島根県津和野町と、岡山県和気町でまちづくりの活動に取り組むFoundingBase(ファウンディングベース)。この取り組みの面白さは、都市部の若者が地方に移住し、その地方のいち住民となり、地元の人々と協力しながら、地道に一歩一歩、取り組みを進めているところだ。この取り組みに参加する若者たちは「ある」もの尽くしの東京から、「ない」ものだらけの津和野町や、和気町に移り住む。彼らは、何故、地方を選んだのだろうか。今回は、国際基督教大学を休学し、自ら成長するために2014年3月に岡山県和気町に赴任し、多様な団体による協働事業に取り組む柏倉一斗さん(21)に話を聞いた。(聞き手・福井 健)

――生まれてから、FoundingBaseに出会うまでのきっかけを教えてください。

柏倉:好きなように生きてきたら、好きなようになってたと感じている。出身は北海道の北広島市。小学校低学年の頃からサッカーを始めて、ずっとサッカーをやってた。

中学の卒業式の時に、5校くらいからサッカー推薦が来たけど、サッカーだけやってるのもかっこわるいなと思って、推薦を全部蹴って、自己推薦で違う高校に入学した。でもそんな自分は井の中の蛙だったと感じている。

それまでは、20人くらいのサッカー部のキャプテンで、道央選抜にも選ばれていて、調子に乗っていたけど、高校のサッカー部は100人規模の部活で、入部してすぐに自分より上手い同学年の同じポジションの選手に「お前の方が下手だから、他のポジションにしたほうがいいよ」とニコニコしながら言われたりするくらい、自分の力の及ばなさを感じた。

それでも朝から晩までサッカー部の練習に明け暮れて、そのためだけに学校に行ってたと言っても過言ではなかった。3年になってから試合に出始めたものの、全道大会ベスト8で破れ、夢が叶わなかった。

そもそも進学しようとかいう意識はあまりなかったけど、監督に薦められて、推薦もあるから大学に行けよと言われ、高校が提携していたICUに入学しようと思い、推薦受験した。

受験に合格し、入学金を払った後に、知人とつまらないいさかいを起こして3ヶ月間学校を謹慎になり、「お前このままで入学できるのか」というようなことを親父に言われ、めちゃめちゃ怒られ、大学に行けないかもしれないと思ったけれど、結局何かの導きで、入学することができた。

大学時代のサッカー仲間と

大学時代のサッカー仲間と

――どんないさかいやねん。アウトローやな。

柏倉:いや、アウトローじゃない。好きなように生きていただけだって。でも、何も勉強しないまま大学に入学して、大学生活を送っていたが、高校時代のサッカーのように熱中できるものが見つからない日々を過ごしていた。

そんな中、金を稼ぎたいと思うようになった。というのも、入学当初に親父に50万手渡されて、「これで過ごせ」と言われ、ひもじい生活を送る中で、しっかりお金を稼いでやりたいことができる状態を作りたいと考えた。そこから、起業に興味を持ち始めた。

――何を起業しようとしたの。

柏倉:特にアイディアはなかった。ただ起業したい、ってそんなくらいにしか考えてなかった。そんな時に、FoundingBaseの共同代表の佐々木さんを紹介された。最初に会ったときには、何で起業したいの?とか、何すんの?とか全く考えてもいなかった事を矢継ぎ早に聞かれて何だこの人、と思っていたけれど、彼がベンチャー企業の取締役だと知って、なにか起業のチャンスになるかもしれないと思って、自分で作った企画書を彼に持ち込んだ。その日に一緒に飲みに行くことになり、散々飲んだ挙げ句、彼の会社でインターンすることになった。

――インターンでは何してたの。

柏倉:主に、その会社で実施していた、グローバル人材の就職支援事業に携わっていた。8ヶ月間、週3〜4回くらいの頻度で働いたものの、思うように結果が出なかった。そのとき、自分をインターンとして採用してくれた佐々木さんから厳しい言葉をもらった。そこで、もっと自分が改められることがあると気付き、それまで週3〜4回の頻度だったものを、週8で働いた。

インターンをしているときの柏倉さん

インターンをしているときの柏倉さん

――週8てなんやねん。それで学んだことってあった?

柏倉:絶対定量成果主義を学んだ。この学びがあった後、新しい事業が始まり、その事業の責任者になって働いた結果、しっかりと成果を残すことができた。インターンに関しては、一段落ついたと感じ、環境を変えたいとも思っていたので、旅に出た。

――え?そこからどうやってFoundingBaseにつながるの?

