建築用ガラスやサッシの卸販売を行うマテックス(東京・豊島)は、経営理念の一つに「窓を通じて社会に貢献する」ことを掲げる。新設住宅戸数は年々減少し、経済環境が厳しくなるなか、2014年3月期の売上高(連結)は過去最高の138億円に達した。「エコ窓の普及」を主軸に、「ソーシャル(社会性)」を強みにする同社の戦略を松本浩志社長に聞いた。(オルタナ副編集長=吉田 広子)
マテックスの創業は1928年。3代目となる松本社長は2009年に社長に就任し、家業を継いだ。まず手掛けたのが、経営理念の制定だ。明文化し、社員一人ひとりと理念を共有することで、サステナブル(持続可能)な組織づくりを目指した。
5つある経営理念のうち、特徴的なのが、「窓を通じて社会に貢献する」「『卸の精神』を貫く」だ。
同社の主力商品は、熱の出入り口である「窓」。冬の暖房時の熱が開口部から流出する割合は58%、夏の冷房時(昼)に開口部から熱が入る割合は48%と、窓の役割は大きい。
そこで、同社は、高い断熱・遮熱性能で熱の出入りを防ぎ、暖冷房によって発生するCO2排出量を削減する「エコ窓」の普及に努めてきた。2011年には、断熱ガラス、防音ガラス、防犯ガラスなど、環境や健康を考えた窓づくりの情報サイト「madoka(マドカ)」も開始した。
ほかにも窓の役割として、断熱や防音だけでなく、防犯や健康維持などがあり、社会性が高い商品である。
だが、松本社長は「社会性の高い商品を扱っているからといって、企業の社会性が高いわけではない。その企業の社会性が高いかどうかは、商品そのものではなく、商品を販売する社員らの『姿勢』にかかっている」と話す。
■新規ではなく、既存住宅をターゲットに売上増
窓を取り巻く経済環境は厳しい。新規住宅戸数は1980年代後半の160万戸をピークに年々減少し、現在では80万戸を切っている(国土交通省調べ)。
だが、既存住宅に目を向ければ、5000万戸と市場は大きく、ここをターゲットにすることで、同社は売上高を伸ばしてきた。
さらに、単にターゲットを変えただけでなく、地域事業者を巻き込んだ点も大きい。
地域密着の小さなガラス店の仕事が減りつつあるなか、松本社長は「窓は設置して終わりではなく、長期的なメンテナンスが必要。地域の職人を失うことは消費者にとっても大きな損失」と考えた。
そこで、地域事業者向けに、「下請け」から脱却し、サービスを提供する立場としてのノウハウを教えるセミナーを開催。これまでに261回開催し、のべ1664人が参加した。
■これからの組織づくりを考える
松本社長は、「会社の成長を支えたのは社員。組織の成長には人づくりが欠かせない」と力を込める。これからの組織は、「トップダウン型」「競争重視型」ではなく、より「家族的」で、「創造性・柔軟」が重要になってくるという。
そこで、マテックスは2013年6月、全社員を巻き込んで事業の目的を見直し、「VISION(ビジョン)90」を策定した。
事業の目的は、「地域事業者と共創し、生活者の豊かな住まいづくりのソリューションを届ける」だ。
この事業の目的を達成するため、社員は自発的に、感性を磨くための自由参加研修を企画する。例えば、「里山レンタル田んぼでお米づくり体験」や、販売店を営む父親の仕事を体験できるキッズコーナーの設置などだ。
「部門を超えた対話の機会が増えたことで、社内でプロジェクトが続々と上がるようになった。今では社員が役職に関係なくミーティングに参加し、アイデアを共有している」(松本社長)
こうしてマテックス創業者の「お客様や従業員が安心できる環境をつくれば、利益はおのずとついてくる」という思いは受け継がれていく。