アーティストやクリエイター志望の若者たちを応援するために、1年間、家賃無料で団地に住める取り組みが大阪府堺市で始まった。若者の夢の実現と、高齢化が進む団地の再生を同時に目指す。(オルタナS関西支局特派員=小倉 千明)
この取り組みの名称は、UR都市機構の「URワカモノ応援プロジェクト」。全国初の仕組みで、大阪府堺市の白鷺団地で展開している。
■高齢化する団地にワカモノのパワーを引き込む
同プロジェクトでは、高齢化が進む白鷺団地の一室に、若者が住みながらクリエイターへの夢を追う。住み手として募集するのは、画家、ミュー ジシャン、お笑い芸人など、20代のクリエイターの卵たち。リノベーション(改修)された1LDKの部屋で一年間生活をしながら、さまざまな創作活動を行う。
一年間無料で住める代わりに、入居した若者は、SNSやブログを通じて、自分たちの活動状況を毎週発信する。また、2カ月に1回、団地内の集会所で個展やライブイベントを実施。これによって、団地に住む他の住人とのコミュニケーションが広がるとみている。
プロジェクトが立ち上がった背景には、団地の高齢化という社会問題が横たわっている。UR都市機構の調査によると、団地に住む人の平均年齢は56.8歳。プロジェクトがスタートする白鷺団地は、平均年齢が62歳に達している。
「高齢化が進みつつある団地に若者に住んでもらうことで、多様な世代がつながりながら暮らせる、『ミクストコミュニティ』を形成したい」と、森廣敏正・UR都市機構西日本大阪エリア経営部長は言う。高齢者と若者が交流するための仕掛け作りは特に考えていない が、「同じ団地に住むことで、自然とふれあいが生まれるのでは」と期待する。
■団地だからこそ生まれる、ゆるやかなつながり
2月25日には、このプロジェクトの記者発表会が行われ、「夢を描きながら住まうことの社会学」をテーマに、2人のゲストがトークセッションを繰り広げた。元meetsの編集者であり、著述家の江弘毅さんは、「少し前までは、核家族が日本の消費やライフスタイルをリードしていたが、もうそんな時代ではなくなってきている。高級車を買うのが豊かではなく、他人同士がゆるやかにつながって生きることに豊かさを感じる若者が増えている」とコメント。
自らも団地暮らしをしている不動産プランナーの岸本千佳さんは、「部屋から一歩外に出ると、90歳のおじいちゃんにつかまって立ち話をするといったことが、団地では日常的に起きる。年齢を超えた交流が生まれやすいのが、団地の魅力」と話した。
UR都市機構は、大阪の中心部に出やすく、駅にも近い白鷺団地から同プロジェクトを開始することで、どのような活動や交流が生まれるかを検証していく。成功すれば、他の団地でもプロジェクトを展開し、団地の衰退を食い止める打開策にしたいと考えている。
プロジェクトへの応募は、2月25日からウェブサイトで受け付けている。対象は20〜29歳の若者で、選考によって選ばれた4組に一年間無料で住んでもらう。<PR>
・プロジェクトの特設ページはこちら