結婚や妊娠、出産を経験していない若い世代へ啓発活動を行う26歳の女性がいる。約2年半をかけて妊婦や産婦人科医をゲストに招いたワークショップなどを企画し、400人弱を動員した。「妊娠をしてからではなく、する前に知っておけば安心する。妊娠したときに素直に喜べる社会にしたい」と意気込む。(オルタナS副編集長=池田真隆)
西出博美さん(26)は2010年4月に新卒で就職した介護関係の仕事をわずか半年で辞め、翌年の2011年2月に任意団体「ぱぱとままになるまえに」を立ち上げた。
高校・大学と福祉を専攻しており、実習でよく児童養護施設に通うことが多かった。そこでは、虐待を受けた子どもたちに多く出会い、何とか解決したいと決意する。虐待を根本的に解決するには、親になる前の世代を変えていかなくてはいけないと考え、活動を開始する。
■ネット依存の落とし穴
「あなたに恋人がいるとして、明日子どもができたらどうしますか」――これは、よく西出さんがワークショップで参加者に尋ねる質問だ。多くの人が、「まだ準備ができていなくて困る」と答える。
喜べない理由は、親になることへの不安だ。病院の探し方から、子どもが生まれる準備など、知らないことだらけだ。この不安を解消するために、ワークショップや助産院ツアーを企画した。
今の時代、妊娠・出産に関する知識はインターネットで調べればすぐに見つかる。しかし、実際に会って話しを聞くことにこだわる。
「情報は溢れているのに、不安が解消されない原因は、結局は情報が他人事化してしまっているから。実際に会って話を聞くことで、知識と感情がセットになる。すると、自分に引きつけて考え、理解が深まるので、気持ちが安らぐようだ」と西出さん。
■顔の見える出産施設選びへ
安心してお産に取り掛かるため、顔が見える出産施設選びにも注力する。来年4月にスタート予定のサイト「ぱぱままっぷ」だ。今年8月、クラウドファンディングで資金を募った結果、167人から100万円を超える金額が集まった。
同サイトで、助産師や産婦人科医へのインタビュー記事を掲載する。聞く内容は、「出産に関わる仕事に就くきっかけ」「一番思い出に残る出産について」など、お産に関わる個人の気持ちが分かるものだ。
妊娠して病院を選ぶ基準は、「近さ」や「施設環境」が優先されていた。しかし、西出さんは出産施設の中にいる人の顔が見えなかった点に目をつけた。
来年4月のオープン時には、松ヶ丘助産院など都内の病院に勤務する約50人の助産師・産婦人科医・出産後の夫婦のインタビューが掲載される予定だ。
■妊婦は社会的弱者か
西出さんは、「妊婦さんは働くことができず、周囲から何かと気を遣わせる存在なので、社会的弱者のようなレッテルを貼られ、どこか生き辛さを感じている」と話す。「子どもを産み、育てることは尊いこと。この価値観を再確認してほしい」。
例えば、マタニティーマークを付けた妊婦が電車に乗ってきたら、あなたはどう動くだろうか。西出さんは、「席を譲ることよりも先に、妊娠おめでとうございます」と喜べる社会になればいいなと笑う。
・ぱぱとままになるまえに