柏倉:インターンが終わった後、体調を崩すくらい遊び倒していたところ、急にお世話になった佐々木さんから連絡があり、「会おう」と言われ、久しぶりに飲みにいった。

そこで彼から「インターンが終わってからの過ごし方が起業に繋がったか?」と言われ、それに対して明確な答えを持っていない自分に気付いた。正直何やってたっけ?って思うくらい何もしていなかったと感じたし、自分にはいまやるべきことがある、そう感じた。

大学入学当初に感じていた起業は自分にとって「目的」だったけれど、その時には起業は「手段」でしかないと感じていて、自分のやりたいことを達成するためのものだと感じていた。明確にやりたいことは決まっていなかったけれど、起業しないと自分のやりたいことが達成されないという状態になったときに、起業できない自分でいるのは嫌だったので、圧倒的に人より秀でた能力を身につけることが必要だと感じた。

能力を身につけるための選択肢として、留学と海外インターンとFoundingBaseに参加するという三つの選択肢があった中で、どれがベストかを考えた時に、裁量が与えられていて、佐々木さんという自分の信じれる人がいる環境に行くことがベストだと感じた。

だからFoundingBaseに参加したいと思った。

――まじか。地域とか全然興味なかったんやな!え、でもそんなのありなん?

柏倉:別に、いいじゃん。正直、場所とかどうでもいい。環境さえ整っていれば、自分にとっては良かった。町の人にも「なんで和気に来たの?」とか聞かれるけど、「自分の成長機会として捉えている」といつも答えている。

そこでも、自分がなぜここに来たのか、という自分の信念を語ってる。超自己中心的なロジックだけど、自分自身はめちゃめちゃ必死に活動していて、その結果町にとって良い効果をもたらす事業が作れれば、「和気町に対する特別な思い入れ」がなくても、三方良しの関係になると思う。

でも、こっちで半年過ごしてみて、なんか、かあちゃんっていうか、親みたいな存在として町の人を感じているのも事実。「こっちで就職しろ」とか言われるけど、決断するのは自分。最初はなかった、人に対する愛着みたいなものが沸いているのは事実だけどね。

――ところで、実際普段なにしてるの?

柏倉:一言で言えば、人に会いまくってる。4月に相方の池田と企画した事業が岡山県の補助事業に採択された。その事業では、町内の多様な団体が協働し、まちの魅力づくりに取り組む。

そのメニューの一つに、まちなかにある銀行跡地をいろんな団体の人たちが協力して、多様な人々が集える拠点にするためにリノベーションするという事業があり、4月から8月までは主にその事業において、多様な団体を繋ぐコーディネーターとして働いていた。

必死で働く中で、死ぬかと思うこともあった。企画段階や、頭の中で考えているだけでは想定しえないことが起きたり、人と人とを上手く結ぶというコーディネートの仕事が大変だと認識した。

でも、いろんな人の助けのおかげで、最終的にはリノベーションのワークショップも成功し、人々が集える拠点を作ることができた。

それが完了してからは、高校において総合的な学習の時間を使った「閑谷學」の一つのテーマの授業を担当している。この授業では、高校生が高校を飛び出し、町に繰り出して、商店街のコミュニティデザインに携わるというもので、地域の祭に自分たちでお店を出すことを通じて、商店街のことを知ったり、ゼロから自分たちでお店を開くという経験をすることができるようなデザインになっている。

全部で23テーマある授業の中で、生徒からの満足度アンケートでこれまで全ての回でトップになるなど、上手く授業がまわせているのではないかと感じている。

ワークショップの様子

ワークショップの様子

――FoundingBaseに来てから、学んだことと、今感じている自分自身の課題と、これからの目標を教えてください。

柏倉:なんか、この言い方が合ってるかわからないけれど、人生を真剣に考えるようになった。人生の中の一瞬一瞬のできごとが、その後の人生に実は大きく関わっているということに気付いた。手を抜けば、手を抜いた分だけ、後で返ってくる。そう感じたから。というより、理想を追い求めるようになった。ぼんやり「やりたいな」とか「いいな」って思っていることは、思っているだけじゃだめで、やらないとできない。そのためには、そういった「やりたいな」「いいな」という理想を追い求めないといけないということに気付いた。

自分自身の課題としては、及第点の成果は出せているものの、自分自身で120%やりきったと感じられていないということ。もっとやれる、打ち込めると感じているところがある。

だから、これからの目標は、自分自身120%やりきったと感じられる状態で、プロセスにおいても、成果においても理想をひたすら追求し、その理想を現実にすることができるようになりたいと考えている。

和気で活動する柏倉さん

和気町で活動する柏倉さん(写真真ん中)

柏倉一斗(21)
北海道出身。高校在学中はサッカーに打ち込み全道大会ベスト16。国際基督教大学に入学し、経営学を学ぶ。大学を休学し、自ら成長するために2014年3月に岡山県和気町に赴任し、多様な団体による協働事業に取り組む。

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