子ども服作りを通して、児童労働の根絶に取り組む社会起業家がいる。アジア最貧国バングラデシュに工場を持ち、貧困家庭の親を積極的に雇用する。事業性と同時に、社会的課題の解決も追い求めるソーシャル・ビジネスの担い手に追った。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

お揃いに特化したブランド「コルヴァ」の常設店舗

お揃いに特化したブランド「コルヴァ」の常設店舗

その社会起業家は、ボーダレス・ジャパンCorva(コルヴァ)事業部長の中村将人さん(29)。中村さんは2013年12月、アパレルブランド「Corva(コルヴァ)」を立ち上げた。同社は、バングラデシュに自社工場を持ち、同国の貧困家庭の親を中心に200人以上雇用している。

同国はアジア最貧国の一つとされ、首都ダッカに住むスラム人口(貧困家庭)は500万人以上とされる。スラムに住む家庭の収入は、1日に100タカ(150円)ほどで、毎月家賃として平均1,200タカほどは支払わなくてはいけない。そのため、住居はトイレ・風呂なしで、非常に小さなもの。友人と複数人で共同生活をして、なんとか家賃を払いながら耐え凌いでいる家も少なくない。

貧困家庭では、親の稼ぎだけでは十分な暮らしができず、子どもは学校に通うことができない。そのため、働かなくてはいけない子どもたちは、児童労働をせざるをえない。学校に通わないで、低賃金で働かされる子どもたちは、読み書きすらできないまま大人になる。結果、就ける職は限られ、貧困の連鎖が続くのだ。

中村さんは、この問題を根絶するために、親の収入を増やすことに取り組んでいる。自社工場で積極的に雇用し、技術を教育し、縫製作業を行ってもらうのだ。現状では、コルヴァの全商品が同国で作られているわけではないが、中村さんは今後すべての商品をバングラデシュで生産していく考えだ。

バングラデシュの自社工場で縫製作業、貧困層を積極的に雇用している

バングラデシュの自社工場で縫製作業、貧困層を積極的に雇用している

■「お揃い」で差別化

コルヴァは生産面で社会性の高いブランドだが、それだけでは、日本の消費者を納得させることは難しい。東日本大震災で、社会貢献意識が高まったとされているが、消費の傾向はいまだ、諸外国と比べ劣る。日本のフェアトレード市場規模(フェアトレード・ラベル・ジャパン調べ、2012年)は72.8億円と、英国の2,500億円、ドイツの700億円などに比べてまだまだ小さい。

年間一人当たりのフェアトレード製品購入額も、国別でスイス(1位)3,992円、アイルランド(2位)3,906円に対して、日本はわずか57円だ。

「いくら社会性のあることをやっていても、顧客はそれだけではモノを買わない。大きなインパクトを求め、より多くの顧客にアプローチするには、尚のこと」(中村さん)

つまり、どんなに良いことをやっていても、「顧客が求めているモノが何かを洞察」できなければ、モノは売れず、本来の目的である「社会的課題の解決」は、進まないのだ。

中村さんはコルヴァのコンセプトとして、「おそろい」に目をつけた。コルヴァでは、これまでなかった男の子と女の子でのおそろいに加え、ベビーとキッズ(80センチ~140センチ)、親子でもおそろいで着られる服をそろえている。上品なデザインで、「家族の週末を楽しくすること」を目指したブランドだ。

コルヴァは、お揃いで着れる、上品な服をそろえた

コルヴァは、お揃いで着れる、上品な服をそろえた

お揃いに特化したブランドは希少で、競合が存在しない。そのため、価格競争に巻き込まれない。

商品価格は2,000~3,000円とお手頃な価格。途上国からのフェアトレード商品にしてこの価格帯を実現できているのは、製造から販売まで自社で、一気通貫で行っているため。

現在は、EC販売のほかに、福岡のアウトレットモールに常設店を構えており、今年中に東京・国分寺と千葉にも支店を広げる予定だ。

■「スキル」より「姿勢」

中村さんが勤めるボーダレス・ジャパンのコンセプトは、「社会起業家のプラットホームカンパニー」。その言葉通り、社員がそれぞれの社会的課題を解決するべく事業を立ち上げている。貧困農家を支援するオーガニックハーブティ、人種差別撤廃を目指す多国籍シェアハウス、BOPペナルティを解消する物流インフラなど9つの事業が行われている。

同社には、入社間もない若手社員であっても、ビジネスプランが認められれば数千万円を投資する制度がある。中村さんは同社に2010年4月に入社。記念すべき内定者第一号であり、この制度の使用者第一号でもある。

学生のとき、シアトルに留学し、そこでは多くの同世代が当たり前のように起業していた。彼らに触発されて帰国した中村さんは、自身も起業したいと考えた。しかし、単純に利益だけを求めるのではなく、社会的課題を解決するソーシャル・インパクトも事業で出したいと思っていた。

シアトル留学時の中村さん(左から2番目)、続々と起業する同世代に刺激を受けた

シアトル留学時の中村さん(左から2番目)、続々と起業する同世代に刺激を受けた

その話を友人にしたときに紹介されたのが、ボーダレス・ジャパン。今では従業員数は世界全体で350人を越えるが、その当時の従業員数はたった8人。事業も、1つだけだった。しかし、面接で出会った田口一成社長の、「将来は、複数の事業を展開し、社会を変えていく会社になる」という強い意気込みを感じた中村さんは、ここで数年修行し、独立して起業しようと考え、入社した。

2年目後半で初めて新規事業を立ち上げた。今年で6年目を迎えるが、何よりも学んだものは、ビジネススキルではなく、事業に向き合う「姿勢」だという。中村さんは、同社の田口社長やその他スタッフのプレゼンやメール文章から事業のつくり方や進め方まで、ありとあらゆることを真似て研究したという。

先輩社員に共通していたものは、「まずは自分でやってみる」という姿勢だった。たとえば、オーガニックハーブティの事業を立ち上げる際には、スタッフは皆、ハーブについて徹底的に学び、自らプロフェッショナルな知識とノウハウを手に入れた。スピード感も重視しており、事業を模索し始めてから4カ月後には、新商品の販売がスタートしていた。

中村さんが入社して2年目のボーダレス・ジャパンの集合写真

中村さんが入社して2年目のボーダレス・ジャパンの集合写真

中村さんも、今回のアパレル事業の立ち上げるにあたり、縫製教室に通い、最初の商品は自ら何度もサンプルを作り、型を作った。ウェブショップを立上げ、一つひとつの施策を自らの手でやり切ってきた。

今では20人近くのデザイナーやパタンナー、事業開発スタッフを抱える事業部となり、彼らが商品開発や店舗開発を行っているが、立ち上げ当時から今でも変わらない「姿勢」で、事業に向き合っている。

「事業はやってみて修正してまたやってみて、の繰り返し。このスピードと精度を高めて最速で伸ばしていかなければならない。バングラデシュそして世界中に、今日も児童労働で苦しんでいる子どもたちはたくさんいる」。

当初は独立して起業する予定であったが、今はその考えはない。1日も速くコルヴァの生産量を増やし、児童労働を根絶するために、日夜奔走している。

◆Corva ~バングラデシュから児童労働をなくす子ども服~
http://www.borderless-japan.com/social-business/corva/

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