はじめまして、城宝薫です。私は現在、立教大学経済学部に通う大学4年生です。そしてテーブルクロスを起業して経営者もしています。テーブルクロスは「利益の創造と社会への貢献を同時に実現する文化を創りたい」との思いで立ち上げ、飲食店予約アプリサービスを展開しています。
これは従来のサービスが固定化した高コストの広告モデルであったのに対し、一人の予約に対してのみ広告費用が発生する「成果報酬型」をはじめて導入したものです。そして、1人が予約をすると1名分の途上国の子どもの学校給食が支援されます。こうした利益と社会貢献の両立を目指す活動はCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)と呼ばれています。
私の起業は日が浅く、こうした事業への想いはあっても、まだまだ手探り状態です。そしてCSVはこの日本ではまだあまり知られていません。そこで、既にCSVに取組んでいる企業の皆さまにインタビューをさせて頂き、企業のお考えや取組みを紹介することでこの活動を日本に広めたいと思っています。連載は私が大学生である2016年3月まで行う予定です。
今回は初回として、ロート製薬さんへのインタビューをご紹介します。ご対応下さった広報・CSV推進部 部長の河崎保徳さんのお話しはとても学ぶ点が多く、たくさんの人に知って欲しいことばかりでした。ぜひお読みいただければ幸いです。
■企業には天命がある
城宝「本日はお忙しいなか、お時間をつくってくださり、ありがとうございます。ロート製薬さんはCSVに取組んでいらっしゃいますが、どうしてこのような取り組みをはじめられるようになったのですか?キッカケなどがあれば教えて下さい」
河崎「製薬会社は、お客様が病気のときに売上が上がる会社かもしれません。しかし、本当は人々が病気にならない社会をつくりたいというのが本音です。同時に何を大事にするべきかを考えたとき、お客さんを喜ばせることが最も大事なのだということに社員は行きつくはずです。大阪を拠点に成長してきたロート製薬は目薬を取り扱う会社でしたが、目薬を開発する我々の会社には沢山の技術とノウハウがあり、見方をひとつ変えるだけで人々が困っている課題を解決することができるリソースが詰まった組織だと思います。そうしたことからCSVに取組むのは自然なことでした」
城宝「河崎さんのこの言葉を聞き、改めて人間の幸せの本質を考えさせられます。家族のために仕事をする人も多いかもしれないですが、自分がする仕事を通して誰かの笑顔を見たくて。さらにどのような生き甲斐を追い求めるのかということは、働く人にとって本能的なことだと思います」
河崎「人には天命がきっとあって、私たちは天命を探す旅に出ていて、それを人生と言いますよね。個人には誰しも天命があると思うのですが、個人の集合体でもある企業にも天命があると個人的には思います。だからこそ、企業がもつリソースのなかで何ができるかということを考えることが我々に求められています」
-Joho’s eye-
誰のために、何をするか、どうやって人のためにするか、ということを明確にすると、自然と会社で取り組むべき活動が見えてくる事例があります。ロート製薬では世界のエマージング地域にも社員を派遣していますが、彼らが現地に入ると、日本とは違う事実に遭遇します。たとえば、アフリカのある国では、10歳までの生存率が日本に比べて少ないという事実に出くわします。
理由はマラリアや破傷風を発症させてしまうから。日本にいるとこの病気自体が遠い存在ですが、アフリカではそうではないことを私も初めて知りました。そこで、マラリアや破傷風を治すと同時に、10歳までに死んでしまう子どもたちを救うためにはどうすればよいか。ロート製薬が持つ資源のなかで何か活用出来るものがないかと考えたとき、傷には早期に消毒液があればこどもたちを救うことができる可能性が高まるという考えに行きついたそうです。
さらに、ロート製薬の技術で消毒液の生産は実現可能だということがわかった時に、アフリカへビジネス拡大をする意義に、10歳までの子どもの命を守ろうという目標を持つことができたそうです。このことは働く社員にとても誇りになる。つまり海外進出は、単に売上や利益を稼ぎに行くのではなく、その国の大きな課題で自らが解決できることへのチャレンジを一緒に志すべきだとの考えです。利益搾取の海外進出ではなく、人々の為になる海外進出でありたいと考えているとのことでした。
■東日本大震災の支援活動から考えさせられたこと
河崎「私自身、東日本大震災のときに、被災地に行って“誰かのために何かやらなあかん”という意識が強くなりました。これまではあまり社会貢献に関わりがなかったのにです。そして自分が人生をかけて仕事をしている以上、何ができるかを真剣に考え、同時にこの時間を誰かのためになっているのであればとても幸せなことだと考えました」
