「精神疾患などを抱える人々が、自立して生活をしていく環境が無い」と語るのは、名古屋市を中心に精神疾患者の生活の質を上げるためにサポートを行う、一般社団法人しんの本間貴宣代表だ。本間代表は、高校2年生になるまでやんちゃな事を沢山していた元気な少年だったという。ところが高校2年生のある日、授業を妨害しようとチャラけていたら、担任の先生と目が合った。先生は、怒ることも無く、とても悲しい瞳をしていたという。(吉田尚弘)

組織の説明をする本間代表

その先生が、その時に癌を患っていたのを知ったのは、先生が亡くなった後だったそうだ。本間代表は、その機会を発端に勉強を精一杯取り組む事になり、フロイト・ユングという本と出会ったのをきっかけに、精神疾患者の問題を取り組む為に、臨床心理士になる事を決意した。

一般社団法人しんは、精神疾患を原因として学校や職場などに行くことができなかったり、日常生活そのものを送る事が困難な人に対して、少しでも外に出ていただき、交流を図って欲しいという思いから誕生した。現在は、常勤職員に元看護師を雇うなど、メンバーと呼ばれる精神疾患を抱えた人々が足を運んでもらいやすい環境造りを心掛けている。

2013年の4月からスタートをした団体に所属をするメンバー(精神疾患者)は、すでに60人を超える。その多くが、学校や仕事は行っておらず、家からでるのも大変な人々だという。

実際に、取材中にも数名のメンバーが事務所に訪れた。確かに、彼らの顔には笑顔が無く、表情を変えるのもやっと、と思われる人も居た。そんな、多くのメンバーが身を寄せるしんの代表を務める本間氏は、日本の精神疾患者を取り巻く環境に不満を抱いていた。

本間代表の意見では、現在の日本に於いて精神疾患者が自立出来ない環境になっている最大の問題は、「効率化」という考え方にあるという。日本社会全体において、この効率化という考え方が根本的な部分にある。その考え方は、一般企業だけでなく、学校にも同じ事が言えるという。

効率化の考え方を基盤に考えた日本社会では、効率的に動く事が困難な人々は自然と排除される。さらには、障害や精神疾患を抱えた人だけではなく、健常者の人々もこの効率化という問題と直面している。効率化故に、排除されていく障害や精神疾患を抱える人々。そして、いつ排除されるか分からないという気持ちを抱え、仕事を続ける健常者。健常者の多くも、自らの日常生活を送るために精一杯になってしまい、全く余裕が持つことが出来ない現状。

この構図こそ、最大の問題点であるという指摘をする。もし、健常者の人々もゆとりを持って生活を送る事ができれば、障害者の人々の問題にも目を向けるチャンスがある。だが、日本の現状は、そのチャンスも無くなってしまっているという。そんな問題点を語る本間代表に、現状を改善する方法を尋ねた。

本間代表は、「現在、仕事をしている人(既に社会人の一員)の考え方や、価値観を変える事は非常に難しい。だが、今は子どもで学校に通って教育を受けてる人が、もしも今の社会の概念を無視した教育を行っていければ、今後の精神疾患者を取り巻く環境を変えていくことが可能ではないか」と、語る。

現在の学校も、効率化を元に日常生活が行われる。どの様にすれば、効率良く勉強ができるか、効率良く成績が上がるか、効率良く進学したい学校に行けるか。

全ては、効率化だ。

だが、この効率化という概念を捨て、一人ひとりの個性や、目に見えない価値観を考える機会を与え、育っていけば、自然と状況は改善されるのではないかと言う。

本間代表の思う、精神疾患者を取り巻く環境が良い社会とは何か。本間代表は取材で、ロサンゼルスで活動をするある組織を例に挙げ、答えた。その組織は、地元に住む精神疾患者の日常生活を送りやすくする為のサポートを行っているという。

事業内容も、それほど日本で活動をする支援団体と変わらない様だ。だが、明らかに違うのはここからだ。そのサポートを行っているスタッフも、元は精神疾患などの問題を抱えていた当事者の人々だった。

彼らは、プロのスタッフとして現在は給料を貰い、立派な仕事として生活に苦しむ人々の支援を行っていたのだ。本間代表は、この様に精神疾患を抱えたり、何らかの問題を抱えた経験のある人々だからこそ、できる事があり、彼らにしかできない事がある、というのだ。

本間代表は、「支援団体のスタッフに限らず、一般企業に於いても障害や精神疾患を患った事のある人にしかできない仕事があるのでは無いか」と、考える。

そのような価値観が生まれることで、やがて仕事ができなかった人々にも、何かできることが増える。そして、「同じ人が毎日2時間残業をして、疲れるくらいだったら、その2時間を2時間しか働けない人にあげるべきではないのか」と、取材の最後に言ったのが印象的だった。

本間代表は、そんな人々が一人ひとりの個性を見出し、受け入れられる社会造りを目指したいと、意気込みを語った。

【三重県フレンテまつり】
大型展示「吉田尚弘 報道写真展」フォトジャーナリズム展 三重主催
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