タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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◆三協商事

3月11日
今日は大地震があった。家まで歩いて帰った。
東北は津波の大災害で、福島は原発に大問題が起きているらしい。

昨日の酒が少し残っているようだが気分はまあまあだ。
乗車がひと電車遅れたので、地下鉄大手町から走った。既に就職活動の学生たちはそこかしこにうごめいていた。エレベータの中にも黒いスーツの大学生のような男女が載っていた。10階で降りると、先に歩いていた人事部長のJack Rodwellを追い越しながら“Good morning Sir”Rodwellの声が背中の方から聞こえた。“Hi Keisuke How are you?”“Quite well Thank you”。席に着くと隣の長谷川由美子が「お酒臭い。昨日どこで飲んだのよ」
「いいだろどこでも、すぐ近所だよ」

去年の暮、残業を手伝ってもらったからお礼に八重洲で飲んで、酔っ払っちゃって二人でステーションホテルに泊まったのがまずかったと後悔した。あれから俺を支配したがるし、とにかくいちいち文句を言ったり直ぐに怒る。女ってやつは肉体関係が出来る何故と文句ばかり言うようになるのだろうか?会社に入って覚えたのはこの事くらいかな?と啓介は自嘲した。たしかに美人だけど気が強い、こんな関係になる前は明るくて控えめの女と思っていたが、全くやっかいなことになったと思っていると、「ミーティングだぞ」と平井に言われた。アメリカの会社の会議は金曜日が多い。やはりリクルート人事が議題だった。Rodwellがrecruiterと言って啓介を見た。そうだ俺はリクルーターだったのだ。

母校の学生が来週5人訪ねてくるらしい。そいつらの面倒をみるリクルーターだった。しかし訪ねてくる奴らをリクルーティーと言うのかなとか、くだらないことを考えているうちにミーティングは12時に終わった。12時半に馬喰町の三協商事と約束がある。コンビニで中華まんを三つ買って歩きながら食べた。海上保険の保険金請求の件だ。中国からの積み荷(ゴールデンウィーク用のブラウス)がカビだらけだったそうだ。12時半ぴったりに倉庫に入るともうカビの臭いがしてきた。

段ボールに黒いスタンプで(厦門SANKYO)と書いてあった。「もうかなわんよ。縫製は雑だし、中国船の荷扱いは酷いし」出迎えた50代の男が嘆いた。三協商事の社長岩田だ。アパレル会社の経営者らしく茶っぽいツイードのジャケットと同じような色のフラノのズボンを着こなしている。。啓介が段ボール箱の一つを開けると。確かに何枚かのブラウスに青いカビが生えている。今度は奥にある箱を開けてみた。今度は一番上にあるブラウスに緑の斑点が現れている。三つ目のダンボールに手を伸ばそうとすると、なんだか荷が小刻みに揺れ始めた。地震だ。しばらく揺れてから揺れは横に大きくなった。そしてダンボールの一角が崩れてきた。「ウワー」と言う岩田の声が聞こえた。啓介の上にも大きな段ボール箱がいくつも倒れてきた。階下から女子事務員の悲鳴が聞こえてきた。

文・吉田愛一郎:私は69歳の現役の学生です。この小説は私が人生をやり直すとすればこうしただろうと言う生き方を書いたものです。半世紀若い読者の皆様がこんな生き方に興味を持たれるのであれば、オルタナSの編集スタッフにご連絡ください 皆様のご相談相手になれれば幸せです。

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