人口8000人弱の島根県津和野町で、同町の魅力を伝えるパンフレットが制作されている。制作しているのは、仕事も年齢も異なる6人の町民たち。リーダーを務めるのは、2012年4月に東京の大学を退学して、この土地に移住してきた一人の若者だ。(オルタナS副編集長=池田真隆)

津和野町民と福井さん(写真下段右端)

その若者は、福井健さん(23)。国際基督教大学を退学し、地域活性を行うため津和野町長の町長付きとして移住してきた。制作しているパンフレットでは、「この町に残る、生きる知恵を伝えたい」と言う。

6人で取材・編集作業を分担し、取材者や特集企画を考えた。全30ページのパンフレットの完成を目指す。発行部数は2000~3000部を予定しており、状況を見て増刷する。設置場所は、同町の役場や日本橋にある島根県庁の東京事務所といった公的機関のほか、カフェや美容室など民間施設にも置く予定だ。

印刷費やデザイン費などは、クラウドファンディングで集めている。50万円の目標金額だが、2月7日時点で88人から43万円が集まっている。残り7万円を達成するまでの期限は22日間だ。

同町は、高齢化率30%を超え、人口減少率は県内ワースト1位だ。通学県内に大学がなく、働き先も少ないため、若者が出て行ってしまう。福井さんが住んでいた東京とは違い、小腹が空いても、ファストフード店や小休憩できる喫茶店も近くには少ない。

しかし、「商業施設がない町でも、工夫して遊び場を作ることができる」と話す。たとえば、酒蔵を解放して、フラメンゴ教室にしたり、DJを呼んでパブリックビューイングもする。同町では清流として有名な高津川があり、日本酒の名産地であるので、おいしいお酒を片手に楽しむ。

さらに、喫茶店がない代わりに、地元民しか知らない絶景を見ながら珈琲を堪能できる。「今日は雲海カフェの日」と言われ、福井さんが地元町民に連れていかれた場所からは、すっぽりと雲に覆われた町と、ぽこっと顔を出した津和野城の姿が見えたという。典型的な盆地地形の同町では秋の一時期だけ雲海と出会える。

雲海カフェを開く人々

期間限定の絶景スポットには、続々と地元の人たちが集まり、サンドイッチ、コーヒー、テーブル、アウトドアチェアーを並べて、特設カフェができあがった。

福井さんは取材をしていくなかで、「生き方を考えさせられた」と振り返る。「モノがない、環境がない中で、工夫して作り出す。人や自然と共生して生きる人たちの知恵を残していきたい」。

移住してきて、まもなく2年が経過する。パンフレット制作にやりがいを感じ、「今まではよそ者に見られていると感じることもあったが、少しずつ認められてきているのかも」と話す。

クラウドファンディングで挑戦中のプロジェクト