうならば、付加価値が高いということです。

付加価値が高いことによって、初めて「ありがとう」が集まります。付加価値が高いものを提供していき、その結果、事業が継続していきます。それが、「ありがとう」の再生産につながっていきます。



今の若者は「良い子」だが、弱い側面も

——企業活動を行う上で、環境配慮や社会貢献意識は邪魔になってくると考える方もいらっしゃいます。渡邉さんは、利益よりも「ありがとう」を集めることを目指していましたが、企業活動を行う上でその考えが邪魔になったことはありませんでしたか。

事業の目的が利益追求ならば邪魔になることもあると思います。ですが、私は「ありがとう」を集めることが目的です。その「ありがとう」は未来の子どもたちの「ありがとう」も入っています。

そうであるならば、利益を落としたとしても、「ありがとう」を集める活動を続けることは当然です。

当社はISO14001を、外食産業としては世界で初めて取得しました。当初は、「取得してもまったく意味がない」と言われたりもしました。利益につながらないからです。

でも、私の企業活動は「ありがとう」を集めることなので、そのために経費を払うことは当然でした。だから、企業活動を行う上で、社会貢献意識が邪魔になることはあり得ないのです。

——東日本大震災以降、日本人の社会貢献志向は高まっています。特に若者の間で熱が高くなっています。渡邉さんは今の若者をどう見ていますか。

とても良い子たちだと思います。良い子だから、社会貢献志向を持つのでしょうね。でも、良い子ではありますが、弱い面もあると感じています。

弱い子だから、ボランティアや社会貢献という言葉に甘えて他者に頼ってしまうのではないでしょうか。人のために、何かをしたいと考えるならば、持続可能性は必須です。ビジネスを回し、自分の力で立っていられる強い子になってほしいです。

——彼らが「強い子」になるにはどうしたらよいとお考えでしょうか。

「死に物狂い」になることですね。死に物狂いが強さを生みます。死に物狂いになれないのは、きっとどこかで甘えがあるのではないでしょうか。ソーシャルビジネスを志すあなたたちには、ぶれない強いミッションを持ってほしいです。

なぜなら、社会貢献活動で生きていくのは、通常のビジネスを行うことよりも厳しいことだからです。

社会貢献活動で事業を回すためには、単なる利益追求のビジネスを行うときよりも、多くの時間をかけて働かなくてはいけません。寄付で頂いたお金は、ビジネスで儲けたお金よりも大切に使わなくてはいけません。

心も体もフルに使わないとできない仕事だと理解した上でソーシャルな仕事に関わってほしいです。私は、そのように志高い若者が描く夢の実現を応援していきます。

——「居酒屋業界は労働時間が長い」と聞いたことがあります。こうした長時間労働が渡邉さんのイメージに悪影響を与えている一面もあるのではないでしょうか。

それはおかしいよね。大変だけど、みんな楽しそうに働いているけどね。居酒屋が大変だからって、労働集約的な仕事はたくさんあるからね。農業もそうです。大変な仕事だから良いという面もあります。大変な数の雇用を生み出している飲食店の経営者はみんな悪なのでしょうか。


みんなの夢AWARD3