働き方が多様化している今、フリーで働くことの「やりがい」と「辛さ」は何か。学生教育寮「チェルシーハウス」のキュレーターで、フリーキャリアアドバイザーの斉藤寛子さんに話を聞いた。(聞き手・Wandererライター=長尾 愛里)

フリーキャリアアドバイザーの斉藤寛子さん

フリーキャリアアドバイザーの斉藤寛子さん

■フリーは言い訳が通用しない世界

――なぜフリーキャリアコンサルタントを目指すことになったのですか。

斉藤:社会人になって一年くらい経ったときに、当時私の夢であった法務教官がかなり縦社会であることが気がかりでした。私の働いていた人材の会社は、割と自由な雰囲気と言われる組織でしたが、私自身はそれでも窮屈と感じたためです。そう考えると、法務教官という道は違うのでは、と思い始め模索し始めました。当時は大人の転職支援をすることが多かったのですが、大人の頭の固さや柔軟性のなさに出くわす度、勿体ないなあと思っていました。

そこを改善するには、もっと前の段階、もっと頭がやわらかい段階で、仕事に対してのスタンスを変えていかなきゃいけないのでは?と思いました。これが26歳ぐらいのときでした。会社の同じ部署にいても、仕事を楽しくできる人とできない人がいると知った時、仕事内容などで人生が変わるというものではなくて、「その人のスタンスで変わるのだ」と感じました。

逆に言うと、そういうスタンスが若いころに身に着けられれば、どんな仕事であっても、納得感を持って働くことができるようになるはず、と思い始めました。

そしてその後NPOに関わることになるのですが、私自身はキャリアアドバイザーという仕事もすごく好きだったので、Teach for japanに関しては、非常勤で関わりつつ、周りのフリーの方々と共に仕事をしながらなんとか自分でやっていけるのでは、と考え独立しました。

――フリーで働くことの魅力はどこでしょうか。

斉藤:会社の肩書があるのとないのとで、フレキシブルに動けるかどうかがかなり違うことを感じました。会社勤めの時は、結局会社の看板が背中にある状態のため、フリーの人と話をしていても、そのプロジェクト、ビジネスになりそうだね!みたいな話になったとしても加われないことがありました。

思い立ったらすぐに行動に移したりとか、プロジェクトベースで進めていったり、そういう仕事の仕方に魅力を感じていたのだと思います。自分次第で、代わりがおらずできませんという言い訳が通用しない世界の方が、私は責任もってやれると感じました。その方が、私が思い描いている夢や、実現したい世の中を実現しやすいのでは、と感じていました。

■単純に人とつながっているだけでは仕事は生まれて来ない

――フリーの世界は、どういう風にお仕事が発生するのでしょうか。

斉藤:人によりますが、普通に営業をしている人もいるし、私の場合一切営業はしていなくて、人づてで話が来たら、その都度引き受けてやっています。こういうことやってみたいよね、っていう話が飲み会から生まれたりもします。

(笑)自分自身がどういう仕事の仕方をしたいとか、実現したい世の中がどういうものかが明確であれば、それを口にするとどんどん広がっていく感覚です。自然な流れで仕事を貰うことが多いですね。

でもそれは、お互いやっていることとか、仕事へのスタンスをお互い信頼しあってなければ、仕事のやり取りは発生しないと思います。信用が全てで、仕事をいい加減にするような人にわざわざ仕事をあげよう、とは思わないので、この人だったら任せられそうだな、と言える関係性が仕事につながっていくような気がします。単純に人とつながっているだけでは仕事は生まれて来ないです。

――フリーで働く難しさはどういうところにありますか。

斉藤:「自分で全て決める」ことの大変さです。あとは、常に複数のプロジェクトが動いている感覚なので、仕事のバランスを取ることや、健康管理も大事です。有給もなく、ボーナスもないですし。会社で当然のようにあるものがないので、そういったことは全部自分でやらなければならないし、辛い時も仕事しなければならないこともあります。だから、極力体調は崩さないように心がけるようになりますし、そこが全ての基本だな、と思うことが増えました。

チェルシーハウスの外観。元々は社員寮だったところが、学生教育寮に生まれ変わった

チェルシーハウスの外観。元々は社員寮だったところが、学生教育寮に生まれ変わった

――斉藤さんがキュレーターとしても活躍しているチェルシーハウスのことについてお聞かせください。どのような目的を持ってチェルシーハウスは建てられたのでしょうか。

斉藤:チェルシーハウスは、2014年3月、東京・国分寺にオープンした学生教育寮です。コンセプトは、「学生時代にやりたいことを徹底的に」。社会人の方によるトークイベントなどを定期的に開催しており、ただ居住するだけではなく、学生の成長につながる場所となっています。

