川の上・百俵館は、2015年グッドデザイン賞を受賞した「石巻・川の上プロジェクト」の一環として作られた。石巻市川の上地区には約400世帯が住むが、あと2年後の2017年には、沿岸部から約400世帯が防災集団移転してくる。同地では、それらの人々を交流させる地域コミュニティの拠点が求められていた。

この建物は、農業倉庫を改装したもの。2階立てで、1階にはみんなでお茶が飲めるように木の長テーブルが置かれている。特徴は、新たに入ってくる住民と、住んでいた住民をつなげ合わせる仕掛けとして「本」と「カフェ」、「滑車」がある点だ。

住民にとっては図書館カフェとしても利用できるので、一人でも気軽に訪れることができる。また、滑車は農業倉庫として使われていたときからあったものを残した。滑車があることで、この建物が昔は農業倉庫だったということを新旧の住民に伝え続ける。

川の上・百俵館

川の上・百俵館

この建物を設計したのは、木造建築家・鳥羽真さん(36)。鳥羽さんは、苦節10年の苦労人だ。この建物がグッドデザイン賞を受賞したことで、「やっと建築家として一歩踏み出せた」と話す。

鳥羽さんが木造建築を本格的に学んだのは28歳のとき。愛知学院大学を卒業後、金属部品ベンダー勤務を経て28歳で、岐阜県立森林文化アカデミー木造建築スタジオに入学した。鳥羽さんの母親が着物デザイナーだったことで、子どもの頃からデザインに興味はあったという。

岐阜県立森林文化アカデミーには2年通ったが、山の中にあるため、森林の健康状態を肌で感じ取るようになる。開発が進むたびに、山は荒廃していくし、人工林は人が間引かないと大雨で土砂くずれを起こしてしまう。

古来から日本人は木を守り続けてきた。鳥羽さんも建築の知識を、木を守るために使いたいという思いが強くなり、岐阜県立森林文化アカデミーを卒業後、さらなる学習を積むため、京都大学院生存圏研究所に行き、木質構造機能分野の世界に没頭した。

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