城宝「私も幸せの価値観を考えたときにお金ではないと感じることが多いです。自分のために頑張るのではなく誰かのために頑張ることでパワーを発揮することができます。これは私が会社を経営する上でも同じで、こどもたちの笑顔が見えないとなかなか前に進む力が強くない傾向があります」
河崎「企業の売上や利益は、家族を養うため、新しい商品の開発をするためなどの潤滑油の役割です。高度成長期は、真面目にコツコツと働いて、お金が自分を豊かにしてくれるという考え方が大きかったと思います。お金はひとつの幸せの価値観でした。しかし、現代社会では価値観が変わってきているように思うのです」
城宝「確かに、私の周りでもそうした価値観を持っている人が多いと感じます。特にいまの学生はお金だけではなく、社会へ貢献したいという意識が高いです。そうしたなかで、多様な価値観が生まれていると思います」
河崎「そうしたなか、被災地で支援活動をしていました。私たちの本社は大阪にありますが、1995年に発生した阪神淡路大震災は間近で災害が起こり、支援を行っていました。しかし、支援ができなかったと感じている分野がありました。それが不幸にも親を失った子どもへの支援です」
城宝「それが“みちのく未来基金”への設立に繋がるのですね」
河崎「そうです。みちのく未来基金はロート製薬、カルビー、カゴメの3社によって立ち上げました。3社ともこれまでにお付き合いのあった会社ですが、被災地の子どもの状況を話したら賛同してくださったのです」
城宝「3つの企業が一緒になって活動するのは震災支援ではとても珍しいですね」
河崎「被災地の子どもの支援は20歳までとか年齢で区切るものは存在していました。しかし、現在は高校を卒業すると大学や専門学校などへ進学するのが一般的で、学費は大きな負担となります。でも、こうした学費を卒業まで支援する機関は見当たりませんでした。そこで立ち上げたのです」
-Joho’s eye-
「みちのく未来基金」は、親御さんを震災で失った遺児たちがその夢や希望を諦めずに成長し、故郷の復興のために役立ってほしいとの願いを込めた進学支援のための奨学基金です。震災が起こった2011年の10月に非営利団体として設立されました。
河崎さんは被災地に3年間おり、会社からは震災から2年経った時点で戻るように言われたそうですが、「みちのく未来基金」の立ち上げの最中だったことから、残りたいと意思表明したそうです。しかし、この基金の立ち上げを行っていた際も、「残りたい」という気持ちに理由はなく、人間が持ち得るDNAだと話していました。体が求めていて、心が求めている。”行動を起こす”ということが全てを示していて、この流れは時代の変化の先駆けだとも思います。そして本社へ復帰するタイミングで広報部のなかにCSV推進部を作ったそうです。
■持続可能な会社を創るために必要なこと
河崎「会社の資源を使って社会課題を解決するにあたり、企業で取り組む以上は継続できないと意味がないと思います。さらに、技術が人の役に立つということを知り、人から感謝されたことで、会社にいる生き甲斐を感じることができます」
城宝「社会課題の解決のための行動は誰かのためになるのはもちろんのこと、継続できないと意味がないという点にはたいへん共感します。」
河崎「会社の取り組みとしてCSR活動を行っていた時、その活動は支援する側とされる側とで見えない上下関係が存在していたように思います。そして、その活動は利益があったからできたことです。しかし、企業の業績が悪化したり、赤字のときには、支援が縮小もしくは停止してしまいます。社員にボーナスを出すことができない状況下でどこかへ寄付をする行為は、株主にも理解されません。そうした状況では、CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)を取り入れることはごく自然なことです。単なる寄付行為の社会貢献ではなく、会社の資源を用いて社会課題を解決し、さらに継続できる仕組みを用いることで、持続可能な会社を創る。これはひとつの文化のように思います」
城宝「私も誰かの助けになりたい、誰かのためになる仕事をしたいという気持ちは大きい一方で、実際に動きだすと継続するためにはどうしたらいいのかという問題にあたります。そこでビジネスという視点を入れることで、継続的且つ、企業が持ち得るリソースを使って解決することができるのはハッピーな仕組みだと思います」
-Joho’s eye-
会社を通じて人を喜ばせたいと思ったとき、そして継続的な仕組みにして、持続可能な会社にしようと思ったとき、多くの人にクリエイトした価値を共有して、お客様に認められる企業創りをすることは大事な要素のように思いました。
*<後編>「価値をシェアするために広報部の中にCSV事業部をつくる」はこちら。
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