ネパールの「教育」を変える学校が建てられようとしている。同国史上初のカーストフリーな学校で、生徒が別の学校に出向き学びをシェアする。同国には、学校はあるが、先生が無断で長期休暇を取ることは珍しくなく、子どもたちはまともに教育を受けられないでいる。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

ネパールの教育を変えようと奮闘するライさん

ネパールの教育を変えようと奮闘するライさん

この取り組みを行っているのは、シャラド・ライさん(28)。ライさんは、2007年に日本に留学しに来た。東京大学大学院を卒業後、大手通信事業会社で働いている。ライさんは学校建設を通して、これまで同国が抱えていた教育への価値観を変えることを目指している。

ライさんが企画している学校の名称は、「YouMe(ユメ) school」。特徴は、IT教育に力を入れた点だ。東京大学から、科学教育のための実験・観察器具の提供を受けており、最新鋭の機器をそろえる。最も人間に近いロボット「Pepper」も置くことを検討している。

だが、ITに特化した学校は、すでに同国にもある。ライさんたちの取り組みがそれらと異なるのは、「リンク」「シェア」「フラット」をテーマに持っているからだ。学校と地域をつなげ合わせるために、子どもたちが学んだ技術を地域社会に還元する。ライさんは、「携帯電話が故障したときに、電機屋さんに行けば1000円で直してくれるが、この学校に来れば無料で修理してくれる」と言う。

また、他地域の学校へ学びのシェアを行う。週に1回は地域の学校へ、子どもたちが出張して、教わったことをシェアする。そして、カーストフリーな学校にする。カーストの位に関係なく入学できるようにした。日本のように、全員で掃除をする時間を設ける。同国では、カースト制度で下位にいる子どもは毎日掃除をさせられて、上位にいる子どもは掃除をしたことがない。ライさんは、ITエキスパートを輩出するのではなく、同国の教育を変える学校にすると意気込む。

■英紙「近代の奴隷」と表現

同国には、私立と公立の学校があり、しっかりとした教育を受けられるのは、「私立に通う子どもたちだけ」とライさんは断言する。しかし、私立学校は全体の2割ほどしかなく、かつ、学校が建つ場所は富裕層が住む地域で、学費も高い。私立学校に通える子どもたちは限られている。一方、残り8割は公立学校に通うが、教員の仕事に対する意識は低い。

公立学校に通う子どもたちの多くが中退して、出稼ぎ労働者となる

公立学校に通う子どもたちの多くが中退して、出稼ぎ労働者となる

ライさんいわく、「先生が学校に遅刻したり、お酒を飲んでくることは珍しくない。突然1年間も学校に来ないこともある」。こうしたことが起きる背景に、教員を管理する組織のマネジメントの怠惰があるという。教員が学校に来ないことで、約8割の子どもたちが中退し、幼くして中東やマレーシアに出稼ぎに出かけるようになる。

問題なのは、この現状を同国の子どもや親が問題視していないところにあるという。ライさんは、「学校を辞めて、出稼ぎに行くことが当たり前と認識している傾向がある」と指摘する。現在は、日に1700人が出稼ぎに出ており、彼/彼女らは読み書き以外の知識がないため、低賃金で劣悪な環境の仕事に就く。この現状を英・ガーディアンは「近代の奴隷」と評した。

■「社会への恩返し」

ライさんの学校で働く教員をマネジメントするのは、NPO法人YouMe Nepal Trust。同国の首都カトマンズにあり、その組織のスタッフが教員の勤務状況をITで日々チェックするという。現在は、学校の建設費500万円をクラウドファンディングサイトで集めている。

ライさんはネパールの田舎で生まれ、私立学校には通えなかったが、父親が代わりに勉強を教えてくれたという。家で勉強ができたことで、国際レベルの学校に入学でき、国から学費・食費・制服を無償で支給されるなど恵まれた環境で教育を受けた。日本にはもともと関心があり、留学することもできた。

このように育ってきたことで、ライさんは「国にお世話になった。だから、社会に恩返しをしたい」と力を込める。2020年までに6校つくることが目標だ。「教育の大切さを理解しているから、学校を建てている。友人は出稼ぎをしながら生活している。友人たちのためには、何もできないが、友人たちの子どものためには動くことができる」。

・ライさんのプロジェクトはこちら

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