グローバルなビジネスを展開したいと考える事業者に、外国人留学生のアイデアを提供する企業がある。その企業を立ち上げたのは、ゴールドマンサックス出身の松本麻美さん。松本さんは、「日本が本当に好きな外国人こそ、日本を変えていける要となる」と話す。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

外国人留学生と日本企業をつなげるアクティブ・コネクターの松本社長

外国人留学生と日本企業をつなげるアクティブ・コネクターの松本社長

その企業は、アクティブ・コネクター(東京・文京)。同社は2013年5月に立ち上がったベンチャーだ。行っている事業は2つある。一つは外国人留学生と企業のマッチングで、もう一つは、外国人留学生と企業担当者でワークショップを行う「グローバルオープンイノベーションセッション」だ。

クライアントから、求める人材やポジション、さらにはインバウンド向けの商品情報を細かくヒアリングする。その企業に合わせて、外国人留学生を紹介したり、ワークショップやグループインタビューを開いている。ワークショップでは、商品開発のためのアイデアを話し合うが、その結果、企業担当者から引き抜きにあった留学生もいるという。

同社の強みの一つに、外国人留学生とのネットワークがある。現在、同社とつながっている外国人留学生の数は2300人を超える。毎日3~4人は面接に訪れるという。外務省は世界の国の数を196カ国と定めているが、2300人の国籍を合わせると、「ほぼ世界中の人がいることになる」と松本さん。

この豊富なネットワークを自社のインバウンドに生かそうと、クライアントは集まってくる。2015年11月には、草加市にある草加せんべいの庭で、「G×L研」という活動の一環で、ワークショップが開かれた。当日は、インドネシア、マレーシア、チリ、中国などから10人弱の外国人留学生が集まり、煎餅のインドバウンド化について話し合った。このワークショップから生まれたアイデアで、実際に商品化に向けて準備を進めている。

草加せんべいの庭で行われたワークショップ。参加した留学生がそれぞれ煎餅に合うスパイスを持ち寄った

草加せんべいの庭で行われた「G×L研」のワークショップ。参加した留学生がそれぞれ煎餅に合うスパイスを持ち寄った

このほかにも、クライアントには大手不動産や大手広告代理店があり、それぞれ自社サービスについて外国人留学生の意見を取り入れている。

参加する外国人留学生にもワークショップという形で働く機会を与え、彼/彼女らにも気付きが生まれている。松本さんは、「これまで自分たちの意見を日本の企業担当者に言う機会は少なかった。実際に対面して担当者にアイデアを提案できるので、やりがいを感じて、感謝の言葉をよくもらう」と話す。

■「大手コンサルよりも外国人留学生」

松本さんがこの会社を立ち上げたきっかけは、外国人留学生が日本で就職先に苦戦している状況に課題を感じたことから。日本にいる外国人留学生の数は18万人で、2020年までには30万人まで目指す計画も政府から出ているが、卒業後の進路は課題だ。

厚生労働省は「大学における留学生の就職支援の取り組みに関する調査」を行った。その結果、外国人留学生のうち、卒業後、日本で就職を希望しているのは5割に及ぶが、実際に日本で就職できた割合は2割程度だった。

日本企業の人事制度は、新卒一括採用や年功序列型に代表されるように、保守的である。日本語能力が十分ではない外国人留学生を採用することはコストととらえがちだ。しかし、松本さんはそれを「商機」と見た。「日本が好きな外国人こそ、日本を変えていく要の人材になる」と断言する。

松本さんがこう考えるのにはある原体験がある。松本さんは東京大学大学院教育学研究科を卒業後、ゴールドマンサックスに入社した。その後、東日本大震災を契機に、NGOに転職する。その団体では日本の防災教育を海外に普及する活動を行っており、松本さんはパキスタンに駐在することになる。

パキスタンでNGO職員としての活動を終え、その後、JICA職員となった。松本さんはパキスタンでの経験もあったことから、日本政府のODAによるパキスタンへの鉄道建設計画を担当した。松本さんの役割は、日本政府とパキスタン側のコーディネートだ。

東京大学がある本郷三丁目駅からすぐの場所にオフィスを構える

東京大学がある本郷三丁目駅からすぐの場所にオフィスを構える

しかし、実はこの計画は10年弱の間、一向に進んでいなかった。その背景には、日本側とパキスタン側の意思疎通の問題がある。

日本側の企画チームには、パキスタン人が一人も入っていなかった。松本さんは、「パキスタン人が最も使うのに、なぜ現場の人が企画者にいないのか」と違和感を感じた。

同国では、テロにより1日に8時間停電になる日も少なくなく、日本の1分1秒遅れない正確で高品質な技術は合わないのではないかと感じていたという。こうした経験から、「新しいサービスやコンテンツをつくっていく上で、開発メンバーの多様性は必須条件」と考えるようになった。

同社のビジョンは「すべての人が国境や文化を越えて、生き生きと働ける社会をつくる」。日本の文化が好きな外国人留学生は働き先を見つけることに苦戦していて、一方、日本企業は市場拡大のため外国への進出を狙っている。その両者をつなげる「アクティブ・コネクター」になりたく、社名を決めた。

松本さんは日本にいる外国人留学生を「冒険家」と表現する。「日本は島国であり欧米からは遠く離れている。わざわざ日本を選んでこの国で働こうと決めた学生はベンチャースピリットに溢れている」とする。

海外進出への悩みを抱える企業にとっては、日本を知らないコンサルタントよりも、日本の文化に親しみを持つ外国人留学生が頼もしい相棒になるのではないだろうか。

アクティブ・コネクター

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