タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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◆春の蠢動

敏夫が炊き上がった電気釜を持ってきた。米が釜から盛り上がっているように見えた。末広は「よめ菜を手で千切ってこの中に入れてくれ」「ティアー トウ ピース」とリズに言った。

「ティア イントウ ピーセズ」と啓介が言うと「口ばかりでなく手を動かせ」と末広が笑った。
千切り終えると、少し山になった緑のよめ菜をテーブルからすくってそれぞれ釜に入れた。
敏夫がしゃもじでかき回して、ほかほかの湯気が上がっている。飯に醤油を渦巻状に垂らした。醤油の臭いがほのかにしたので啓介は生唾を飲んだ。末広はベランダから庭に下りて、いくつかの大きな熊笹の葉をむしり取って来た。その葉を皆に渡すとそれに飯を乗せて口に運んで「うめえ」と言った。皆もそれに倣って熊笹でよめ菜飯を掴んで口に入れると、
「うまい」
「good」
「いけるじゃあ」
甘くてほろ苦い春の味がした。

「こんなもの喰ってれば金も要りませんね」啓介がバースに熊笹に乗った飯をやりながら言うと、「それはそうだが、商売は先立つものがなければなあ」と末広が天井を向いて慨嘆した。
「えっ、親父さん金ないんですか」
「殆どない」
「じゃこれからどうするんですか?」
「すぐ金になることを皆で考えるんだ」
「……………」三人が沈黙していると、「仕事ってものはそういうものだ」末広は自信に満ちた表情で言い放った。「金は誰かが運んできて、自分たちは使うだけと言う考え方が会社を潰す」

啓介は末広が責任を転嫁していると思いながらも、それはその通りだと思った。
「じゃ皆で少しずつ金を出しあいましょうかね」と啓介が言うと「それはそれでいい。だけどそんな金はすぐになくなる」と末広が言い放った。「金が要るなら、それを集めるところから仕事は始まる。それは経営者のやる事だという考え方が君たちに有ると言うなら、それをサラリーマン根性と言うんだ」日本の世の中では通用しない考えだが、それもそうかもしれないと啓介は考えた。

丸の内に群がるリクルートスーツの若者は、金が既にある大会社に、人を押しのけ我先に就職しようとする魚群だ。一年以上も努力や策を弄して目指す会社に押し掛ける。それはその会社に組織と金が既に有るからだ。

では就職活動の労力を組織作りと金集めに費やしてみたらどうなるのか。あるいは元金が掛からないビジネスモデルを考えたらどうなのか。アメリカの若者ならそう考えるだろう。リズも驚いた様には見えなかった。リズはアメリカ流のベンチャーを色々見てきた。創業する青年たちは殆ど無手勝流だった。

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