元々、学生だけではなくて、世の中全体に対しての違和感がありました。人の様子を見て物事を判断するという「空気読みすぎ」な部分があると。これだけ世の中が揺れ動いているときに、自分の生きている領域だけしか関心が及ばず、それ以外の世界は知らない人たちが増えていることもすごく危惧していました。自分自身を分かること、社会や世界を広く知ること、この両輪が培えるような場所になったらいいな、ということはチェルシーハウスを作るときにすごく考えたことです。

いろんな視点が見えているからこそ、流されずに自分の考えを持ち、総合的に考えられると思います。その力があれば、たとえ、その環境で大多数の人たちが反対していたとしても、自分はこう思うと自信を持って進めます。

自分が何やりたいかもそうだし、世の中がどっちに行ったら正解なのか、自分の属している組織がそういう方向に向かうべきなのか、ということにも、何も戦略がたてられなくなってしまう世の中は恐ろしいなと思います。

私自身も、大学生時代に見えていた世界がいかに狭かったかは、社会に出てから分かりました。世界の広さを早く知れば知るほど色々動き方はありますし、時間がある学生時代にそういうことが知れたらもっと可動域が広がると思うようになりました。

――学生シェアハウスという、「環境」を学生に与えた視点はどこから来たのですか。

斉藤:人が動く原動力みたいなものは、環境から生まれるものだと私自身の経験ベースで感じています。環境が変われば同じ人間でも変化していきます。そういうことを経験しているので、結局、環境を整えてあげて、その環境から人が自然に育っていくという場にデザインしたかったですね。無理やりやらせても人間って続かないなあということは、色んな人を見ていて感じることが多いです。自然に、人から言われなくても体が動くところは、人それぞれ違うと思います。

だから、ちゃんと「ハマった」時に人は伸びます。チェルシーハウスは、そういうところを伸ばせるような環境でありたい、っていうのが理想としてありますね。環境を与えれば、魚が水の中で勢いよく泳ぐのと一緒で、いろんな人たちがいても、自分が生き生きできる様な領域を見つけられるようなチェルシーハウスでいたいと考えています。

チェルシーハウスでは、月に1回ほど社会人の話を直接聞けるイベントを開催。寮生以外も聞くことができる

チェルシーハウスでは、月に1回ほど社会人の話を直接聞けるイベントを開催。寮生以外も聞くことができる

■自分が「こういう枠だ」とか、「限界」というようなものは、自分の捉え方次第で壊せる

――チェルシーハウスの魅力はどこですか。

斉藤:寮生同士の大学や学部が全然違ったりすると、同じ日本人なはずなのに、「あれ?」となることが日常的にあります。そこに向き合えることが、彼らがチェルシーハウスに関して魅力を感じるところだと思います。もう一段階上に行くと、そういう人たちといかにコミュニケーションを取っていき、いかにコミュニティをまとめていくかという段階になりますが、そういう可変性があるのもチェルシーハウスのいいところです。

それに加えて、チェルシーハウスで特徴的なことは、ルールがないことです。ルールっていうもの自体も、全く違う環境に行ったらそのルールはナンセンス、必要ないよね、となる可能性もあります。だからこそ、自分たちが構成している人たちと一緒になって、ルール自体から積み上げていくという経験は非常に貴重だと思います。

あとは、将来的に、チェルシーを出たあとも関係性が続くというのは、社会に出てから絶対に役立つと思っています。この分野だったらあの子がいたな、と思える人たちが他分野にどれだけいるかということは、今後の世の中ですごく大事になってきていますよね。

――最後になります。学生への一言をお願いいたします!

斉藤:最近「越境」についてよく考えています。壁はあるようでないことを伝えたいかな。突破できるスタンスがあれば、どの方向にも歩いて行けるはずだと思っています。自分が「こういう枠だ」とか、「限界」というものは、自分の捉え方次第で壊せるものだよ、というのは伝えておきたいです。可能性は無限大ということ。

色んな人たちが色んなこと言うし、「あんたには無理」とか、それこそわたしも散々言われてきましたが、それで進めないような気がしたり、自分も無理かな、と感じたりすることも多々あるとは思います。不可能な理由を考える暇があったら、可能になる理由を考える。可能になる方法を考えるところに時間を割きながら、大学時代を過ごして貰えれば、きっと道は拓けてくるはずです。

斉藤寛子(さいとう・ひろこ):
慶應義塾大学で心理学を学ぶ。卒業後、新卒で人材会社に勤務。その後、NPO法人Teach for Japanで非常勤として働きながら、フリーキャリアコンサルタントとして活躍。今は、NPO法人NEW VERYが運営する学生寮「チェルシーハウス」のキュレーターも務めている。

◆この記事は「wanderer」から一部編集し、転載いたしました

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