社会起業家支援を行うアショカジャパンでは2012年から、「(東北)ユースベンチャープログラム」を行っている。このプログラムでは社会問題の解決や東北の復興に対して、行動を起こしたいという気概とユニークなアイディアを持つ12~20歳の若者を支援している。アショカジャパンにより選出され、活動を続ける若者を特集する本企画。第10弾となる今回紹介するのは、ホットスポットから彼女の地元北海道に避難されている方々を含め、北海道に暮らす人々を対象にしたプログラム「体感農場」の運営を行っている大学生、金川綾華さん(天使大学4回生、現在休学中)。(オルタナS特派員=中川 なつみ)

体感農場にて参加者と共に楽しむ金川さん

体感農場にて参加者と共に楽しむ金川さん

2011年に発生した東日本大震災。金川さんが初めて被災地を訪れたのは2012年の3月、釜石市だった。その地で、たくさんのあったかいそこに暮らす人々や釜石の自然の魅力に魅了された金川さん。彼女は「もっともっと 被災地の力になりたい」と強く思ったという。

この思いを抱きながら、地元北海道に帰ると以前では気が付かなかった事に目が行ったそう。それは、放射能の影響で北海道に避難してきた人が多いこと。

震災の影響は被災地だけにあるわけではない。北海道を選んで避難してきた人たちが、もっと北海道のことをすきになってくれたら。もう一つのふるさとのように感じることができる場所を持ってもらうことが出来たらいいのに...。

「北海道にいてもできることがある」

その想いの下、彼女は得意分野である「食」を活かして(金川さんは大学で栄養学を専攻している)、食×農の体験プログラム「濱本農場丸ごと体感塾」を運営し始めた。

「濱本農場丸ごと体感塾」は、五感を使って、健康と食の安心を感じることをテーマに運営している。

食に対して敏感になっている避難者の方々を、食の生産の場である「濱本農場」に呼び、大人も子どもも目一杯畑作業・田んぼ作業をして、おいしいお昼ご飯を食べて、思いっきり外で遊ぶのだ。

農家体験する子どもたち 農作業風景

初年度は、ほぼ避難者のみの参加となっていたこのプログラムだったが、昨年度からは北海道の親子連れも参加するようになった。

はじめて出会った人たちが、体を動かし一緒に作業をすることによって仲が深まっていく。この体感塾は世代や住んでいた場所を超えた新しい交流の場にもなっているそう。

濱本農場で作られるお米や野菜は100%の有機ではない。農薬を使って育てられたもの=100%体に害を及ぼす わけではない。しかし、避難してきた人たちは やっぱり食に対して過敏になってしまう。

それを踏まえたうえで、この体感塾には、「安心・安全の範囲がどこまでなのか自分自身の身を持って感じることで、実際に農家さんの顔を見て話を聞いて、正しい知識を得てほしい」

「感覚や飛び交う情報に惑わされ、むやみやたらと排除するのではなく、正しい知識を持って自分の目で判断してほしい」という想いが込められている。

食材それだけではない。いつも食べているものや身に着けている服がどうやって作られているのか・誰が作っているのか考えたことがあるだろうか。「お金を出せば買えるもの」で溢れている時代。では、その「もの」はどうしてそこにあるのだろうか?

人が作っているのか、機械が作っているのか、日本で作っているのか、世界の裏側で作っているのか。 生きるということは別の命をいただくという事。消費するということは、他の誰かの「がんばり」をいただくということ。

農場という生産する場で、身を持って感じること・感動を通し「つくる側のことも考えられる」 そんな想像力を育てるという思いもここには込められているのである。

現在彼女 金川さんは、大学を1年間休学し Founing Baseという団体で島根県津和野町の町役場 農林課にて地域活性の取組を行っている。何故彼女は、生まれ育った北海道をいったん離れたのだろうか。

金川さん曰く、自分の力を試したかったから挑戦してみたいと思ったから一度、外から北海道を見てみたかったから だそう。

津和野でも「食」や「農業」の分野で地域おこしを進めている金川さん。先日は、東京で津和野名産の食材を 彼女が料理した「津和野ごはん」というイベントを行っていた。

お品書き

津和野でも全力を尽くしている金川さんだが、北海道で行う「濱本農場丸ごと体感塾」でも活動を継続して行っている。

一緒になって身体を動かしたりすることはできないけれど、津和野からでも関われる「広報」や「体感塾のプログラム作成」を行ったり、「濱本農場丸ごと体感塾」のこれからのブランディングやビジョンをメンバーと話し合いながら明確にしているのである。

避難された人たちだけに限らない「食」への関心。自分たちが、何を食べ 誰が作り どのように作られているのかを知ることが今後も大切になってくる。

そんな中で、暖かく 力強く 真剣な彼女の存在は、これから多くの人の心と頭の支えになるだろう。わたしたちも、彼女任せ・誰か任せにせず、自分の目で体で 正しい知識を養い、美味しくごはんを日々いただきたい。